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単純な自分

-Souki side-

今日は朝から予算会議が開かれている。


「ですから、もっと軍事費用の増加をお願いしたく…。」


実戦にでないものが机上の空論を並べている。


「却下だ。そんな理由では認められん。次。」


朝から私服をこやそうと企む者達の意見を永遠と聞かされる。


(民達のことを考えている者はいないのか。)


頭が痛い。

こんな状態ではいつかこの国は破綻してしまう。


「もう時間です。まだ意見がある方は書面にて提出してください。」


越志が会議終了の合図をすると、不服そうに家臣達は部屋からでていった。


「はぁ、こんな体たらくでいいのか。」


俺は思わず不満の声を上げてしまった。


「心中お察しします。」


越志が苦笑いを浮かべていた。


「執務室で仕事をしてくる。何かあったら呼べ。」


いつまでもここで頭を抱えていてもしょうがない。


(今後の人選も考えていかねばな。)


悩みのたねは尽きない。

次の仕事をこなす為に執務室へと向かう。

部屋に戻れば、今度は山のように積み重なっている書類が目に入ってくる。


(はぁ、朝から憂鬱だ。)


書類の束に目を通していると扉をノックをする音が聞こえてくる。


「はい。」


返事を返すと予想外の声が聞こえてきた。


「時雨です。少しお時間よろしいでしょうか。」


時雨だ。

瞬く間に昨夜の事が頭をよぎる。

何か失態を犯してしまっただろうかと少したじろぐ。

部屋にいることは知られてしまったので、居留守を使うこともできない。

何を言われても受け入れるしかないと、覚悟を決め返事を返す。


〝どうぞ。”っと促せば、遠慮がちに時雨が部屋に入ってきた。


(ここは先手を打っておくべきか。)


時雨が口を開く前に声をかける事にした。


「体調はどうだ?」


とりあえず様子を伺う。


「はい。大丈夫です。あの、その事でお話が。」


その言葉にドキッとする。

昨夜の事をどこまで時雨が覚えているかわからない。


「昨夜は色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした。男湯と女湯を間違えたり、倒れた私を運んでくださったみたいで、ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした。」


時雨は、頭を下げて謝罪をしてきた。


「あっあと、朝食も消化に良いものばかり並んでおりました。細やかな気遣いをしてくださりありがとうございます。」


時雨は顔を赤くし、恥ずかしさを必死にこらえている様だった。


「あぁ、気にしなくていい。体調が戻っているならよかったよ。」


どうやら文句をつけにきたわけではないらしい。

ホッとして気が緩み、昨日感じたことをつい口にしてしまった。


「儀式の時は、神と見間違うほど立派に仕事をこなしていて、しばらく会わないうちに、いつの間にか成長し大人になったんだなっと思っていた。だが人の本質とは変わらないものだな。おっちょこちょいな所は子供の頃と変わっていなかった。」


幼い頃の時雨を思い出し思わず笑ってしまった。

俺の後を追って転んで泣いていたこと、俺に褒めて欲しくてできるようになった術を使って、儀式に使う物を壊しては時義さんに怒られていたことが鮮明に蘇ってきた。


「お恥ずかしい所ばかりをお見せしてすみません。」


時雨も思い出したのか、照れ隠しをする彼女が愛らしく見えてしまう。


「あっ、あの、想輝さまが私を部屋まで運んでくださった時、とても心地よく安心感を感じていました。さすが想輝様だなって思いました。昔から変わらない、強くて優しい想輝様のままですね。」


時雨の言葉に驚いた。

俺が強く優しいと言うのだ。

朝の家臣達の不満そうな顔を思い出す。

とてもじゃないが優しい男に向ける顔ではなかった。


「そうか。時雨の中では俺はそんな風にみえているんだな。でも優しいだなんていうのはお前くらいだ。家臣達は俺の事を恐れているからな。」


自虐的な事を言ってしてしまった。

こんな発言をした俺に時雨は失望するだろうか。


「それをいうなら想輝様だってそうですよ。私のことをおっちょこちょいというのは想輝様だけです。」


意外な返答に虚をつかれた。

時雨には敵わないとつられて一緒に笑ってしまう。


幼い頃、一緒に過ごしていた時間が戻ってきたようだった。

この時間を終わらせたくはなかったが、時雨も帰る時間だろう。

彼女にもまだやることがたくさんあるはずだ。


(仕斗も待っているだろうしな。)


そんな事を考えていると、時雨が改まって俺に話しかけてきた。


「想輝様、改めまして成人おめでとうございます。これからも私の力の及ぶ限り、導神族としてお支えしていこうと思っています。これからもよろしくお願いしますね。」


時雨からこんな言葉が出るとは思わなかった。

もう里の長としての覚悟は決まっているようだ。

ならばこちらも誠意を見せるために、立ち上がり時雨に手を差しだす。


「こちらこそ、よろしく頼む。」


時雨は驚いたような顔を見せたが俺の手をとり、握り返してくれた。


その後、時雨は別れの挨拶を済ませると、執務室から出て行った。

時雨が去った後、室内は静まりかえっていたが、先程まで感じていた憂鬱な気持ちは無くなっていた。


(案外俺は単純な人間なのかもしれないな。)


そう自分を自嘲してから、俺は再び手元にある資料に目を通し始めた。

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