Something failed(2)
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食堂内は暖かかったので、ユージーンは椅子に座る前にコートを脱いだ。
テーブルの対面に陣取ったルキルスも、軍用コートを脱いで椅子の背にかけている。
同じようにユージーンが椅子の背にコートをかけた時、大きめのポケットに入っている魔導銃用の弾丸入れが金属音を立てた。買い物の大部分は配達を頼んだが、一部は早く試射してみたいからと持ち帰りにしたのだった。
ユージーンがコートの下に着ていたのは、クロエが買ってきてくれた、タイトな黒色ニットシャツだ。
薄手だがハイネックなので、暖房のある部屋では少し暑く、ユージーンは汗をかいていた。彼は椅子の上に落ち着くと、妹に持たされた小さなハンカチをズボンのポケットから取り出して、額と首の周りに当てた。
妹の細やかな心遣いが嬉しくて、ユージーンは心の中が温かくなるのを感じる。
ハンカチは、清浄な良い香りがした。名前は知らないが、ルファンジア達エルフが好んで使っているアロマの一種だ。洗濯した時に、ほんの少し香り付けしたのだろう。
ユージーンのほっそりした腰には、ポーチとホルスターが提げられていた。ホルスターに収まっている小ぶりの魔導式銃は、ザイオンにもらったものだ。
上手く的に当てられるようになって以来ユージーンは、なるべく銃を携帯するようにしていた。次に危険な目に遭った時は、人の助けを待つのではなく、まずは自分で回避しようと思っての事だ。ポーチには、数種類の弾丸が入っていた。
「弾丸に種類があるなんて、知らなかった」
ユージーンは、幾つか机の上に並べながら見入る。氷結弾は青、火炎弾は赤、電撃弾は黄色と、わかりやすく色分けがされていた。指先の感触でも区別がつくように、形も少しずつ違う。一つ一つに小さな魔法陣が描かれていて、装填して射出すると、魔法陣の魔法が作動し対象物に効果を与える。と、武器店で説明された。
彼は慣れた手つきで、氷結弾を装填し、外す、という動作を2、3回繰り返した。
「上手いな」
対面に座って見ていたルキルスが、驚いた口調で言う。
「軍人並みだ」
「うん。かなり練習した」
褒められてユージーンは嬉しそうな笑みを浮かべる。
見返すルキルスの頬も緩む。
狸型使役魔獣が注文した料理を運んでくると、ユージーンは銃と弾丸をしまって食べ始めた。肉と野菜のごった煮で、丸いパンが付いている。添えられたカップに入っているのは、リンゴとバナナを混ぜたジュースだ。そうか、混ぜてもいいのかと、ユージーンは心の中にメモ書きする。
ルキルスの前には、コーヒーの入ったカップと、パンと野菜と、大きなステーキの載った皿があった。
「悪いな」
そう彼が言ったのは、ユージーンが食事代を払ったからだった。
「こちらこそ。毎日訓練で疲れているのに、……今日は買い物に付き合ってくれてありがとう」
ユージーンは、うっかり『僕なんかのために』と言いそうになって、寸前でやめた。
後ろ向きな言葉を、友達相手に使って気を遣わせたくない。
「疲れたりなんてしてないぞ」
と、ルキルスは言う。
「直射日光に照らされながら甲板を磨いたり、帆に登ったり降りたり落ちたりする生活に比べたら、軍の基礎訓練なんて全然余裕だ」
彼はガツガツとステーキを平らげる。
「落ちたり……?」
ユージーンは船上で見たマストの高さを思い出す。
あの高さから落ちたら、普通は死ぬ。
「ああ。海に出て最初の頃は悲惨だったな。帆を畳む作業をしているうちにだんだんと腕が疲れて、力が入らなくなって、気づいたら落ちてた」
「よく無事だったね?」
「途中でロープに絡まったりしたから、肩をぶつけただけで済んだ。その直後も、荷物運びぐらいはこなしてたよ」
ルキルスは、グレーのシャツの下で力こぶを作って見せる。
「僕もそうやって鍛えたら、筋骨隆々になるかな」
自分とは比べものにならない、ルキルスの大きな肩幅を見ながらユージーンは言った。
貴族学園時代からルキルスは大柄な少年だったが、この数年で鍛えられた筋肉がどっしりと上半身に付いている。
「……筋骨隆々になるつもりか?」
筋骨隆々なユージーンを想像したらしいルキルスは、打ち消すように頭を振った。
「まずは食生活だな。もっと肉を食って、パンも一食に五個は食わないと」
どうにか一人分の皿を完食するのがやっとのユージーンには、無理な話だった。
他愛のない会話を交わす二人を、少し離れたテーブルから熱心に見ているのは、四人の少年少女だ。獣人族、竜人族、人族の混合チームで、特に人族の少女が、じっとユージーンの方を見ている。
「ねえ、お兄さん」
彼らはしばらく相談していたが、やがて人族の少女がユージーンに近寄ってきて話しかける。
「私達と、クエストに行かない?」
憧れを込めた真っ直ぐな視線に、おそらくさっき銃に装填するところを見ていて、凄腕の狙撃手だと勘違いしたに違いないと、ユージーンは気づいた。妹とマシューに手伝ってもらって狩猟民の正式ライセンスは獲得できたけれど、他人とクエストに行けば自分は、足手まといにしかならない。
という事をどう説明しようかと悩む前に、ルキルスが言った。
「こいつは、ジジイかよってぐらい足が遅いから、やめておいた方がいいぞ」
「事実だけれど、酷いなぁ」
ユージーンは笑った。
「そうかぁ、それは残念」
と、少女も笑った。
小柄な彼女の緑がかった黒髪と少し尖った耳は、エルフの血統を感じさせたが、瞳はザイオンのような金色ではない。茶目っ気のある緑の瞳が、ルキルスへ、そしてユージーンへと忙しなく向けられる。少しせり上がった頬骨に、ソバカスが散っていた。純朴そうな、愛らしい少女だと、ユージーンは好感を抱く。
「私達、狩猟学校を卒業したばかりで、卒業生でグループを組んでてね、近接武器ばかりだからか効率が悪くて、他のグループに後れを取ってるの。この拠点に居る短期間だけでも後方で援護してもらえれば、上位用の拠点に早く移動できるって思ったんだ」
彼女は、無理強いする気は無さそうだ。
「早く走れるようになったら、是非考えてみてね」
そう言って、元のテーブルに戻っていく。
改めて見ると、食堂には彼らと同じ年頃の少年少女が多い。数人毎に分かれてはいるが、グループ間で声を掛け合ったりして、殆どが顔見知りのようだ。少女の説明からユージーンは、この国には貴族学園の代わりに狩猟学校というものがあり、卒業は春ではなく秋か冬頃で、今は卒業生達が初心者用のこの拠点で切磋琢磨している時期だと理解した。
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