話し合い
-Main story- 7-5
by Sigure
里を発ってから数日、北の村に着いたのはちょうど新月の夜だった。
月明かりがないせいか星の明るさが際立ち、いつもよりも輝いて見えていた。
一晩は奈々美さんの家でお世話になり、村人達との話し合いは明日という流れになった。
翌日、奈々美さんが皆に呼びかけると、広場に人々が集まってきた。
私達が姿を現すと彼らは、互いに身を寄せ合いヒソヒソ話を始めていた。
「あいつは仕斗の1人だよな。」
「空斗だよ。血も涙もない冷徹男の。」
一人の発言に周りにいた者達が次々と会話に加わっていく。
「あいつがついてくるって事は時雨が正当な長になったってことか。」
「まさか。だって閤央を呼び出せないんだろう?」
それが呼び水となり話の内容がどんどん広がっていく。
「時志様はどうなったんだよ。」
「ここにはいなかったから、南の祠にいると思っていたが。」
彼らは、私達に聞こえていないと思っているのか好き勝手に話を続けていく。
私の事を色々言われるのは当たり前だろう。
しかし、根の優しい空が冷徹男と呼ばれているのはなぜなのか。
そういえば前に陸が〝空は冷静なのが普通だ“と言っていた。
私の知らない空の側面がまだあるのかもしれない。
私はチラリと空の様子を伺うが、空に変わった様子はなく、いつものように私を護るように側に控えてくれていた。
そんな事をぼんやりと考えていると奈々美さんが指揮をとって話し合いができるよう場を整えてくれていた。
「みんな静かにして。始めましょう。」
奈々美さんの声かけでその場は静まり、彼女が進行役となって話合いは始まった。
「今日は時雨さんが、皆の疑問に応える為に来てくださいました。まずはじめに、皆を代表して私が時雨さんに謝罪をします。以前来ていただいた時に私達は酷い態度を取ってしまいすみませんでした。また今回我々のわがままでこの村まで足を運んでくださりありがとうございます。」
奈々美さんは私の方を向き、深々と頭を下げていた。
「過ぎた事はもういいです。頭を上げてください。今日はみなさんとのわだかまりが少しでも解ければいいと思っています。何からお答えしましょうか?」
私が問いかけると、爺と呼ばれていた人がスッと手を挙げた。
「とりあえず私からいいだろうか。今里はどの様な状態になっているのだ。」
彼らは里を出てからずっとここで生活している。
かつて暮らしていた場所がどうなっているのか気になるのは当然の事だろう。
「私が正式に長となり仕切っています。式典など導神族として成すべき事はしっかり執り行なっています。里の様子ですが、瓦礫などを片付けつつ、またみなさんが里での生活ができる様にと建築作業なども進めています。他に聞きたいことはありますか?」
そう再び問へば、村人からは様々な質問が上がってきた。
あの暴風はなんだったのか、どうしてこんな状況になったのか。
時志様はどうなったのか、などの全ての質問に1つ1つ丁寧に、私はありのままを包み隠さず話をしていった。
時志は既に死亡している事や私が閤央を呼び出せなかったのは時志が私に術をかけていたからなど、全ては彼が長の地位につこうと企み動いていた事が原因だったと順を追って説明していった。
「これらの事は、私も仕斗から聞いた話です。私は熱にうかされ意識も朦朧としていて何もできずにいました。彼の死により術は解けて、私は一命を取り留めましたが、力の暴走で里を滅茶苦茶にしてしまったのは私が原因です。本当にごめんなさい。」
私の話を聞き納得してくれた人もいる様子だったが、半信半疑で疑っている人も一定数いる様だった。
すべての質問に答え終えた頃には、日はかげり始ていた。
ぼんやりと茜色の空を眺めていると、大きな羽を広げこちらへ飛んでくる閤央が姿が目に入った。
地上へと降り立った閤央は珍しく慌てた様子だった。
「グルゥー」『時雨、緊急事態だ。話をしている場合ではなくなった。』
閤央の登場で、周りがざわついていた。
「聖獣様だ‼︎」
「閤央がいるぞ。」
閤央を見た人々は驚きを隠せない様子だった。
「力が封印されていたというのは本当のことだったか。」
「じゃぁ、さっきの話も全て本当だったてことか。」
広場には様々な声が入り乱れていた。
閤央は周りの様子には目もくれず、私を急かすように話を続ける。
「グルー」『魔物が人間の地にいた。』
閤央の言葉に胸の中に渦巻いていた嫌な予感はこの事だったと確信した。
しかし、人間の地に魔物がいるなんておかしなことだった。
結界を破って入ってくるのは、魔人でもなければできないはずだ。
魔物が入り込んでいたなら結界が破れていたということか。
いや、でも見回っていた時は異常はなかったはず。
考え込む私を見て空が声をかけてきた。
「何が起きたのですか?」
空は、閤央の唸るトーンから何か大変な事が起きていると察したようだ。
「魔物が入り込んでいるようなの。」
魔物というワードを聞き、先ほどの喧騒が嘘のように広場は鎮まりかえっていた。
「グルー」『南の村だ。まだ大きな被害は出ていないが、時間の問題だ。』
私は、続けて閤央の言葉を通訳していく。
「南の村で魔物が出たと言っている。今すぐ行かなくちゃ。」
私は、再び村人達に向かって話し出す。
「皆さん、先ほど話した事が全てです。全員が納得してくれるまで話し合いを続けたかったけど、今はそれどころじゃないみたい。まだ聞きたい事があれば空に聞いてください。」
今度は空に向かって言葉を投げる。
「空、あとはよろしくね。ここが落ち着き次第あなたもきて頂戴。」
「はっ。かしこまりました。」
空は胸に手を当て私に頭を下げていた。
「奈々美さんそういう訳だから私はもう行くわ。最後までいられなくてごめんなさい。」
「時雨さん。お気をつけて。」
奈々美さんは予期せぬアクシデントに戸惑いながらも、私を快く送り出してくれた。
「グルー」『急げ』
閤央は私を背に乗せるや否や、薄暗くなった空へと翔けだしたのだった。




