遭遇
- Main story - 6-10
by Sigure
翌日、私と海、颯真さんと奈々美さんの四人で街へ出かけることにした。
通りには様々な店が立ち並び、それぞれの店の特徴を海は2人に教えながら歩いていた。
そして、いつもの店までやってくると、海は店主とのやりとりを見て覚えるようにと、2人に手本を見せていた。
「はい、次は君達の番だよ。おじさんこの子達初心者だから優しくしてあげてよ。」
〝何事も経験だよ。”っと海は2人と店主のやりとりをそばで見守っていた。
「売れましたよ!颯真さん‼︎」
無事に交渉を終え、店を出た後の奈々美さんは初めての経験に興奮していた。
懐にしまい込んだ財布に手を当て、手にしたお金の重みをしみじみと感じているようだった。
粗方の用事は済み、足りないものを買い足す為に4人でブラブラと街を歩いていた。
すると偶然、越志さんと想輝様に遭遇した。
「おっ颯真、久しぶりだな。お隣にいる可愛らしい娘さんは君の恋人かな?」
越志さんが颯真さんに声をかけていた。
「越志さん!想輝様まで。」
颯真さんは、2人に向かい慌てて頭を下げていた。
「んで、どうなのかな?」
ニヤリと越志さんが楽しそうに、颯真さんの肩をつついていた。
「やめてくださいよ、越志さん。彼女は俺には勿体無いですって。」
そんな2人のやりとりを隣で聞いていた奈々美さんは、顔を真っ赤にしていた。
「お嬢さんが困っているぞ、越志。からかうのもそのぐらいにしておけ。すまなかったな。連れがどうしようもない奴で。」
想輝さんが越志さんを嗜めていた。
「俺はこういうの見る目があるんですよ。」
想輝様の注意など気にせず、おどけた調子を崩さない越志さん。
「越志!」
想輝様から再度注意を受け、越志さんは肩ををすくめていた。
「おぉーこわいこわい。おっ時雨もいるじゃないか。颯真は役に立っているかな?」
私がいることに気がつき越志さんが声をかけてくれた。
「越志さん、お久しぶりです。とても助けてもらっています。想輝様もお久しぶりです。颯真さんを出向させていただきありがとうございます。今日は視察ですか?」
想輝様は目立たないよう庶民と同じような服を着ていたが、溢れる気品は隠しきれていなかった。
通りすぎる女性達が、チラチラと想輝様を見ては色めきだっていた。
「まぁそんなところだ。珍しいな君とここで顔を合わせるとは思っていなかった。」
私は滅多に街に出る事がなく、宮中の外で想輝様と会うのはとても珍しいことだった。
「彼女は北の村からきた子で奈々美さんと言います。売買の仕方を教えようと街まで連れてきたんです。私はただついてきただけで、交渉事が得意な海斗に指南を頼んで一緒に回っていた所です。」
「時雨。俺たちも、一緒に同行してもいいか?」
越志さんは、新しいおもちゃを手にした子供のように満面の笑みを浮かべていた。
こんな楽しいことを逃すのは惜しいという様子だ。
想輝様はそんな越志さんの様子に呆れ顔だった。
「越志、お前ってやつは…。はぁ、ここまできたら何言ってもお前は聞かないな。」
頭が痛いとこめかみを抑えながらも、想輝様は私達と一緒に行動することにしたようだった。
想輝様と私は横に並び世間話をしながら歩いていた。
「どうだ。暮らしの方は問題ないのか?」
「はい、おかげさまで仕斗も手伝ってくれますし、颯真さんのおかげで、北の村の方もなんとか対処できそうです。」
こうやって想輝様と話すのは久しぶりな気がする。
穏やかな時間が私の心を満たしていくのを感じていた。
「そうか。颯真は役に立っているか。それなら何よりだ。」
っと、想輝様が微笑む表情に、私の心臓が脈打った。
(どうしよう。想輝様といるとドキドキしてしまう。)
私は動揺を悟られないように、俯きながら歩いていた。
しかし、それが仇となった。
前方から来た人に気がつかず、肩がぶつかりバランスを崩してしまう。
「ご、ごめんなさい。」
咄嗟のことで、言葉だけしかです、身体が動かなかった。
このまま転んでしまうと思っていると、横からスッと手が伸びてきて、想輝様が私を抱き止めてくれていた。
「あっ、ありがとうございます。」
「怪我はしていないか?」
想輝様に抱きとめられ、先ほど以上に私の心臓は高鳴っていた。
「大丈夫です。」
あまりの距離の近さに、そっと想輝様から離れようとすると、ズキっと足首に痛みが走る。
「いっ、たい。」
「足を捻ったか、こっちに来い。座れる場所がある。」
想輝様は私を支えながら腰を下ろせる場所まで誘導してくれた。
「少しここで待っていろ。」
そういうと想輝様は何処かにいってしまった。
(やってしまった。)
みんなとはぐれてしまったし、想輝様にまた迷惑をかけてしまったと項を垂れる。
「待たせたな。こんなことぐらいしかしてやれないが。」
っと、戻ってきた想輝様は、冷したハンカチを私の足に巻いてくれた。
「すみません、わざわざお手数をおかけしました。」
「なにどうってことはない。それにしても、本当におっちょこちょいなところは健在だな。」
っと想輝様は笑っていた。
その笑顔を見て先日、宮中でやらかした事が鮮明に甦ってきた。
「毎度お恥ずかしいところをお見せしてすみません。」
恥ずかしさのあまり顔を手で覆う。
すると、頭に想輝様の手がのり、頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「そ、想輝様!!おやめください。」
「ははっ。お前は本当に可愛らしいな。」
(⁉︎私が可愛らしい?)
