任務開始
Main story 6-6
by Souma
翌朝、時雨さんから託された任務を果たす為、私は、導神族の里を発った。
時雨さんは前に会った時よりも、より素敵な女性になっていた。
強い意志を持ち自分の役目を全うしようとする姿、情に流されずダメな部分は駄目だと言える芯の強さ。
そして、どんな者でも受け入れようとする器の広さ。
下っ端の兵士である私にも気を配ってくださる。
まるで想輝様のようなお方だと感じた。
(こんなにも良いお方なのに、なんで敵視するんだろうな。)
私にはさっぱり理解できなかった。
想輝様に仕えることができて私はとても恵まれていると思っている。
自分はこのお方にお仕えする為に生まれて来たのだっと思えるほどなのだ。
(里といってもあそこは小さな国のようなものだ。国が違えば起こる問題も色々と違いがあるのだろう。)
それよりも、どのようにバレずに任務を遂行することができるかが優先事項だ。
山を登りながらあれこれと頭を悩ませる。
村に着いたら、とりあえずどこかの家に泊めてもらう交渉をして、それとなく村の様子を聞きだし、指南する流れにもっていければ良いという感じだろうか。
(まぁなんとかなるだろう。)
あれこれ今から悩んでもしょうがない。
その場で臨機応変にやっていくしかない。
私は、時折休憩を挟み、夜は適当な場所で野宿をして山を登り続けた。
里を出てから数日後、なんとか日が沈む前には村に着くことができた。
こちらの村で支援担当していた兵士にちらりと村の様子は聞いていた。
あれからどれほど復興できたのか気になる所だ。
しかし、私がみた光景は想像していた村の様子とは全く違っていた。
人々の目には覇気がなく、身体は痩せ細り、ボロボロな服を着ていた。
家らしい家は建っておらず、我々が支給したテントで今もなお、寝泊まりをしているようだった。
「すみません。私は颯真と言います。薬草をつみに山に入ったのですが、日が暮れてしまって。どなたか一晩泊まらせてもらえないだろうか。」
村や人々の様子を眺めながら歩いていく。
村人はちらりとこちらを見るだけで、誰も返事を返すことはなかった。
(どうなっているんだ、この村は?)
時雨さんの説明だと、畑が獣に荒らされて収穫量が落ちているとは聞いていたのだが、畑を耕してある様子もうかがえない。
村を進んでいくと、遠くに湖が見える場所にでた。
そこには一軒小さい家が建っていて、家の裏手には畑があるようだった。
回り込んでみると、1人の少女が畑仕事をしていた。
「すみません、私、颯真といいます。薬草をとりに山に入ったのですが、日が暮れてしまい困っていまして。一晩泊めていただくことはできないでしょうか?」
少女は手を止め、私の方へと歩いてきた。
「珍しいですね。こんな山奥まで人がいらっしゃるなんて。雨風をしのぐだけの簡素な家で、大したおもてなしもできないですが、どうぞお泊まりになっていってください。」
彼女は快く私を家にあげてくれた。
土間は料理ができるだけの広さしかなく、あとは寝起きするスペースがあるだけの小さな家だったが小綺麗にされていた。
「ご覧の通り狭い家ですが、野宿するよりは安全なはずです。あっ、私の名前は奈々美と言います。しばらくしたら弟も帰ってくると思うので、それから夕食の準備をしますね。」
畑から材料を持ってきますっと奈々美さんは外へ出て行ってしまった。
邪魔にならないところに腰を下ろし、待っていると、今度は少年が入ってきた。
「姉ちゃん、ただいま。今日はウサギが取れたよ。」
入り口へ目を向けると、少年と視線がかちあった。
「うわぁ、お前誰だよ!」
少年は手に持っていた槍を私へと向けてきた。
「あっ、瑛太お帰り。今日は何か捕まえられた?」
手に収穫した野菜を持って、奈々美さんが戻って来た。
「〝捕まえられた?”じゃないよ。誰だよこの人!!」
少年は私に槍を向けたまま、奈々美さんに尋ねていた。
「あぁ、彼、颯真さんっていうの。薬草を採りに山に入ってきたけど、日が暮れて困っているようで。野宿するのも危ないし、今夜はうちに泊まってもらうことにしたの。颯真さん、この子が弟の瑛太です。」
奈々美さんは〝槍を下ろしなさい。”と、瑛太くんを制してくれた。
「こんにちは瑛太くん、颯真です。一晩お世話になります。」
目線を合わせて挨拶をする。
「瑛太くん、さっきウサギををとってきたって言ってたね。君はウサギを捌けるのかい?」
彼はどういう意味だと首を傾げていた。
「皮むいて内臓取るだけだろ??」
これはいい機会かもしれない。
「ウサギってね、食べるだけじゃなくて、皮も綺麗にとって手を加えるとね、高値で売れるんだよ。知ってた?」
瑛太くんは怪訝そうな顔をして私を睨んでいた。
「僕が子どもだからって騙そうとしてない?」
疑り深い子だ。
