奈々美の覚醒
Main story 6−11
『〝時雨、好きだ。“
想輝様に真剣な瞳で見つめられていた。
今にも唇が触れそうな距離まで顔が近づいてくる。
私の心臓は壊れそうな程に脈打っていた。
心の準備がまだできてない。
〝待って、想輝様、待ってください‼︎“』
「わぁてうあーい‼︎」
ドンっという音と共に、鈍い痛みが身体中に走る。
痛みに顔をしかめつつ目を開けると、天地がひっくり返っていた。
どうやら私はベッドから落ちたようだ。
それと同時に、廊下がバタバタと騒がしくなり、
「時雨様‼︎」
「何事だ‼︎」
空と陸が部屋に入ってきて視線がかち合う。
「おっ、おはよう。」
気まずさ半分、恥ずかしさ半分。
とりあえずにっこり笑顔で朝の挨拶をしておく。
ベッドから落ちた私をみて、陸がため息をついていた。
「人騒がせだな、時雨。変な声がしたと思ったら今度は大きな音まで聞こえてきて。何事かと思ったぞ。」
「大事でないのならよかったです。」
どうやら、寝言で叫んでいたらしい。
心配させるほどの声を出していたとは…。
「ははっ、ごめん。」
床の上に寝転んだまま、とりあえず陸と空に謝る。
どうやら先程のは夢だったようだ。
(はぁ、変な夢見ちゃったわ。)
昨日の想輝様が原因だろう。
いつもと違う雰囲気を纏っていて、始終ドキドキしていたことを思い出す。
(それに…。)
自分の唇にそっと触れる。
(あれは、キスされそうになってたよね。)
昨日の光景を思いだし、ドドドっと鼓動が速くなる。
きっと今の私の顔は赤いのだろう。
顔を手で覆い、行き場のない気持ちに悶えていると、
「おい、百面相大丈夫か?変な所でも打ったか?」
頭上の方から陸の声が聞こえてきた。
気がつくと空の姿はすでに無く、陸の姿だけがそこにはあった。
「まだいたの陸?」
見られていたのが恥ずかしくて、思わず素っ気ない言い方をしてしまった。
「なんだよその言い方。心配して見にきてやったのに。もう朝ご飯できてるぞ。さっさと着替えてこい。」
っと陸が不貞腐れた態度で部屋を出て行った。
その後も私の鼓動はなかなかおさまらず、夢見心地のまま、しばらく床の上で寝転んでいた。
やっとのことで着替えを済ませた私はダイニングへと向かっていた。
部屋の中のにぎやかな声が廊下にまで漏れ出ていた。
「おはようございます。時雨さん。」
「あっ、おはようございます。お先に頂いてます。」
襖を開け入っていくと私に気がついた颯真さんと奈々美さんが挨拶をしてくれた。
「おはよう。2人とも早いのね。」
挨拶を返すと、
「時雨が遅いんだよ!」
っと、お皿を運んでいた海に怒られてしまった。
「はい、ごめんなさい。」
いつもと変わらない朝のやりとりだ。
いや、今日はいつも以上に起きるのに時間がかかっていたから、海のあたりは一段と強かった。
「ふふふ。時雨さん、朝が弱いなんて意外でした。なんでもできる完璧な人だと思ってました。」
奈々美さんが笑っていた。
「あぁー、奈々美さん朝から目の癒しだわ。毎日同じ顔ばかり眺めているからなんか新鮮。」
奈々美さんの笑顔に、しょんぼりとしていた気分が明るくなる。
「時雨様、そんな風に感じていたんですね。」
ぽろっと漏れ出た言葉だったのだが、それが空の心に傷をつけたようだ。
空がシクシクと泣き始めてしまった。
「空、食事中だ泣くな。鬱陶しい。」
先程の私の態度が良くなかったのか陸は朝からご機嫌斜めなようで、絶好調の塩対応だ。
「はっはっは。朝から賑やかでいいですね。」
そんな様子を眺めていた颯真さんが豪快に笑っていた。
「本当に。こういうのいいですね。」
奈々美さんも颯真さんと一緒になって笑っていた。
こうして無事賑やか(?)な朝の時間を過ごした奈々美さんと颯真さんは、村に戻る為に帰り支度を始めていた。
そんな中で、私は奈々美さんに声をかけた。
「あの奈々美さん、ちょっといいかしら。」
手招きして、奈々美さんを呼び出す。
「なんですか、時雨さん。」
奈々美さんはハテナマークを浮かべたまま、私の呼び出しに応じてくれた。
「あのね、私がいうのもどうかなっと思うのだけど、村が落ち着いたら、その…里に戻ってきてもらえないかしら。」
奈々美さんは驚いていた。
「私がですか?」
「えぇ、駄目かしら。」
流石に急な提案だっただろうか。
考え込む奈々美さんを前にドキドキしながら返答を待っていた。
「私にはここに戻ってくる資格はないです。村で時雨さんに無礼な対応したんですから。」
「私はそんな事は気にしていない。奈々美さんの本心が知りたいの。」
〝ちょっとこっちに来てくれる。“っと奈々美さんを外へ連れ出す。
私は、陸と2人で建て変えた社へと奈々美さんを案内した。
「ここって祠があった場所ですよね?」
「うん、ほら昨日南の村でのこと話したでしょ?あちらが立派な社を作るなら、ここも負けちゃいけないなっと思って、建てたのよ。」
奈々美さんは驚いた表情を浮かべていた。
