異端な訪問者
-Main story- 9-1
南の村から戻ってから数日が経っていた。
今日も屋敷の中は賑やかだった。
「おぉーい、暁翔、ちゃんと燃やせ。火がつかなきゃ料理は作れないぞ。」
暁翔が里にやってきて、巡地守神から導神族として無事認められたのはよかったが、呪札が昔のように上手く使いこなせず、陸のスパルタレッスンを受けていた。
「そんな小さな火じゃ薪は燃えない。もっと大きく。イメージをしっかりもって集中しろ。」
ここ数日、訓練の為に、食事作りは暁翔が担っていた。
その代わり、彼が村でやっていた社の管理は、閤央と海が行ってくれていた。
閤央は海を送り迎えしていて、海が手入れをしている間は、狼鷲とお茶会をしているらしい。
まったりとしている2匹を想像すると、ほっこりとした気分になってくる。
そんな事を想像していたら、暁翔の歓喜の声が上がった。
「できた‼︎火がつきましたよ‼︎」
「火がついただけで喜ぶなよ。何回失敗したと思っているんだ。」
そんな二人の様子を、私は土間の片隅で少なくなってきた呪札の補充を作りながら眺めていた。
「すみません。時雨さん。沢山失敗してしまって。お手数おかけしてます。」
「大丈夫。私も初めのうちはよく失敗していたし。みんなが通る道だもの。頑張って。」
そう励ますと、なんと慈悲深いっと暁翔は目を潤ませていた。
しかし、間を空けず陸の叱責が入る。
「気を散らすなよ。炎の勢いが不安定だぞ。海達が戻ってくるまでに、飯を作り終わらせないと、いつぞやの二の舞になるぞ。」
そう言われ、暁翔の顔がさぁっと一気に青ざめる。
「はっ、はいわかっています。急いで作ります。」
食事作り初日は食事の準備が間に合わず、帰ってきた閤央と海に、口に出すのもはばかられることをされたらしい。
暁翔はあんな思いは2度はごめんだと、再び食事作りに集中する。
「時雨様。紙作りの方は終わりましたよ。沢山作っておいたのでしばらくはもつと思います。」
外で呪札用の紙を作っていた空が作業を終えて戻ってきた。
空は、私の横から土間を覗き込んでいた。
「おや、暁翔まだ食事を作り終えていないのですか。もうすぐ海達が帰ってきますよ。」
空が暁翔にさらに追い打ちをかけていた。
「わかってますよー。急かさないでください。」
暁翔は涙目になりながら、グツグツと湯が沸いた鍋に材料を次々と入れていく。
そんな騒がしくも楽しい昼下がり、1人のお客様がやってきた。
「すみません。」
表から女性の声が聞こえてきた。
「おや、お客様ですか。」
対応する為に空が玄関へと向かった。
家の中へ客人を招き入れた空は、
「どうぞこちらへ。」
っと、客人を応接室へ案内しているようだった。
誰だろうと思っていると、渋い顔をした空が戻ってきた。
「時雨様。魔族の方がお見えです。」
私は、母様以外の魔人を知らなかった。
多分今生きている一族の中の最年長者でも母以外の魔人に会った経験はないだろう。
それだけ平和な日々が続いていたのだ。
突然この地を訪れた魔族に兵士も警戒しており、見張り役として外で待機しているのが窓越しから見えた。
「念の為、私も一緒にお側で待機させていただきます。」
っと、空も警戒しているようだった。
異端な訪問者。
魔物が活発に動き回っている魔族の地。
そして、人間の地で起こった魔物騒動。
よい話ではなさそだと思いながら、私は応接室へと向かった。
訪ねてきた魔人はイロハといい、王妃に仕えている侍女らしい。
どうやら魔族の地で魔物達が活発的に動きまわるようになり、魔人達の住む町までやってきては暴れ回り、対処するのに困っているという。
魔族の地にも、守神として、五神の一柱である富栄神が祀られていた。
富栄神は、魔物と魔人が共存ができる様にと森に結界を張り魔族の地を見守っていた。
だから、今までは町に魔物達が入ってくることはなかったという。
それなのに今回、魔物が森から出てきて、魔人達に被害を出すようになったのは、富栄神を祭っている祠で何かあったのではないかと考えているようだ。