想輝様の口からそんな言葉が出るなんて驚きだった。
思わず顔をあげると、想輝様が私に真剣な眼差しを向けていた。
そして、私と視線を合わせるようにしゃがみ、私の頬に手を伸ばした。
「時雨。俺はお前と一緒にいると皇子じゃなくて、想輝という普通の男に戻れる気がしてるんだ。」
その視線があまりにも色っぽくてドキドキが止まらなかった。
想輝様を直視できず視線を彷徨わせていると、頬に添えられていた手が移動し、顎をクイっと持ち上げられた。
想輝様と私の視線がかち合う。
そして、彼は指先で私の唇を撫でた。
「本当に可愛いな、時雨。」
いつもよりも低い声で囁かれて、顔が近付いてくる。
(えっ、もしかしてキスされる⁉︎)
顎を掴まれていて、逃げることもできない私は目を瞑ることしかできなかった。
「あっいた!時雨ー。探したよ。」
すると、遠くから海の呼ぶ声が聞こえてきた。
海の呼び声とともに、パッと想輝様の手が離れたが、同時に、耳元で想輝様の息使いを感じ一気に身体が熱くなるのを感じた。
「残念、邪魔が入ったな。続きはまた今度だ。」
私は何が起こったのかわからず、目を白黒させていた。
「こっ、今度って⁉︎」
顔を赤くしうろたえる私を見て、想輝様は満足そうな顔をして笑っていた。
「そのままの意味だよ。」
というと振り向き、
「はぐれてしまい悪かったな。」
そのまま何事もなかった様子で海と話をしていた。
「顔が赤い。想輝と何かあったな。」
いつの間にか側にいた越志さんに声をかけられビックリする。
「いやぁ〜青春だねぇ。」
と、越志さんは一人で満足そうに頷いていた。
「何もありませんから。越志さん、からかわないでください!」
そう抗議の声をあげるが、
「そんな赤い顔で言われてもねぇ、説得力ゼロだよ。時雨ちゃん。」
っと、越志さんの好奇心をさらに刺激させてしまう結果となってしまった。
海達は、用事を済ませ帰ろうとした時に私がいないことに気がついたようで、来た道を戻り、探しに来てくれたようだ。
「君たちは帰るのか。颯真、引き続きよろしく頼んだぞ。」
想輝様は颯真さんに激励の言葉を送ると、そのまま視察の続きへと戻っていった。
「はっ、仰せのままに。」
颯真さんは、想輝様と越志さんの姿が見えなくなるまでその場を動こうとはしなかった。
「じゃ、僕たちも帰ろうか。」
2人の姿が見えなくなり海に促され立ちあがると、先ほど捻った足が痛んだ。
ふっと足元を見ると、まだ想輝様のハンカチが巻かれたままだと気がついた。
(ハンカチ返すの忘れてる‼︎)
想輝様が歩いて行った方を見るが、すでに姿は見えなくなっていた。
次に会う時に返せばいいかっと思ったが、
(次って‼︎)
“また今度“っという想輝様の言葉を思い出し、私は再び顔を赤くする。
「どうしたの時雨?顔が真っ赤だよ。人の熱にやられた?」
「そっ、そうかもしれない。さぁ、帰りましょう。」
私は動揺を悟られないようにと先頭に立ち歩き出した。
足の痛みを忘れてしまうほどに今の私は、想輝様の事で頭がいっぱいになっていた。




