颯真の帰還
-Main story - 6-9
by Sigure
颯真さんが里を出立してから、一ヶ月近くが経とうとしていた。
時折、北の村へ閤央がこっそり様子をみに行ってくれていたので、大体の様子は聞いていた。
だが、毎日気になってしょうがなかった。
今日も気になりながらも、売りに出すための冬物の襟巻きや皮の手袋を作っていると、玄関の方から声がした。
「ごめんくださーい。ただいま戻りました。颯真です。」
その声に反応して私は急いで玄関へと向かう。
「お帰りなさい。颯真さん!えっ、奈々美さん?」
颯真さんの影に隠れるように、
「ご無沙汰してます、時雨さん。」
っと、恐る恐るといった態度で挨拶をする奈々美さんがいた。
「時雨さん、すみません。うっかり口を滑らせて、奈々美さんにばれてしまいました。」
颯真さんは申し訳ないと頭を下げていた。
「そんな気にしないでください。とりあえず上がってください、お疲れでしょう。」
海にお茶を入れるように頼み、二人を応接室へと通す。
座るように促すと再び颯真さんが頭を下げていた。
「何か意図があってのご指示だったのに、守れずすみませんでした。」
と、颯真さんの様子をみた、奈々美さんも口を開く。
「私が無理やり聞き出したんです。時雨さん、すみませんでした。」
奈々美さんも頭を下げていた。
「そんな二人とも頭をあげてください。」
颯真さんと奈々美さんの態度に慌ててしまう。
「大袈裟な考えで知られないようにと言ったわけではないんです。」
とりあえず座って話しましょうと、二人を促す。
「前回村を訪ねた後、もう一度、私はみんなと話をしようと思っていました。でも閤央に言われたんです。彼らが自分で気がつかなきゃ駄目だって。私は最初、何を言われたのか、理解ができませんでした。でも南の村での出来事があってなんとなくわかった気がするんです。」
「向こうの村で何かあったんですか?」
北の村にいた奈々美さんは、南の村で起きた騒動のことを知らなかった。
私は、南の村で起きたことを簡潔に説明し、颯真さんとはその時に知り合ったのだと奈々美さんに伝えた。
私にとって南の村での出来事は、自分はどうあるべきなのかと見直す良い経験となっていた。
「確かに人は言われれば行動はするかもしれない。でも、それは言われたから動いただけで、その人が望んで起こした行動ではなかったかもしれない。自分で納得し行動を起こさなければ、意味がない。他人がその人の本質を変える事はできない。変わることができるのは自分だけ。だから、まず自分が変わって、皆が気がつくのを待つしかないなって思って。そこに、私の名が入ったら、頭から否定されて考慮されずに終わってしまうと思ったの。ただそれだけ。」
私もなんとなくしかわかってなくて、とはにかむ。
「それで颯真さん、村の様子はどんな感じになっていましたか?」
気恥ずかしさもあったので私は話を切り替えることにした。
「子ども達には最低限の知識は教えてきました。ただ大人達が、廃人のようになっていまして、座ってボーと日々を過ごすだけなのです。まだ配給されたテントで寝起きしておりまして、家屋はほとんど立っていません。村での滞在期間、私は、奈々美さんの家でお世話になっていました。」
そう報告を聞き、颯真さんと奈々美さんにお礼を告げる。
「そうだったの。颯真さんありがとうございます。奈々美さんも、どうもありがとう。」
「いえ、私はただ寝る場所を提供しただけで、山で必要な知識を教えていただいて、お世話になったのは私達の方なのです。」
お礼を言われるようなことはしていませんと奈々美さんは手をふり、謙遜していた。
「でもね、奈々美さんが寝る場所を提供してくれていなかったら、颯真さんはきっと野宿する羽目になっていたっと思うの。そんなことになっていなくて本当に良かった。」
「そうだよ奈々美さん、時雨さんのいう通りだ。私からもお礼申し上げます。」
颯真さんは奈々美さんに頭を下げていた。
「急にかしこまった話方をしないでください、颯真さん。」
奈々美さんは、こそばゆいですと恥ずかしそうにしていた。
「それでですね、時雨さん、一つお願いがあるのですが…。」
颯真さんの顔つきが真剣なものへと変わった。
「なんですか、お願いとは?」
改まってなんの話だろう。
緊張しながら話の続きを待つ。
「山で獲った毛皮などを売りたいのですが、私には商売の経験がないもので、ご教授願いたいのです。こちらには、報告と相談も兼ねて寄らせていただきました。」
「そうだったの。それなら、海から話を聞いた方がいいかもしれないわ。」
そういったことなら、海の右に出るものはいないだろう。
海を呼び、詳細を伝える。
「はーい、そういうことは僕に任せて♪まず持ってきたものを並べて。」
颯真さんと奈々美さんは、持ってきたものを机の上に広げていた。
「なるほど。皮はいいのが揃ってるね。でも、皮のままで売るより、手袋や襟巻きみたいに加工してからの方がいい値で売れるんだ。もうすぐ冬になるし、毛皮がこれだけあったら、羽織を作れば高値で売れると思うよ。」
例えばねっと、海が私に話しかけてきた。
「時雨、もう手袋とか襟巻きはできてる?」
「襟巻きはできてるわ。手袋はまだ途中だけど。」
そこまで言うと私は、海の意図を汲みとり、
「さっきまで作業していたの、散らかってるけど見ていって。」
っと、二人を執務室へと案内した。
「うわぁーすごい。」
机の上に並べられた加工済みの品々を見て、奈々美さんが感嘆の声をあげていた。
「ここに出来上がっている物を売りに行くから、明日、一緒に街までいってみようか♪」
っと海が二人を街へと誘う。
「今回持ってきた毛皮はあえこのまま売るね。この襟巻きのと同じ素材みたいだし、加工品との値段の差を知るいい機会になると思うよ。」
っといった提案を受け、二人の肩の力が抜けたように感じた。
そんな二人の様子から、真剣に悩み考えていてくれた事がひしひしと伝わり、私の心にグッとくるものがあった。
「明日の予定はこれで決まりね。二人とも夕飯の準備ができるまでゆっくりしててください。」
私が話を締めくくると、扉がトントンと叩かれ、扉の向こうから空の声が聞こえてきた。
「お風呂を沸かしましたので、よければ先にお入りください。」
さすが空だ。
おもてなしの心なら、彼の右に出るものはいないだろう。
「じゃ、遠慮なく入らせてもらいます。」
「ありがとうございます。」
颯真さんと奈々美さんは、礼を告げるとそのまま風呂場へと向かっていった。
「海も空もありがとう。私はこの続きをもう少しやるわ。あとのこともお願いできる?」
「もちろんです。」
「りょうかーい♪」
海と空もそれぞれの仕事をこなしに執務室を後にした。
(颯真さんも、奈々美さんも元気みたいでよかった。)
順調に事が進んでいてホッとした私は、執務室の中で1人、鼻歌を歌いながら縫い物の続きを再開したのだった。




