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時越想 〜時を越える想い〜  作者: はらぺこワンコ。
第八章 魔物の出現
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時雨への想い

8-5 -Souki side-

宿で今回の騒動について報告書をまとめていると、誰かが廊下を歩く音が聞こえてきた。

仕斗が外の様子を見にいったのかもしれないと、何気なく窓の外を眺めていると、時雨が外に出ていくのがみえた。


(こんな時間にどうかしたのか。)


昼間の事もあり、彼女の事が気にかかった俺は様子を見に行くことにした。

外はひんやりとしてしていたが空気は澄んでいて星が綺麗に見えていた。


「どうした。眠れないのか。」


夜空を眺めていた時雨に声をかける。


「想輝様‼︎どうしてここに。あっ、もしかして起こしてしまいましたか?」


時雨は、俺を起こしてしまったと勘違いして慌てていた。


「いや、まだ起きていた。窓から君の姿を見かけてな。大変な1日だったし。気になって様子を見にきたんだ。」


何やら考え込んでいた時雨の様子を伺う。

1人にしておいた方がよかっただろうか。

俺が来たことで彼女を悩ませてしまっていては意味がない。


「その、身体は大丈夫か。いや、身体だけじゃなく、あのような状況は初めてだっただろう。」


昼間の妙子達との出来事はきっと時雨にとって初めての事だったに違いない。

その事で思い詰めているのではないかと心配していたのだが、余計なお世話だっただろうか。

内心焦りながら時雨の返答を待っていた。


「気にかけてくださりありがとうございます。私は大丈夫です。」


時雨は心配ないと俺へ微笑みかえしてきた。

でも、その顔は涙に濡れていた。

俺は思わず彼女の顔へ手を伸ばし、指先で彼女の涙を拭っていた。


「大丈夫なら、なぜ泣いている?」


俺の言っていることが理解できなかったのか、時雨も自分の頬へ手を当てていた。


「あれっ?なんで涙なんか。私は自分のやるべき事をやっただけなのに…。」


時雨は必死になって泣くのをこらえようとしていたが、彼女の瞳からは涙が溢れて止まらなかった。


「ごめんなさい。泣くなんて情け無いですね。こんなんじゃ立派な長になんてなれないですね。」


力無く笑う彼女を見て、心が痛んだ。

彼女に寄り添いたいと、俺は衝動に任せ時雨を抱きしめていた。


「君は立派に長としての役目を果たしていたよ。自分が苦しい想いをしている時に私や陸を気にかけてくれていたし、妙子や廉時の事も、そのまま放置していたらこの村の者達も魔人となっていた事だろう。君の選択は何一つ間違ってはいなかった。」


どのような言葉をかけたら彼女の心に寄り添えるだろうか。

思案しながら言葉を紡ぐ。


「ただ今回は残念な結果となってしまっただけ。これからもこのような事があるかもしれない。君は優しすぎるから、その手で奪った命に涙を流すだろう。でもそれは悪い事じゃない。泣きたい時は泣けばいい。仕斗や私の胸をかりその感情を抑え込まず吐き出せ。でないと君の心が壊れてしまうぞ。」


彼女を安心させようと背中を撫でる。


「君のその優しさに周りのもの達は助けられているんだ。私もその中の1人。だから君が悲しい時、辛い時には助けになりたいと思っている。だから遠慮せず頼るんだ。1人で全部抱え込む必要はないんだよ、時雨。今は思う存分泣け。今宵は私に君への恩返しをさせてくれ。」


俺の気持ちが届いて欲しいと、抱きしめる腕に力を込める。

もしかしたら彼女はこの腕を振り解いてしまうかもしれない。

そう懸念していると彼女の身体から力が抜けたのを感じた。

そして俺の胸にしがみつくように顔を沈め声を出し泣いていた。

時雨が気持ちを受け入れてくれた事に俺は安堵した。


今夜の様に悲しみ苦しむ彼女の側にいて、すぐにこうして抱きしめることができたらどれだけいい事か。

仕斗と同じように、俺も彼女を見守っていたい。

でも、皇子として産まれた俺には、そんな些細な願いでさえも自由にかなえる事はできないのだ。

こんな日は、自分の宿命を呪ってしまう。

俺の役目は国民を守り導くこと、1人の女性にこの身を投げ打つことなど許されないのだ。

だから一緒にいられる時は、少しでも長く彼女の側にいたかった。

そんな想いを胸に秘めながら、泣き疲れて寝てしまった時雨を部屋まで運ぶ。


(このまま時間が止まってしまえばいいのにな。)


彼女の寝顔を見ながら、女々しいことを考える自分に呆れてしまう。 


(無理をするなよ、時雨。)


そんな想いをこめて、俺は彼女の額へと口付けた。

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