「……。なので、どうして結界が破れてしまったのかを調べ、対処をして欲しいのです。」
それがイロハの訪ねてきた理由だった。
祠に異常があるのが、他に原因があるのか。
祠には我々導神族のものか、魔族を納めている王と王妃にしか近づけないように術を施してある為、いくら王族に仕えている身分でも祠へ近づくことはできないのだ。
魔族側の要請がない限り我々導神族は干渉しないと元々、双方の間で取り決められていた。
「代々王妃様が祠の管理をしてくださっていると聞いていますが、王妃様はどうされたのですか?」
「王妃は、体調を崩されていて城内から外に出る事が困難な状態なのです。もし王自ら赴き、その身に万が一の事があっては困るので、導神族の方にお願いしたいのです。」
2つ返事で承諾したい所だが、正直我々も現状手いっぱいな所があった。
「そうですか。ではすぐに様子を伺いに行きましょう。っと言いたい所ですが、今我々もちょっと混みいった状態でして、すぐにはお伺いすることはできません。数日時間を頂いてもいいですか。こちらも、準備などがありますので。」
私の返答に、イロハは顔色ひとつ変えず淡々としていた。
「わかりました。では、3日後またお迎えにあがりますので。」
用件だけをサッサと済ませ、イロハは帰っていった。
私は、どうしたものかと頭を悩ませていた。
今、導神族として動けるのは私と奈々美さん、そして暁翔の3人だけだ。
奈々美さんは、自分達の村で手一杯だろうし、暁翔はまだ呪札を使いこなせるまでに至っていない。
となると私が行かなければならないのだが、今度は里の留守を誰が守るのかという問題が生じてしまう。
イロハさんを見送ってしばらくすると、海達が帰ってきた。
「たっだいまー♪お腹すいたー。」
「ぐるぅー。」 『帰ったぞ。ん?飯はまだか。』
机の上に料理が並べられていないので、閤央の眉がピクリと動く。
「おっ、おかえりなさーい。ちゃんとできてますよー。温かい内に食べていただきたいんで待ってました。今からお出ししますから。」
暁翔の声が上擦っていた。
きっと今できあがった所なんだろう。
慌てて料理を皿に盛り付け運んでいた。
暁翔は、なんとか恐怖の時間を回避する事ができたようだ。
みんなで食事をしながら魔人の訪問者についての話題をあげる。
「さっき、魔族のお客様が来たの。手をかして欲しいって言っててね。」
情報共有をするため詳細を伝える。
「それで、どのように動こうかと考えているんだけど。」
「はい!私がお供します‼︎」
っと間一髪入れず意気込んできたのは暁翔だった。
しかし、というか、やはり即座に陸に却下されていた。
「駄目だ。お前はまだ呪札を使いきれていない。ついて行く方が足手纏いだ。」
そういわれ、暁翔はがっくりと肩をおとしたていた。
「まぁ、意気込みは立派ですよ、暁翔。しかし、あなた1人を里において行くにはまだ心許ないですしね。」
「空斗さんまで…。」
空にまで突っ込まれ、落ち込んだ暁翔は、〝僕だって頑張ってるんです。“と机にのの字を書き始めてしまった。
「ドンマイ、暁翔♪」
〝それ慰めてくれてます?“っと海に向かってぼやく暁翔を無視して話は進んでいく。
「僕が残ってもいいけど、空はどうする?陸は絶対時雨のお供だよね。」
「なんで俺が絶対行く前提なんだよ。いやっ、いくけどよ、海が決めるのは違うだろう‼︎」
海に噛み付く陸をなだめていると、閤央が唸る。
「ぐるぅー」 『私は一緒に行こう。海と暁翔だけでは心配だ。空もここへ残れ。』
みんなに閤央の言葉を伝えると、空は〝確かに。“っと閤央の意見に頷き、〝ゴウちゃんそれ酷くない⁉︎“っと海が抗議していた。
黙っていればいいのに暁翔が余計な口を挟み、
「俺と同じ立ち位置っすね。」
と海にツッコミを入れたため、拗ねた海からみぞおちパンチを食らっていた。
魔族の土地でどれだけ滞在するかわからない。
だから、イロハさんが戻ってくる3日後までにできるだけの備えをするのがベストだろうっと言う事でこの話は落ち着いた。
初めて足を踏み入れる魔族の地。
この時、私の中には、好奇心と不安が入り乱れていた。




