時雨との遭遇
6-10 -Souki side-
今日は、街へ出ての視察だ。
庶民の服をきて、越志を連れ街の中を歩いていく。
とある所まで来ると街の男達が浮きたっていた。
何事かと思い、男達の会話に意識を向けた。
「向こうでよ、めっちゃ可愛い娘がいたぞ。」
「あぁ、俺もみた。一緒にいた男が、すごくいい品物売ってたな。」
「口説き落とせたら逆玉になれるぞ。」
男達は、ガハハっと品のない笑い方をしていた。
「どこかのお嬢様か?一応確認しに行くか。」
そう越志は呟くと、先に歩きだしてした。
しばらく歩いていくと、颯真の姿が見え、隣には可愛いらしい娘を連れていた。
「さっきの男達が言ってたのは、颯真達の事だったか。」
(颯真は時雨の指示で今は任務中のはずだ、そっとしておいた方がいいだろう。)
と、思った矢先、越志が颯真に声をかけていた。
「おっ颯真、久しぶりだな。お隣にいる可愛らしい娘さんは君の恋人かな?」
何を言っているんだあいつは。
内心俺は焦っていた。
こんなことで、時雨の計画が台無しになってしまっては彼女に顔むけができない。
「越志さん!想輝様まで。」
颯真は俺たちに気がつき頭を下げていた。
「んで、どうなのかな?」
越志がこりずに、颯真の肩をつつきからかっていた。
「やめてくださいよ、越志さん。彼女は俺には勿体無いですって。」
颯真は頬をかき、隣にいる娘は顔を真っ赤にして俯いていた。
「お嬢さんが困っているぞ、越志。からかうのもそのぐらいにしておけ。すまなかったな。連れがどうしようもない奴で。」
俺は越志に慎めっと言ったつもだった。
「俺はこういうの見る目があるんですよ。」
俺の言葉など気にせず、おどけた調子を崩さない越志。
「越志!」
今度は強く叱責すると、越志は肩をすくめた。
「おぉーこわいこわい。おっ時雨もいるじゃないか。颯真は役に立っているかな?」
(時雨?)
時雨が街に来ているなんて珍しいことだ。
見れば、仕斗も一人連れていた。
「越志さん、お久しぶりです。とても助けてもらっています。想輝様もお久しぶりです。颯真さんを出向させていただきありがとうございます。今日は視察ですか?」
思わぬところで時雨に会えたことに俺は浮き立っていた。
でもここは平然を装わなければ格好がつかない。
「まぁそんなところだ。珍しいな君とここで顔を合わせるとは思っていなかった。」
もしかしたら、男達の話に出ていたのは時雨のことかもしれない。
通りすぎる男達の視線も時雨に向けられているようだ。
「彼女は北の村からきた子で奈々美さんと言います。売買の仕方を教えようと街まで連れてきたんです。私はただついてきただけで、交渉事が得意な海斗に指南を頼んで一緒に回っていた所です。」
やはり話題に上がっていたのは時雨のことだと確信した。
「俺たちも、一緒に同行してもいいか?」
越志が楽しそうに目をらんらんと輝かせていた。
越志は、男女の色恋について、やたらと首を突っ込みたがる。
こいつの悪い癖だった。
「越志、お前ってやつは…。はぁ、ここまできたら何言ってもお前は聞かないな。」
頭が痛い。
越志の様子に呆れながらも俺は時雨達と一緒に行動することにした。
少しでも男達の好奇な視線を遮るように、時雨の横に並び歩いていく。
「どうだ。暮らしの方は問題ないのか?」
越志の思惑通りかもしれないが、結果的に時雨と過ごす時間が取れるのは嬉しかった。
「はい、おかげさまで仕斗も手伝ってくれますし、颯真さんのおかげで、北の村の方もなんとか対処できそうです。」
時雨は、にっこりと笑っていた。
(あぁ、やっぱり可愛いな。)
触れたい衝動に駆られるが、理性でそれをおさえる。
こうやって時雨と話すのは久しぶりな気がした。
やはり見合いの席で話す女達と時雨は全く違っていた。
「そうか。颯真は役に立っているか。それなら何よりだ。」
俺の采配で、時雨が喜んで笑顔になってくれる。
こんなにも嬉しいことはない。