「えっ、これをこんな短い間に?」
私は奈々美さんに、応えるように頷く。
「私、魔族の血も入っているから、精霊を扱えるのよ。その力を使ってね。」
私は少し間を置いてから本題を切り出すことにした。
「それでね、昔みたいに、神の声を聞いてみて欲しいの。多分今の奈々美さんなら、できると思う。」
私は奈々美さんと視線を合わせた。
「無理にとは言わないけど、もし、奈々美さんが、またこの里で一緒に過ごしてもいいと思ってるなら試してみて欲しい。」
頷いて欲しい。
彼女は今村をまとめ、皆を導いてくれている。
彼女となら手を取り合って、里の復興をやっていけそうな気がするのだ。
同じ船に乗ってくれる仲間が多いに越した事はない。
「時雨さんは、私がここに戻ってきてもいいと思ってるんですか?」
「えぇ、あなたに戻ってきてもらいたい。ここで一緒に復興の手伝いをして欲しいと思っているの。」
そう伝えると、彼女の目が潤んできた。
「嬉しいです。では、神の声が聞こえたら私は戻って来れる資格を頂いたってことになるんですね‼︎やってみます。」
奈々美さんは膝をつき、神に祈り語りかけていた。
風の流れが変わり、そよそよと穏やかで優しい風が吹いていた。
しばらくの間静寂が続く。
奈々美さんの邪魔にならないよう私は息を呑み見守っていた。
そよそよと吹いていた風が止むと、奈々美さんがそっと目を開けた。
その瞳は輝いており、何も聞かなくとも彼女は神の声が聞こえたのだと感じとることができた。
「時雨さん、私聞こえました。前のように、巡地守神さまの声が聞こえました!」
奈々美さんは満面の笑みを浮かべていた。
やはり彼女には、導神族の力が戻っていた。
「大人達に活気をとりもどせっと言われました。私にならできるって。」
興奮気味に話している奈々美さんだが、今後どのように過ごしていきたいと思っているのだろうか。
「その…奈々美さんは、これからどうしたいと思っているの?」
ドキドキしながら彼女に訪ねてみる。
「私はここに戻ってきたい、だから与えられた役目を果たしてきます。」
その言葉を聞けて、私は飛び上がって喜びたいほど嬉しい気持ちだった。
「奈々美さんありがとう。私にできるサポートはするからなんでも言ってちょうだい。」
その言葉を受け、奈々美さんはしばらくの間思案していた。
「では、もうしばらくの間颯真さんの手を貸して頂ける事はできますか。やはりひとりでは心細くて。この1か月、颯真さんの手を借りられてとても心強かったんです。お願いできますか?」
「えぇ、もちろん。颯真さんからも気になるから、村の様子が戻るまで滞在してもいいかって言われていたの。」
自分以外にも里や村のことを真剣に考えてくれる人物がいるというのは何よりも嬉しく心強かった。
「本当ですか。よかった。」
奈々美さんは、心底ホッとした様子だった。
私は少しでも彼らが楽に村で動けるようにと考えていた事を切り出す事にした。
「それでね。奈々美さんに私から渡したいものがあるの。」
私は懐から5色の石で作った腕輪を取り出し、奈々美さんへと手渡す。
「これは?」
奈々美さんは、不思議そうに腕輪を眺めていた。
「精霊を扱える腕輪よ。簡単な事なら奈々美さんにも使いこなせると思う。少しでも生活しやすくなればいいと思って作ったの。」
奈々美さんは目を見開き驚いていた。
「えっ、そんな貴重なもの頂いてもいいのですか?」
「えぇ、奈々美さんだから渡すの。導神族としての誇りを取り戻してくれたから。」
私は奈々美さんと向き合い、精霊の力を使えるようにと簡単にレクチャーする事にした。
「まずは、両手を胸の前にかざして、水の塊をイメージをしてみて。」
「こうかな?」
奈々美さんが試してみると、ビー玉ほどの水の塊が宙に浮いていた。
「えっ、なんで。すごい。これが精霊の力なんですか。」
自分にこんな事ができるなんてと奈々美さんは驚いていた。
「えぇ、それが精霊の力。使いこなせるようになれば、水撒きだって簡単にできる様になる。火をつけることもできるから。少しずつ試してみて。」
奈々美さんに扱い方のポイントをいくつか説明し、精霊について簡単にまとめたメモも渡した。
「奈々美さん、昨日も話をしたけど、私が村に入ってみんなを説得することは、今なら簡単にできると思うの。でも、一時的に関係はよくなっても、彼らが本質に気づいていなければ、またいずれ衝突することが出てきてしまう。だから大変なことだけど、奈々美さんに村の事をお願いしてもいいかしら?」
奈々美さんは力強く頷いてくれた。
「はい、時雨さんの期待に応えられるように頑張ります。」
こうして私は、新たな頼もしい仲間を持つ事ができた。
きっと一歩ずつでも着実に進み、歩みを止めず進み続けていく事が里を復興させる1番の近道になるのだろう。
私が新たに創りだす、未来へと続く希望の道。
始祖様が願い望んだ平和な世を、私達、導神族が守り続けていくのだ。




