それぞれの思い
-Main story- 7-2
by Nanami
颯真さんと火の番を変わり、私はこれからの事を考えていた。
大人達に自分の非を気づかせるには、一朝一夕にはいかないだろう。
あれやこれやと思いつくことを、頭の中で整理していく。
まずは、話を聞くことから始めよう。
なぜあのような態度を時雨さんにとっていたのか探るのだ。
私の推測ではなく、大人達から直接聞いて理解する。
次に、問題点を客観視してもらう。
冷静に大人達の立場に立って話し合うのが大事だろう。
非難するのではなく改善を促す言葉を使う。
そして、時雨さんにも非あったということも交えて話をしていこう。
ここまで終えたら、しばらく様子を見るといった感じだろうか。
しかし、こんなにスムーズにことが運ぶだろうか。
やはり話し合いの場で臨機応変にやっていくしかないのだろう。
あれこれ考えていたら、あっという間に空が明るんできた。
私は寝ていた颯真さんを起こし、軽く朝食を済ませてから再び村を目指し歩き出す。
そうやって野宿を繰り返し、やっと家に戻ってこれたのは、日も暮れそうな夕方頃だった。
「ただいま。」
「お邪魔します。またお世話になるよ。」
家に帰ると笑顔で瑛太が出迎えてくれた。
「おかえり。ねえちゃん、にいちゃん。」
「変わりなかった?」
しばらくの間、瑛太を一人残していくのは心配だったがなんとかやれていたようだった。
「大丈夫だったよ。それよりどうだった?売れた⁇」
瑛太は、ソワソワしながらも好奇心に満ちており、結果を知りたくてたまらないという感じだった。
「えぇ、ちゃんと売れたわ。」
懐から銭をだしみせると、瑛太は自分が作った物が売れた事に喜んでいた。
「売ってきたお金で足りない物も買ってきたわ。」
買ってきたものを瑛太と一緒に片付けていく。
そして大方片付いたところで、話をするために瑛太に座るよう声をかけた。
「それでね、瑛太。話したいことがあるの。」
「なんだよ話って。」
〝改まって何言い出すんだ。“と、瑛太は身構えていた。
「お姉ちゃんね、里に戻ろうと思ってるの。」
「えっ、なんで。」
瑛太は、唐突な話に驚いた顔をしていた。
「時雨さんのサポートをしたいの。」
お金を借りていることや、颯真さんがこの村にきた理由、商売の仕方などを教えてもらったこと、神の声が再び聞こえるようになったこと、腕輪のことなど、全て時雨さんがサポートしてくれていたことを、瑛太に打ち明けた。
瑛太は、俯いたまま私の話を黙って聞いていた。
「僕は…長様を否定する気もないし、ねえちゃんの思いも理解した。でも僕は?…一緒に行っちゃ駄目…なのかな?」
今にも泣き出しそうな瑛太の声が震えていた。
「それは…時雨さんに聞かないとわからないわ。それに今すぐ戻るって訳じゃないの。まず大人達をどうにかしないといけないし。とりあえず、明日はみんなを集めて話をしようと思っているの。時雨さんの事は、まだここだけの秘密にしておいてね。」
出来れば私も瑛太とは離れ離れにはなりたくない。
今ではたった一人の血のつながった家族なのだ。
「瑛太くん、心配いらないと思うよ。きっと時雨さんは駄目とは言わないさ。」
颯真さんは瑛太のを安心させるように頭を撫でてくれたいた。
そして、私も悲しそうにしている瑛太を落ち着かせるために、そっと抱きしめたのだった。
翌日みんなを集めて話し合いの場を設ける事にした。
「みんなを集めて何をしようというんだい?」
一番年配の爺が口を開いた。
周りくどい言い方をしていても話が進まないと思い直球で話を切り出してみた。
「どうしてみんなは、時雨さんに冷たく当たるような態度をとっていたのか気になって。」
大人達は急に何を言い出すのかと、驚きと困惑の表情を浮かべていた。
「時志様のご指示だよ。急に前の長が亡くなって私達は焦っていた。跡継ぎはいてもまだ子ども。成人もしていないから仕斗の力も借りられない。その上、なぜか時雨は閤央を呼び出せなくなっていた。里で何かあった時にどうすればいいんだと心配にもなるだろう。」
