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時越想 〜時を越える想い〜  作者: はらぺこワンコ。
第八章 魔物の出現
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平和な日常へ

-Main story- 8-6

翌朝、私はベットの上で目を覚ました。

どうやら泣き疲れ彼の腕の中でそのまま寝てしまったようだ。

きっと想輝様がここまで運んできてくれたのだろう。

枕元には書き置きが残されていた。


『私は陛下に報告があるから朝早くにここを出る。

何かあったら遠慮なく頼ってくれ。 想輝。』


想輝様がいないことに寂しさを感じたが、昨夜の事を思い出すと心が温かくなっていた。

お礼をしなければと考えていると、部屋の扉がトントンと叩かれた。


「おはようございます。時雨様。入ってもよろしいですか?」


扉の向こうから空の声が聞こえてきた。

〝どうぞ“っと返事をすると、盆を持った空が部屋に入ってきた。


「おはようございます。朝ごはんをお持ちしました。」


空が、パンと湯気をあげたスープをテーブルの上へ並べてくれた。


「お食事こちらにおいておきますね。想輝様は朝早くここを発たれました。村の方は今の所問題なさそうです。疲れもまだ残っているでしょうから、今日は一日滞在して様子をみつつ、明日、里に戻りましょう。海にもそう伝言をしておきました。」


空の手際の良さは昔から全然変わっていない。

昨日お茶を飲んだ副産物として、忘れていた幼い時の記憶が戻っていた。


「空、ありがとう。父様(とうさま)は、いつも物事をスムーズに運べるのは空のお陰だって言ってた。あの時はよく意味がわからなかったけど、今なら理解出来る。いつも手を貸してくれてありがとう空。これからもよろしくね。」


にっこりと微笑むと、空は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに泣き顔へと変わっていった。


「時雨様、昔の事を思い出してくれたのですね。グスっ。私は、私は嬉しい限りですぅ。」


前に陸や海が”冷静な空が普通“っと言っていたのがピンと来なかったが、記憶が戻った今では空の様子が変わっているのが良くわかる。

その変化は、空が私に心を許してくれているようで凄く嬉しかった。


朝食後、私は身支度を整えると、陸を従えて村の様子を見て周ることにした。

以前訪れた時とは様子は変わっており、家が立ち並び、各々が地に足をつけ生活を営んでいる様子がみてとれた。

今は魔物騒動で村の中は静かだったが、騒動が起こる前は穏やかに楽しく過ごせていたのだと、玄関先に並ぶ花や置かれた風車から感じ取る事ができた。

そんな村の様子を眺めつつ、以前、祠のあった場所へやってきた。

そこには立派な社が建てられ、しっかりと手入れもされている様子だった。

村人達は、狼鷲との約束をしっかり守ってくれていたようだ。

彼らに起きた良い変化に嬉しさが込み上げてきた。


『昨日は手柄だったな。』


突然聞こえた声に辺りを見渡すと、社の影から狼鷲が姿を現した。


『確かに閤央が言う通り、お前は大した者だな。歴代の長よりも見込みがある。我もお前を認め、この土地の者達に手を貸すことにしたぞ。』


狼鷲は私の前で座りこみ、片手を私に差し出し握手を求めてきた。

私は躊躇う事なくその手を握りかえし、狼鷲に認められた事を喜んだ。

そして村人が約束を守り社を完成させ、神を敬う事を思い出してくれた事も狼鷲が私を認めてくれた要因の一部だと感じていた。

すると、遠くの方から私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「長様ー。少しお時間よろしいですか。」


声の方へ振り向くと、1人の青年が息を切らしながら私の方へ駆け寄ってきた。


「こんにちは。私は…暁翔(あきと)と言います。長様に…お願いが…。」


彼は、膝に手をつき息を整えていた。

息を切らしてまで私を呼びにきたのだ。

残っていた魔物が出たのかもしれない。

何があったのか聞こうとすると、青年は私を真っ直ぐに見据えて口を開いた。


「長様‼︎私をもう一度導神族として認めてもらう事はできませんか?」


と、予想外の事を告げられ面を食らってしまった。

呆気に取られていると、暁翔は慌てた様子で言葉を続けた。


「あっすみまん。突然過ぎますよね。前にもう導神族と名乗る事は許さないって言われているのに。でも、僕は本気なんです。今回の騒動で村を守るために何もできなかったのがもどかしかったのです。前ならば呪札を使ってある程度の応戦ができたと思うんです。前回の狼鷲との騒動があってからずっと考えていました。長様が言う通り、自分達の村のことなのに、我々は歪みあってただけで、何も行動を起こそうとしなかった。兵士さんが仲裁に入り、そして、尽力してくれたおかけで、私たちはこうして生活を立て直す事ができました。長様も僕たちを見捨てず今回も手を差し伸べてくれました。正直まだ村人の中に長様に対して否定的な者はいます。でも、僕はまた導神族としてみんなを守りたい‼︎ですから、私を導神族として認めてもらえないか考えて欲しいのです。」


〝お願いします‼︎“っと彼は勢いよく頭を下げてきた。

いつの間にか姿を消していた狼鷲が念を飛ばして語りかけてきた。


『その青年は本気だぞ。この社ができてから毎日欠かさずここへきては、供物をし、掃除など熱心にやっておる。若いのに熱心な男だ。』


既に彼の話から誠意と熱意はは充分に伝わっていた。

それに加えて狼鷲が彼を認めているのなら、私が反対する理由は何一つない。


「そのように思ってくれて私は嬉しいです。前回私も怒りに任せて言い過ぎたこと謝ります。でも、力を与えるかどうかは私の一存ではどうにもなりません。一度、里へきて、巡地守神へ願いを伝えるといいでしょう。既に1人巡地守神に認められた者もおります。貴方の行動や熱意が確かなものであれば巡地守神も認めてくださると思いますよ。」


そう伝えると、暁翔さんの顔から笑顔が弾けていた。


「ありがとうございます。この後里へ戻られますよね。私もお供させてもらって良いでしょうか。」


善は急げとはやる気持ちを抑えられない暁翔さんは前のめりになっていた。


「えぇ良いわよ。明日の朝発つ予定だから準備を整えておいてくれる?」


彼は、急いで準備してきますっと頭を下げると、嬉しそうに走り去っていた。


「この村にもまともな奴が出てきたって感じだな。」


黙ってそばに控えていた陸の顔も満更ではなかった。


「そうね。嬉しい限りだわ。」


喜びを噛み締めたまま私は、熾閃煌神(しせんこうしん)へと祈りを捧げる事にした。


(熾閃煌様。この村を、村人を認め、お守りくださりありがとうございます。)


すると、それに応える様に強い風が吹き、風に乗り声が聞こえてきた。


『導神族を束ねる娘よ。頑張ると良い。そなたの心根、確かに受け取った。村人の事は我に任せるといい。』


その慈愛に満ちた声は、風がやむと共に聞こえなくなってしまったが、きっとあの声は熾閃煌神が授けてくれた言葉だったのだろう。

私は再び社に向かって頭を下げてから、その場を後にした。


その後も、村に異変は何もなく安全だと判断した私達は、翌日、予定通り暁翔さんと共に村を発ち帰路につくことにしたのだった。

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