しかし、警戒するのは悪いことではない。
「いやそんな事はないよ。まだ警戒されているようだ。」
困った素振りを見せ、今閃いたように提案をしてみる。
「そうだ!そのウサギ私に捌かせてもらっていいかな?」
颯太くんは、今度は私が突拍子もないことをいい出したと驚いた態度をみせていた。
「いっ、いいけど、肉はやらないぞ。」
〝せっかく狩った獲物なんだからな。”と念をおしてウサギを私へと預けてくれた。
「もちろんだ。捌き方をみてみるかい?よければやり方を教えてあげるよ。」
瑛太くんは、お姉さんに視線を送り、どうするのかと訴えているようだった。
「色々知っておく事はいい事よ。せっかくだから教えてもらったら?」
奈々美さんは思慮深い人のようだ。
「姉ちゃんがそういうなら。」
と、瑛太くんは頭を縦に振ってくれた。
(うん、いい感じに話が進んでいるな。)
幸先の良いスタートだ。
「横で見てるといいよ。まずはね、ここから切れ目を入れるんだ。」
下処理、解体の仕方を教えながら捌いていく。
「ほら、こうすれば無駄なく肉も取れるだろ。」
食べる部分を奈々美さんに渡し、瑛太くんの様子を伺う。
瑛太くんの目は、キラキラと輝いていた。
「どうだい?よければ皮のなめし方を教えようか?」
「うん、教えて‼︎今度はどうするの?」
前のめりになり、興味深々のようだ。
「よし、なめし方はこうやるんだ。」
手本を見せながら作業を進めていく。
「にいちゃんすごいじゃん。この先どうするの?」
興奮した様子で続きを促す。
「これで一週間くらい置くんだ。」
瑛太くんは、エッと驚いた表情を見せた。
「じゃあこの先どうするんだよ。にいちゃんいなきゃ、僕1人ではどうすることもできないよ。」
(しめた!ここは私の腕の見せ所かな。)
困ったそぶりを見せ、考え込むフリをする。
「うーん、奈々美さん図々しいお願いになるんだが…。しばらくの間ここで寝起きさせてもらうことは可能だろうか?ぜひ瑛太くんになめしのやり方を最後まで教えてみたいんだ。」
しばらくこの村に滞在できるように交渉してみる。
「代わりに、ここにいる間は、瑛太くんと山に出て食料をとったり畑仕事を手伝うから。お願いできるだろうか。」
ここで了承を得ないと、しばらくは野宿することになる。
「私は構いませんよ。今は畑が動物達に荒らされてしまって食事も満足に準備できないかもしれません。それでもよければ。」
っと、奈々美さんは私のお願いを受け入れてくれた。
「ありがとうございます。助かります。ついでに畑が荒らされないように動物対策もやっていきますよ。」
瑛太くんは面白そうだと、手伝いを申し出てくれた。
「でもにいちゃんいいのかよ。薬草採りに来ただけなんだろ?」
もう先ほどの警戒心は解けているようだった。
「実は私も薬草の知識はほとんどなくてね。勉強しながら散策しようとしてたんだ。ほら、これが薬草について書かれている本。これは、ほんの一部でね。山の中に自生しているものをまとめてあるやつなんだ。珍しいやつだと高値で売れるみたいでね。」
その話を聞き、今度は奈々美さんが興味を持ったようだ。
「草を採るだけでお金が手に入るんですか?」
料理の手を止め、私の持っている本を眺めていた。
「草というか、植物だね。葉っぱとか根っこが薬として使えることもあるんだ。どの植物がどんなことに使われて、どうするのかは、これに書かれているんだ。」
本を強調するように掲げてみせる。
出立する前に、時雨さんから渡された薬草の本。
これは、私のもう一つの任務で、村のものに薬草の知識をつけさせることだった。
私には、薬草の知識は全くないから、知ったふりをすればすぐにボロが出てしまう。
ここは素直に知識がないと暴露して、一緒に勉強していった方がいいだろう。
「食事の後に見せていただいてもいいですか?実は私、恥ずかしながら人にお金を借りていまして。返したくてもどうお金を手に入れればいいかわからなくて色々と考えていたのです。動物を狩るのは無理ですが、植物を探して採取するなら私にもできそうです。」
奈々美さんの目は希望に満ちていった。
「どうぞどうぞ。ぜひみてください。お世話になりますし、そんなのお安いご用ですよ。」
なかなかいい滑り出しではないか。
出立前に時雨さんから渡された首飾りをなぞる。
〝物事が上手く進むようにと願いを込めてあるから持っていって。”と頂いたものがいい効果を発揮しているように感じる。
(よし、これが初めの一歩だ。)
出来上がった料理をいただきながら村のことをさりげなく聞き情報を集めていく。
今後の予定を立てるためにも、今の状態を把握しておかないといけない。
食事を食べ終えると眠気が襲ってきた。
流石の私でも、慣れない山道を歩いてきたので疲れているようだ。
私は薬草の本を奈々美さんに渡すと、先に横にならせてもらう事にした。