爺は、昔のことをほじくり返してどうするのだっといった様子だった。
「そんな中、時志様がおしゃっていた。
『時雨は両親の死からまだ立ち直っていない。しばらく一人にしてそっとしておきたい。だから私が兄の代わりを一時的に引き受けよう。』
っと。それからは私達は、時雨にあれこれ言うのをやめ、時志様を頼っていたのだ。しばらく経つと、時志様が、苛立った様子で時雨には構うなと言ってきた。
『時雨は閤央を呼び出せない自分に失望し、長としての役目を放棄すると言ってきた』
と。一部の里の者は、時雨に考え直してもらうようにと、説得を試みようとしていた。そうしたら、それを知った時志様が烈火の如くお怒りになった。
『私が長としての役目を果たしきれていないと言うのか。私の善意を踏みにじりおって。何も出来ない時雨に村のことを全て任せたら間違いなく里は滅びるぞ。』
っと、まるで脅すようなことを言って、しばらくは私達の話を聞いてくれなかった時期があったのだ。それからは時志様の機嫌を損ねないように、時雨と距離を置くしかなったのだ。」
苦虫を噛み潰したような顔をした爺は、大きなため息をついた。
「仕方のない状況だった。なのに巡地守神は我々が悪いと仰せになられた。なら我々はどうすれば良かったのか。納得がいかないままに、この山の中に放り込まれて、神などもう信用などできる訳がないではないか。」
爺の話から大人達はやるせない気持ちを抱えたままここで生活をしていたことがわかった。
「そう…だったの。」
意外な内容で私は戸惑ってしまった。
てっきりみんなが時雨さんを見限って、無視していたのだと思っていた。
ふっと素朴な疑問が私の頭をよぎった。
「なぜ時志さまは、時雨さんの補佐をすると言う形を取らなかったのかしら?閤央を呼び出せないのは時志様だって同じだし。前長の時義様は、仕斗や家族の力を借りてやっていたことを、時雨さんは1人でやろうとしていたのよね?仕斗もいないし、家族もいない。いるとしたら、時志様の一家でしょ?」
導神族の慣わしから長は絶対時雨さんのはずだ。
女、子どもでも関係ない。なのになぜ?
「時志様は、『時雨は匙を投げた。』と言っていた。時雨がやらないと言っていたようだし、やはり時雨が悪いのだ。」
爺が言っていることにとても納得がいかなかった。
時雨さんが長の役目を放棄するような人とはとても思えない。
「時雨さんから長をやめると直接聞いたわけじゃないのよね?本当に長の役目を放りだすつもりなら、式典だってやらずに時志様に任せるような気するのだけど。」
爺はハッとした表情をしていた。
「確かに。奈々美の言うとおり役目を放棄すると言っているなら式典を時雨がやり続けているのはおかしなことだな。」
何かがおかしい気がする。
私の心の中にモヤっとしたものが広がっていく。
「あのぉ…。」
颯真さんが遠慮がちに話に加わってきた。
「話を聞いてて思ったんだが、その時雨さん?長様と呼んだ方がいいのかな。彼女は、もしかしたら、みんなから、突き放されたと思っていたのではないだろうか。」
颯真さんは、時雨さんのことは知らないと言う前提で話を進めていた。
「みんながそっとしておこうとなった時に、あれこれ言うのをやめたんだよね?それって愛想尽かされたと感じていた可能性もあるんじゃないだろうか?誰か時志様と長様のやりとりを見たことあるのかな?」
大人達は顔を見合わせていた。
誰一人として二人のやりとりをみたことがないようだ。
颯真さんは話を続けていた。
「長様は自分でも何が原因で閤央が呼び出せなくなったのか理解できていなかったのかもしれない。長としての役目を果たせないと長様も自分を責めていた可能性はないだろうか。みんなから見向きもされなくなるのは当然だと勘違いをしていただけかもしれない。」
その場が鎮まりかえっていた。
