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居心地の良い家

Main story 6-1

成人の儀をきっかけに想輝様に触発された私は、手始めに衣食住をしっかりと整えると意気込んでいた。

そして、決意を固めた日から数日後、やっと屋敷が完成した。

畳の香りが家中に広がっていて、炊事場、風呂場も廊下でつながり、快適に過ごせる空間ができた。


今まで寝起きしていた仮小屋は、倉庫として活用することになった。

棚など設置し、物置小屋から運び込んだ物を、整理整頓しながら並べていく。


(ふぅ、今日はここまでかな。)


私は手を止め、倉庫の中を見渡した。

この小屋で目覚め、仕斗と閤央に出会った。

それから今日までの怒涛の日々を思い出す。

短い期間だったがこの小屋には思い出でみたされていた。

だから、この仮小屋で寝起きし生活をするのは嫌ではなかった。


だが、やはり新しく作った家は快適だった。

執務室として作った部屋には本がずらりと並べられ、すぐに手に取れるように整頓されているし、各々の部屋もでき、プライベートの時間も持て、メリハリのある生活もできる様になった。

何よりも応接室ができた事は個人的には嬉しかった。

今はまだ人が訪ねてくるのは少ないだろうが、自分を訪ねにきてくれた人をもてなせる部屋をもてたことが、自分が『長』という立場を受け入れ、それを行動に写せている事の証明に感じていたのだ。


これでやっと生活の基盤が整った。


空は陽が傾き、茜色に染まっていた。

そろそろ夕飯どきだろう。

キリがいいので、今日の倉庫での片付けを切り上げ、木屑や埃を落とす為、お風呂へと向かう。


「はぁー、気持ちいい。」


風呂に肩まで浸かり、ほっと一息つく。

とりあえず、住まいを整えると言う大きな作業が落ち着き、心に余裕ができてきた。

のんびり湯に浸かっていると、扉の向こうから空の声が聞こえてきた。


「時雨様、ゆっくりされているところ申し訳ございません。お客様です。応接室の方に通してありますので、準備ができたら、来ていただけますか?」


(客人?もう夕方なのに、誰が訪ねてきたのだろう?)


空の落ち着いた様子からして、急な用件ではなさそうだ。


「はーい。着替え次第対応します。」


気持ちを切り替える為に軽く伸びをして風呂から上がる。

人を待たせているので、手早く身なりを整えると私は応接室へと向かった。


しかし、今の私には人が尋ねてくる心当たりがなく、しかも、応接室ができてからの初めての客人。上手くもてなす事ができるのか緊張しながら、襖へとそっと手をかける。


「お待たせしました。」


襖を開けて入ると、そこには一人の女性が座っていた。


「あっあの、こんにちは。私は奈々美といいます。北の村にから来ました。」


奈々美と名乗ったその人は、私以上に緊張している様子だった。

大体、私と同じ歳ぐらいだろうか。

こんな夕暮れ時に1人できたらしい。


「時雨様にお願いがあってきたんです。」


奈々美さんは、さっと立ち上がり私に頭を下げていた。

北の村から来たと言うかつての同胞に複雑な思いが湧き上がってくる。


「頭を上げて、座ってください。」


とりあえず詳しい話を聞く為に、私は彼女の向かい側に腰を下ろした。


「それで、お願いとは?」


前回私が訪ねにいった時は、話しも聞いてもらえず門前払いだった。

それなのに、向こうからわざわざ訪ねてきたのだ。

何か余程のことがあるのだろう。

今更何をと言う反発する気持ちと長として手を貸したいという相反する気持ちが私の胸に渦巻いていた。

彼女は話の糸口を探すように目を彷徨わせていた。


「はっ、畑が動物に荒されていて、食べ物が取れないんです。おっ、お金もなくて、街へ買いに行くこともできなくて。」


彼女は、視線を彷徨わせたまま、気まずそうに話していた。

聞けば動物達も冬支度を始めて、畑が荒され収穫物が減り、食べる物に困っているらしい。


「だから、その、大変言いづらいのですが、おっ、お金を恵んで頂けないでしょうか。」


彼女は机に頭をぶつけてしまうのではという勢いで頭を下げた。


(何を言い出すかと思ったら、お金の工面とは。)


彼らに、石をなげつけられた事を思いだし、つい渋い顔をしてしまった。

一方的なやり取りで私達を追い出したのに、困った時には頼ってくるとは、都合がよすぎるのではとつい思ってしまう。

そんなことを思いながら、改めて彼女を眺めていると、話の通り、食事はまともに取れていないようで、身体の線は細く、着ている服はブカブカで、肌には葉っぱで切ったのか細かい傷がいくつもできていた。


すると、突然〝ぐぅー。“とお腹のなる音が聞こえた。

海が食事の準備をしていたので、応接室の方にまでいい匂いが漂ってきていた。

どうやらその匂いに彼女のお腹が反応してしまったようだ。


「ごっ、ごめんなさい。」


彼女は恥ずかしさで俯き、顔が真っ赤にしてお腹を抱えてていた。


「よかったら、夕飯一緒に食べますか?私達もこれからなので。」


そう提案すると、彼女は少し戸惑いながら目線をおとした。


「いっ、いいんですか。実は村を出てから何も食べていなくて…。」


山奥からここまで歩いてくると、数日はかかるはずだ。

山で野宿をしながらきたのだろう。

舗装されていない山道は下ってくるだけでも一苦労なはずだ。

それなのに村を出てから食事をとっていないとは、相当食べるものに困っているようだ。



「いいですよ。たいしたおもてなしはできませんが。どうぞ、こちらへ。」


かつての同胞が困っている。

いくら彼らが私に酷い仕打ちをしたとしても、やはりみてみぬふりなど私にはできなかった。

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