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時雨の過去

-Main story - 7-1

by Nanami

里をでて、秋の涼やかな風を感じながら、颯真さんと並んで歩いていく。


「さっき、時雨さんに呼ばれていたけど、何かあったのかい?」


考え事に耽っていると、颯真さんが心配して声をかけてくれた。


「時雨さんに里に戻って来ないかって言われました。」


時雨さんとのやり取りを思い出し、もらった腕輪に触れる。


「私達は里から出る事になった時に、巡地守神から導神族の力も一緒に取り上げられてしまったんです。あっ、導神族の力っていうのは、神様の声を聞くことなんですが…。『神の声が聞くことができる』それが導神族の証なんです。」


高く感じる空を見上げ、里から出た日の事を思い出す。


「里から出ることになった日に言われたんです。神の声がまた聞こえるようになるまでは、里に戻ってくることは許さないって。」


心地よい穏やかな風が、私の心を軽くしてくれるようだった。


「ん?神様に⁇。」


「はい。神が認めた人でないと声は聞こえません。声が聞こえるという事は神からの許しがでった事なんだそうです。」


時雨さんは私にそう説明し、それを確認するために私を呼んだのだと話していた。


「それでどうだったの?」


颯真さんが息をのんでいた。


「また神の声が聞こえるようになっていたんです‼︎。」


神から頂いた言葉を颯真さんにも共有して欲しかった。


「『里にもどりたいなら、村のものに気づきをあたえ、活気をもどさせるのだ。お主は周りの誰よりも早くに気づきを得て、ここで私の声を聞く事ができている。彼らが変われば潤清も手をかしてくれるだろう。子どもたちのようにな。』

って語りかけてくれたんです‼︎」


声が聞こえた喜びを思い出し、気持ちが昂ってしまう。

足取りも軽くなり、タタッと少し前に出て颯真さんと向かい合わせになるように振り向き笑いかける。


「私嬉しくて。頂いた言葉を全うする為に、大人たちの活気を取り戻す事に決めたんです。」


グッと手を胸の前で握りしめる。


「だから、颯真さん、また私に手をかしてくれませんか?」


っと握っていた手を解き、今度は颯真さんの方へと手を差し出す。

颯真さんは、驚いた様子を見せていたが、私の手をとりニッと笑うと、


「当たり前だ。任せろ。」


っと、快く引き受けてくれた。

手から伝わる彼の頼もしさは、私に勇気と前に進む力を与えてくれていた。



山を登り続けて数時間後、日も暮れてきたので、私達は少し広がった場所で野宿の準備を進めていた。

夜の山は少し肌寒かった。

身体が冷えないよう焚火に当たりながら、私は颯真さんに時雨さんがどれだけ凄い人なのかを語っていた。


「時雨さんは、すごいんですよ。始祖様直系の血筋だから、聖獣を呼び出せるんです。里にいた閤央も聖獣なんですが、閤央は直系の血筋で尚且つ長子にしか呼び出すことができないんです。」


「じぁ、南の村で争いの種になってた叔父さんというのは?」


私は、わかりやすいように地面に簡単な家系図を書きながら説明していく。


「時雨さんのお父様の弟。だから長子ではなく、次男です。直系の血筋ではあるので、四方に祀られている神の聖獣は呼び出すことはできます。でも、長子ではないので、閤央を呼び出すことはできません。だから導神族の長の長子というのは、とても、とーっても大切な存在なんです。」


「でも、そんな大切な人をなぜ蔑ろにしていたの?」


颯真さんは、とても不思議そうにしていた。


「その頃の時雨さんは、なぜか閤央を呼び出すことができなくなっていたんです。」


「叔父さんだって、閤央は呼び出せないんだろ?」


颯真さんは、ますます訳がわからないという顔をしていた。


「そうなんですが、どうせ二人とも閤央を呼び出せないなら、子どもの時雨さんよりも、時雨さんの叔父さんを長として扱う方が手っ取り早かったんです。長は何でもやってくれる人。自分達が楽できるのなら、掟なんてもうどうでもいいと思う者がほとんどだったのかもしれません。」


その頃の私は9歳だった。

遊んでばかりいた自分と同じぐらいの時雨さんが、長になると聞いた時は、凄いと思った。

自分だったらそんな重役など背負い切れないと感じていたからだ。


「時雨さんはいつもみんなの期待に応えようと必死に毎日を過ごしていました。大人達の過度な期待は、神童と呼ばれていた時雨さんだったとしても応えることは困難だったと思います。」


子どもの私から見ても全てを1人でこなす事は無理だろうと思うことばかりだった。


「でも、そんな事はお構いなしの大人達は時雨さんの駄目な所ばかりをあげ、役に立たないと思ったらすぐに見限り、時雨さんの存在を無視するようになりました。」


颯真さんは苦虫を噛み潰した表情をしていた。


「そっか。そんな状態、私でも逃げ出すよ。自分達が悪いとは未だに気がついていないのだな。」


私は、颯真さんの言葉にハッとした。


「そこですよ。颯真さん!大人達の気づきっていうのは、自分達にも非があったと自覚することなんですよ。」


突破口が見えた気がした。

でもどうしたら大人達に気づかせる事ができるのだろう。


「なかなか難しそうな課題だな。」


颯真さんも解決策を模索してくれているようだった。

ふっと颯真さんの目線が私の手元へと向いていた。


「奈々美さん、話は変わってしまうが、その腕輪はどうしたんだい。」


〝変わった腕輪だね。“っと颯真さんは、興味深そうに見ていた。


「時雨さんからいただいたんです。精霊の力を扱える腕輪なんですよ。」


教わった事を思い出し、実際にやってみせる。


「うわっ、すごい。どうなってるだ。」


「不思議ですよね。時雨さんが作ったって言ってました。今はビー玉ぐらいの水の塊でしたけど、使いこなせるようになると、水も撒けるようになるみたいです。」


時雨さんは、まるで始祖様のようだった。

始祖様は呪札を作り、皆の役に立つようにと授けてくれた。

時雨さんも始祖様同様に、私の役に立つようにとこの腕輪を作り授けてくれた。

こんな光栄な事はない。


「長話になってしまったな。そろそろ寝ようか。先に私が火の番をするから、奈々美さんは横になるといいよ。」


颯真さんが寝袋を出してくれた。


「ありがとうございます。後で火の番変わりますね。おやすみなさい。」


いつも野宿ではあまり寝れないのだが、颯真さんがいると思うと安心し、私はあっという間に眠りに落ちていった。

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