大人達は各々考え込んでいる様子だった。
「すまない。部外者である私が口出すことじゃなかったな。」
颯真さんは、話に首を突っ込んで悪かったという態度をとっていた。
しかし、視線は私の方に向けられ何か私に訴えるような眼差しだった。
きっとさっきの颯真さんの発言は私が話を進めやすいように、きっかけを作るためのものだったのかもしれない。
私は颯真さんの意図を汲み取り、思い切ってみんなに切り出して見ることにした。
「みんな、一度時雨さんと話をしてみるのはどうかしら?私、颯真さんの言う通り互いに思い違いをしているような気がするの。」
みんな互いの顔をみて、悩んでいる様子を見せていた。
そして爺が再び口を開いた。
「まぁ、確かに一度我々も冷静になって時雨の話を聞くべきかもしれないな。しかし、あんな態度で村を訪れた時雨を追い返したのだ。また我々と話をしようとしてくれるだろうか。」
みんなの気持ちが動き出したような気がした。
ここはもうひと推しだろう。
「なら私が時雨さんにお願いをしに行ってくるわ。」
私の言葉を聞き、瑛太が慌てたように話だす。
「姉ちゃん待ってよ。昨日帰ってきたばかりだろ。また山を下るなんて流石に大変だよ。なんで姉ちゃんばかりが動いているんだよ。」
そういうと、瑛太は大人達をキッと睨みつけた。
「爺達はなんで何もしないんだよ。ただ毎日ボーっとして過ごしているだけ。俺達が働いていなかったら食事すらまともに食べられないんだよ!」
堰を切ったかのように瑛太は喋り続けた。
「話を聞いてると爺達は全て他人任せじゃないか。長様に頼れなくなったから、時志様に頼ったり。なんでみんな最初から長様を手伝おうとしなかったのさ!」
瑛太は声を荒らげて話を続けていく。
「長様はまだ十歳だったんだろ。今の俺と同じ歳だ。今の俺はお金のことや商売のことわかってない。狩りだって颯真のにいちゃんから教えてもらわなかったらできなかった。そう考えると俺は、当時の長様ってすごいと思うよ。閤央を呼び出せなくても一人でやってくれていたんだろ?そんな人に感謝もしないでやって当たり前の態度なんて明らかにおかしいだろ!!時志様を恐れているからって、長様にひどい態度をとっていい理由にはならない!!なんで自分達でなんとかしようとしないのさ。」
瑛太はどんどんヒートアップしていく。
「神を信じないって言うのも一緒だよ。俺達は導神族なんだろ?人を導くことが仕事だって言っていたじゃないか。自分達は全く悪くない?長様が悪い。神が悪い。俺が神ならそんなこと言っている爺達のことなんか見捨てるよ!でも巡地守神様は見捨てなかったじゃないか。ここで暮らしてやり直せってチャンスを作ってくれた。なんで俺でもわかることをみんなは気づかないんだよ。」
瑛太は、興奮した状態のまま肩で息をしていた。
普段温厚に振る舞っている瑛太だが、彼の中にも色々な鬱憤は溜まっていたようだ。
「瑛太、私は大丈夫だから。もう一度山を下って今度は時雨様と話をしに行ってくるわ。」
私は瑛太を落ち着かせるようにぎゅっと抱きしめた。
瑛太の言っていることは間違いじゃない。
時雨さんにだって非はあったのかもしれない。
でも全てを時雨さんのせいにするのは間違っている。
私は瑛太にそっとささやいた。
「ありがとう。瑛太。」
その言葉を聞いた颯太は、今度は声をあげて泣き出してしまった。
瑛太の背中を撫でながら私はみんなに向かって話だす。
「私が時雨さんを呼びにいく。だから今度はちゃんと時雨さんの話を聞いてくれる?冷静になって話はできそう?」
空は清々しいくらい青いのに、この場は重苦しい雰囲気に包まれていた。
「確かに瑛太の言うことも一理あるな。奈々美、悪いが時雨を読んできておくれ。奈々美が呼びに行っている間に私達も心の整理をしておく。」
こうして話し合いは終わり、翌日の朝に私は山を降り、再び時雨さんの元へ向かうことになったのだった。