自然と口元が緩んでしまう。
すると、何かに気を取られたのか、時雨が人とぶつかりバランスを崩していた。
「ご、ごめんなさい。」
反応が遅れて転びそうになっていた時雨をとっさに抱き止める。
「あっ、ありがとうございます。」
腕の中の時雨はやはり小さかった。
俺が守ってやりたい。
そんな気持ちが溢れ出す。
「怪我はしていないか?」
腕の中で、俯きながら時雨が答える。
「大丈夫です。」
時雨が腕から出ようとするが、
「いっ、たい。」
と呻いていた。
「足を捻ったか、こっちに来い。座れる場所がある。」
時雨を支えながら、腰を下ろせる場所まで移動する。
「少しここで待っていろ。」
足を冷やすためにハンカチを濡らし戻ってくると、時雨がしょんぼりとしていた。
きっとまた俺に迷惑をかけたと思って落ち込んでいるのだろう。
「待たせたな。こんなことぐらいしかしてやれないが。」
冷したハンカチを時雨の足に巻きつける。
「すみません、わざわざお手数をおかけしました。」
「なにどうってことはない。それにしても、本当におっちょこちょいなところは健在だな。」
宮中では男湯と女湯を間違えたり、今日は人とぶつかり転びそうになっていた。
目を離したらまた何かをやらかすんじゃないだろうかと想像したらおかしくなってきた。
「毎度お恥ずかしいところをお見せしてすみません。」
恥ずかしくなったのか時雨は顔を手で覆っていた。
俺は衝動的に時雨の頭に手を乗せ撫でていた。
「そ、想輝様!!おやめください。」
時雨が顔を赤くして細やかな抵抗をしてくる。
「ははっ。お前は本当に可愛らしいな。」
(あぁ、やっぱり俺は時雨が好きだ。)
座っている時雨に視線を合わせるようにしてしゃがみ、時雨の頬へと手をのばす。
すでに、俺は理性を失っていた。
「時雨。俺はお前と一緒にいると皇子じゃなくて、想輝という普通の男に戻れる気がしてるんだ。」
じっと時雨を見つめると、彼女は困ったように視線を彷徨わせていた。
俺は、時雨の顎を持ち上げ、視線をこちらへと向けさせる。
触れたい、口付けたい。
そんな衝動に抗えず、指先で時雨の唇を撫ぞる。
「本当にお前は可愛いな、時雨」
目を閉じた時雨に自分の唇を重ねようとすると、
「あっいた!時雨ー。探したよ。」
遠くの方から仕斗の声が聞こえてきた。
ハッと我にかえり、顎にかけていた手を離す。
しかし、今日のことは時雨に忘れて欲しくないと思い、今度は、彼女の耳元で囁きかける。
「残念、邪魔が入ったな。続きはまた今度だ。」
時雨は顔を真っ赤にさせ、目を白黒させていた。
「こっ、今度って⁉︎」
慌てる時雨を見て、少しは俺のことを意識してくれたようで嬉しくなる。
「そのままの意味だよ。」
と伝え、皇子の想輝へと意識を戻す。
「はぐれてしまい悪かったな。」
振り返り、仕斗達にはぐれてしまったことを謝罪する。
どうやら、はぐれている間に仕斗達の用事は終わったようだ。
時雨と離れるのは惜しいが、ここで別れることになった。
「君たちは帰るのか。颯真、引き続きよろしく頼んだぞ。」
そう告げ、俺達は視察の続きに戻ることにした。
「はっ、仰せのままに。」
背中越しに、颯真の声を聞きながらその場から立ち去る。
横で歩く越志がニヤけてこちらをチラチラと見ていた。
「なんだ、越志。言いたいことがあるならはっきり言え。」
「いやぁ、時雨の顔が赤かったから何かあったのかなって思ってね。」
越志は色恋沙汰に関してはやけに鼻がきく。
何かあったと認めればしばらくの間いじられそうだ。
「人の熱にやられたんだろう。視察の続きをするぞ。」
面倒ごとを少しでも減らすため、答えを濁しておくことにした。
「なんだよー、つまんないなぁ。」
俺の返答に不満だったのか越志は口を尖らせていた。
次に時雨と会えるのがいつ頃になるのかわからない。
だが、今度会った時には、彼女に自分の思いを伝えようと俺は心に決めたのだった。




