表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二進法原初魔法  作者: lukecat
第二部:コード魔法
94/207

【2】-07-クロエ(2)

##クロエ視点


ゲーム用語多めです。

造語もあります。

▼▼▼







⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

サムシングフェイルド(人型モンスター)はどうなったのかしら?」

 と、アメリアが言った。


「あの様子だと、間違いなく叩きのめしてるわね」

 人型モンスターの騒ぎはあれからすぐに収まったに違いない、とクロエはほっとしながら考える。その渦中に兄ユージーンが居て、虚弱な身体で恐ろしい怪物に立ち向かったとは想像もしていなかった。


 アメリアは、壁のプレートに気づいてじっと見上げた。

 玄関ポーチから入ってすぐの広い土間の壁にはフックがたくさんある。

 その上には

『ここに鎧をかける』

 と書いたプレートがついていた。


 廊下沿いに並ぶ扉の上にも、似たようなプレートがある。彼女はそちらにもチラリと視線を向けた。

「これ、ザイオンが書いたものよね?」


『裸でウロウロしない』『ここは物置』『掃除用具は洗ってからしまう』『投げ入れない』『開けたら閉める』


 クロエはここに来た初日、マクシミリアンが真っ裸で風呂から走り出てザイオンに抱き付いたことを思い出した。

「うん……でも、マックスはもう裸でウロウロしないし、要らなくなったのにそのままになっているのもたくさんあるよ」


「仕切り屋というか、……綺麗好きなのね、彼」

 アメリアは、ふう、と息を吐いた。


「悪い人じゃないよ」

 と、クロエは薦めておく。基本的には、ザイオンの恋を応援したい派だ。


(私はぜっっったい無理だけれどね!)

 という本音は隠す。


「ふふ」

 アメリアは、笑いを漏らした。

「やっと二人きりになれたわね?」


「そうね」

 クロエも笑みを返す。

 話したいこと、訊きたいことがたくさんあった……二人は誰かが盗み聞きしていたとしても理解し難いであろう会話を、普段の二倍速に近い早口で繰り広げ始めた。


「『ヤミヒカ』は、プレイしたことある?」

「ないのよ。……ゴメンね、役に立たなくて」

「大丈夫、私も役に立ってないから」

「そんなことないでしょう……? それで、『ヤミヒカ』ってシューティングゲームなの?」


「アクションゲームよ。ミッション制で、同じエリアを何度もプレイして敵を倒しつつ、隠しアイテムを見つけていくの」

「隠しアイテム……」

 クロエは興味を引かれた。ゲーム上で隠しアイテムがあるのなら、実際にこの世界にもそのアイテムは存在するということではないだろうか?


「正確にはアクションアドベンチャーって言うべきかな。廃墟やダンジョンを歩き回ってHPやMPの上限を増やすソウルジェム(Soul Gem)という名前のクリスタルを集めたり、サムシングフェイルド(人型モンスター)を一瞬で無に帰す武器『リタヌル(無への還元)』を取得したり……」


「ダンジョン!?」

 クロエのテンションがあがった。

「それは、本当に行けるものなの?」


「多分ね。行き方がゲームと同じなら、探索しようと思えばできるんじゃないかしら。でも今から始めても、何日も……いえ、何ヶ月もかかるわ。正攻法では無理ね。何か考えないと……」

 アメリアは、懐かしむ口調になる。

「ゲーム上ではファストトラベル(マップを使った瞬間移動)可能だし、自分で歩くわけではなくて、全てコントローラーの操作で済ませられたから疲れなかったし……それを生身でやるのは現実的じゃないわ。何かそれに代わるものが必要よ」


「ファストトラベルって便利だったよね。私のやっていたゲームにも必ずあったわ」

 クロエは思い出して頷く。


 アメリアは両手で、エアコントローラーを握って見せた。

「Aボタンでジャンプ、Xボタンで遠隔武器、Yボタンで近接武器、だったかしら……」


「私、アドベンチャーゲームは好きだったけれど、アクション系は苦手だったのよねぇ」

 クロエは、クリアできずに放置したゲームが数多くあったことを思い出した。

「とっさにAボタンでジャンプするところで、慌てて違うボタンを押しちゃうの。反射神経がなさ過ぎて……。それでこのゲームの宣伝を見かけても、スルーしちゃったんだと思うわ」


「そっかぁ。アニメにもなったんだけれど、海外資本の制作でテレビ放映はされなかったからな……」

 残念そうに言うアメリアの様子に、相当入れ込んでいたんだなとクロエは思う。


「ねぇ……本当に、魔王が出てくるの?」

 クロエは、思い切って尋ねてみた。

「多分ね」

 と、アメリアは答えた。

「最後に出てきて、中性子星(マグネター)を召喚して、この世界を壊滅させるの」


「中性子星」

 突然飛び出してきたその単語に、クロエは具体的な想像ができない。

「……それって、ブラックホールとどっちが強い?」


 一瞬キョトンとした顔をしたあとで、アメリアは笑い出した。

「重力で比較したら、ブラックホールかしら。でも壊滅させられる側にとっては、どっちも似たようなものよ。中性子星(マグネター)は、極限まで圧縮した超巨大な磁石みたいなものなの」


