抱擁
-Main story- 8-5
by Sigure
魔物騒動の後、空の長いお説教から解放された私は、身体を休める為に宿へときていた。
ずっと立ち込めていた闇も晴れ、月の光がない分、星が一段と輝いてた。
(不思議。ここへ向かってくる時は月灯がないのが心細かったのに、今はそのおかげで星が綺麗だと感じるなんて。)
身体は疲れきってはいるものの、昼間の騒動が強烈すぎて中々寝付くことができなかった私は、外に出て夜空を眺めていた。
「どうした。眠れないのか。」
声をかけられ振り向くとそこには想輝様が立っていた。
「想輝様‼︎どうしてここへ。あっ、もしかして起こしてしまいましたか?」
想輝様は既に寝ていると思っていた。
「いや、まだ起きていた。窓から君の姿を見かけてな。大変な1日だったし。気になって様子を見にきたんだ。」
想輝様を導神族の出来事に巻き込んでしまった。
ただでさえ忙しいお方だ。
私達の事で仕事を増やしてしまい、更に気遣いまでさせて心苦しかった。
「その、身体は大丈夫か。いや、身体だけじゃなく、あのような状況は初めてだっただろう。」
想輝様は、きっと私が妙子や廉時を殺めた事を気にかけてくれているのだろう。
確かに人をこの手で殺めたのは初めてだった。
でも私は一族を束ねる長なのだ。
遅かれ早かれこのような事態は訪れていただろう。
「気にかけてくださりありがとうございます。私は大丈夫です。」
私は心配ないと想輝様へ微笑みかえすが、想輝様は手をスッと伸ばすと、私の目元を撫でていた。
「大丈夫なら、なぜ泣いている?」
泣いている?想輝様の言っていることがわからず自分の頬へ手を当てる。
ひんやりとした感触が指先に触れた。
「あれっ?なんで涙なんか。私は自分のやるべき事をやっただけなのに…。」
気がついたら次から次へと涙が溢れてきた。
想輝様の前だ。泣くな私。
また余計な心配をかけてしまう。
「ごめんなさい。泣くなんて情け無いですね。こんなんじゃ立派な長になんてなれないです。」
想輝様に力無い笑いをむける。
すると、想輝様は、私の腕をグッと引きよせると私を抱きしめた。
「君は立派に長としての役目を果たしていたよ。自分が苦しい想いをしている時に私や陸を気にかけてくれていたし、妙子や廉時の事も、そのまま放置していたらこの村の者達も魔人となっていただろう。君の選択は何一つ間違ってはいなかった。」
想輝様は少し間をおいてから話を続けた。
「ただ今回は残念な結果となってしまっただけ。これからもこのような事があるかもしれない。君は優しすぎるから、その手で奪った命に涙を流すだろう。でもそれは悪い事じゃない。泣きたい時は泣けばいい。仕斗や私の胸をかりその感情を抑え込まず吐き出せ。でないと君の心が壊れてしまうぞ。」
想輝様は私の背中を優しくそっと撫でてくれていた。
「君のその優しさに周りのもの達は助けられているんだ。私もその中の1人。だから君が悲しい時、辛い時には助けになりたいと思っている。だから遠慮せず頼るんだ。1人で全部抱え込む必要はないんだよ、時雨。今は思う存分泣け。今宵は私に君への恩返しをさせてくれ。」
ギュッと優しくでも力強く想輝様は私を抱きしめてくれていた。
私は想輝様を助けた事は一度としてない。
むしろ迷惑をかけてばかりだ。
助けてもらっているのはいつも私の方。
いまだってそう。私を気遣ってくれている。
本当はこの腕を振り払わないといけないのだろう。
でも今は、今だけは想輝様の優しさに甘えたかった。
夜風は冷たかったが彼の腕の中は暖かく、私は子どものように声を出し泣き続けた。




