魔王と皇子
-Main story- 9−4
by Souki
俺は魔王レインと向かいあっていた。
越志や魔王の側近もいない。
場所まで移して話をするなんて、奴が一体何を考えているかわからない。
俺は、警戒を怠る事はしなかった。
「すまんな。ソウキ殿。実は城内に反逆を企てているものがいてな。私の動向を嗅ぎ回っている。だからあのような場所ではこういった話ができなくてな。側近の中に謀反者がいるのは確かなのだ。だが、特定までにいたっていない。きっと、今回の魔物の様子がおかしいのは、祠が原因ではない。誰かが裏で糸をひいている。きっと人間の地で起きた魔物騒動も同じやつの仕業で間違いないだろうと我は考えている。」
先ほどとは打って変わってレインの態度は友好的になっていた。
凛とした姿勢は変わらないが、口調は先程よりも柔らかだった。
あの威圧的な態度は、側近達の手前といった感じだったようだ。
「本当は私が直接祠に向かって様子を見に行けば済む話なのだがな。だが、なんだかんだと言われ城から出してはもらえんのだ。本当はシグレ殿にこんな手間をかけさせたくはなかったのだがな。」
レインはふっと憂いた顔をした。
(彼は時雨について何か知っていることがあるのではないか。)
そんな風に俺は感じていた。
「失礼を承知でお聞きしますが、時雨について何か思い入れがおありですか?」
レインが眉をピクリとさせたのを俺は見逃さなかった。
彼は目を閉じて何やら考え込んでいるようだ。
「まぁ、態度でわかってしまうか。確かに彼女に思い入れがある。だか、今はまだ貴殿に話をすることはできん。話をするなら、彼女に先に説明するのが道理だしな。」
確か彼女の母親は魔人だったはずだ。
それと何か関係しているのかもしれない。
「話を戻していいか。実はな、今回の謀反者だが1人だけ心当たりがあるのだ。確かな証拠はない。手がかりもない。だから、奴を直接問いただす事ができんのだ。」
何やらレインは思案しているようだ。
「そうだな、貴殿に提案があるのだが。共の者と一緒にシグレ殿のサポートをしてもらえないだろうか。貴殿なら、彼女が気が付かない所に目を向けることができるだろう?これは、内密な話だ。私が頼んだのではなく、貴殿が、彼女を心配して行動を共にするていでお願いしたい。」
都合のいい話だ。
なぜ俺がそんなことをしなければならないのか。
「私にスパイになれと?」
「まぁ、ハッキリ言ってしまえばそうだな。」
レインが、俺の物言いに苦笑いを浮かべていた。
「我々にメリットは?」
今の俺は人間族代表としてこの場にいる。
こちらに利のない話ならわざわざ危険な橋を渡る必要はない。
「メリット、メリットなぁ。貴殿のメリットといえば彼女を守り、彼女の危機をさけることができる…ぐらか。彼女に好意を持っているのだろう?きっと、謀反者は時雨の事を疎ましく感じているはずだ。」
時雨がなぜ疎ましく思われているのだろうか。
個人的には時雨を守るのはやぶさかではない。
だが今は個人的な理由を優先させる事はできないのだ。
「今回の祠への偵察は、時雨をこの魔族の地へ招く為の口実だと思っている。彼女さえどうにかしてしまえば、人間の地など容易く侵略できる。私でも人間という存在など赤子の手を捻るようなもんだ。導神族がいなければ、千年もの間、この島の平穏は保たれていなかったであろうな。」
レインは、カップを手にとり喉を潤していた。
「あぁ、勘違いするなよ。貴殿の従える兵士達が弱いと言っているわけではない。我々は魔力を使えるからな。魔力なしで勝負したら我々魔族は敗者となるだろう。その我々の力を封じる手立てを持っているのが導神族なのだ。とりわけ長は力が強くてな。」
っと、レインは導神族の持つ力のについて語りはじめた。
「まぁ要は、シグレがいると我々にとって不利になるというわけだ。私は別に戦いなど望んでおらん。むだな争いを起こし、血を流すことなど無意味だと思っている。互いに平和に過ごせているのだ。それでよいではないか。」
だか、家臣の中には彼の思想をただの逃げだと非難するものがいるらしい。
〝我々は好きで魔人として産まれた訳ではない。”
〝神の独りよがりな思いで、産まれたのが我々なのだ。”
〝神は敵である。神を崇めるものなど絶やしてしまえばいい。”
っと考える者も一定数いるのだと、レインは話していた。
「だから、シグレに何かあれば、貴殿の民達もどうなるかはわからんぞ。」
裏を返せば脅しのようにも聞こえるが、レインの言っていることも一理ある。
彼女が死んでしまっては、神の力を宿した子は生まれず、導神族は途絶えてしまう。
そうすれば、今まで保たれていた均衡も崩れ、千年前の様に、無意味な争いが続くことになるだろう。
それに、俺にとっても彼女を失うことは、とても耐えられるものではない。
「わかった。彼女の命を守ることは約束しよう。だが、犯人探しは俺の預かる事ではない。何か情報が掴めれば提供するが、それ以上は関与はしない。」
あくまで俺は俺の意思で、愛する者を守る為に行動をするのだ。
「それでいい。ありがとう、ソウキ殿。シグレのこと、頼んだぞ。」
(いったいレインと時雨はどういった関係なのだろう?)
レインは、彼女の事を想い、彼女のことを案じていた。
それは、家族へ向けた慈愛な様なものに似ていると俺は感じていた。
その後、レインとの話合いを終えた俺は、明日の案内役として、ロイールという男を紹介された。
彼はとても聡明で、その上、腕も立つ人物のようだ。
誰もが認める優秀な男で、王女の婚約者に選ばれた名誉ある人物なのだとか。
ただその男はとても胡散臭く、腹の中に一物を持っているような奴だと、俺の直感は警告を発していた。