「魔王が出てきたら、世界は壊滅するって決まってるの?」

 現実離れした話で、クロエはすぐには信じることができない。


「私はずっと、ナイトメアと呼ばれるハードモードを繰り返しプレイしていたんだけれど、ハードモードでは必ず魔王が出てきてマグネター召喚魔法を使ってたわ。この魔王には、ザイオンをぶつけないと絶対に勝てなくて」

「ザイオンをぶつける……」

 クロエは、マクシミリアンがザイオンを振り回して、角の生えた男に投げ付ける場面を想像した。


「もちろん、この世界はゲームとは違うから、私の覚えているストーリー通りになるかどうかはわからないわ」

 悲しいことでも思い出したのか、アメリアは沈んだ口調で、ゆっくりと言う。

「子どもの頃は、ゲームを知っている自分が何とかしなきゃって思ってたの。でも、ゲームとは違うってわかったから……」


「そうよね」

 クロエは頷く。

「ヒロインが、マックスは死んでるはずって言ったけれど生きてるし」


「そうなのよ! だから私、ゲームの本筋に関しては、主人公が共和国に渡ったら自分でなんとかするだろうって思ってたの……よく考えてみれば、ナイトメアモードを選ぶプレイヤーがいないわけだから、デフォルトのカジュアルモードで進行するんじゃないかって」

「カジュアルモード」

 クロエはその言葉を知っていた。

 ゲームによってはイージーモードを、カジュアルモードと表現するのだ。


「カジュアルモードではね、主人公とヒロインがサムシングフェイルド(人型モンスター)を倒すミッションを全てクリアしたら、魔王の出るトゥルーエンディングの章は発生せず、魔界とこの世界は接触することなくハッピーエンドを迎えて、二人は幸せに暮らすの」


 魔王城に乗り込んできたヒロインのことをクロエは思い出す。あの後ルファンジアに連れていかれてから、どこにいるのかは知らなかった。

「ザイオンはヒロインに、一欠片も興味無さそうだったよ?」


(顔ははっきりとは覚えていないけれど、スレンダーな体型だったし)

 と、クロエは心の中で付け加える。


「本来なら、サムシングフェイルド(人型モンスター)が魔界からこちら側の世界に浸潤するのは、トゥルーエンディングの章に入ってからなの。どうして勝手にナイトメアモードになっちゃったんだと思う?」

 アメリアは少し思い詰めた様子を見せていた……そうなったのは自分のせいだと思っているのかもしれない。


「ここはゲームそのものじゃないから、ストーリー進行がバグったとしか……ヒロインと主人公が互いに惹かれなかったのもバグと言えばバグよね」

 ヒロインと主人公だけではなく、悪役令嬢役の自分も含めて、登場人物全てが好き勝手に動いたせいだとクロエは思った。

 そのために、元々のストーリーは、ほぼ壊滅してしまった。


「可能性は低いかもしれないけれど、ヒロインが主人公と二人で戦えば、今からでもカジュアルモードに変わらないかな?」

 そう言ったアメリアの真剣な表情を、クロエはまじまじと見つめた。


「……無理だと思う」

 クロエは正直にそう言った。一度だけ会ったあのヒロインは、ヒロインを降りて壁になるなどと言い出したり、いかにも浅はかそうで、とてもザイオンとの共闘がスムーズにいくとは思えない。


「そうよね……」

 アメリアは拳の先で額をぐるぐると擦った。

 何か良い案が出て来ないかと願うように。

「可能性にかけて、試すぐらいはしてみてもいいかもって思ったんだけれど」

 アメリアはそう言って、短い息を吐くと話題を変えた。


「クロエは、ここに来ちゃった切っ掛けって、何か覚えてる?」

「それがね、さっぱりなの。気づいたら、いつの間にか生まれてたのよ」

「私と同じかぁ」

「アメリアもなの?」

 彼女は自分の意思でこの世界に来たのではないかと思っていたから、クロエは少し驚く。


「……トラックかな」

 漫画や小説、アニメの冒頭で、数え切れない数のトラックがヒーローやヒロインを異世界に弾き飛ばしていた。その後トラックの負った賠償額を考えると、保険会社全般が悲鳴を上げていそうだ。


「……トラックだったら痛いから覚えてるんじゃない?」

「パソコンの前に座ったまま、干物みたいになってたりして」

「あり得る!」

 笑い事じゃないけれど、アメリアとクロエは顔を見合わせて笑う。


「見つけた人にはホラーよね!」

「事故物件になってるかな」


 どこに住んでいたのか、好きなアニメは何か、好きなアニソンは、好きなアーティストは……と、クロエはアメリアとの共通点を見つけることに夢中になった。

 ずっと欲しかった女友達ができて、嬉しかった。


 その浮かれた気持ちが、仇になった。

 クロエはほんの少しばかり、いつもより注意力に欠けていた。


 ユージーンの帰りが遅いことを心配しながらも、すぐに探しに出ようとはしなかった。

 帰ってきた時も、遅くなった理由を問い詰めたりはしなかった。

 そして、少し顔色が悪いように思っても、長い間外出していて疲れたのかな、と楽観的に考えてしまったのだ。


 不穏さを孕みながら、冬月一日の空は静かに暮れていった。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