(1)一日無駄にした
少し戻って
第三部 3-42:帰還(2)
の直後からの話になります。
セレディオスたちを追い出した後、ユージーンとクロエを探そうとして、追跡魔法で初めに探知したのは、魔王城の隣家『天使の館』にあるブレスレットだった。
「ユージーンのブレスレットだが、本人がいない」
ザイオンは、展開した追跡魔法の表示を見ながらアメリアに言った。
「ブレスレットだけだ」
ユージーンの首の後ろには魔力で名前が刻まれているはずなのに、それが感知できないと彼は説明した。
ザイオンは家の周囲に監視用魔導具を設置していた。
それには天使の館周辺も映り込んでいて、過去の画像を検索したところ、出入りしているエルフの一人が紫色のローブを着たセレディオスだと確認できた。
ザイオンは、怒りを再燃させてすぐに乗り込もうとしたが、そこで別の事案が発生した。
もうじき夜になるのに、マクシミリアンがガーディアンズ事務所から戻って来なかったのだ。
追跡魔法を再び起動すると、カウザン第一拠点のどこにも、マクシミリアンがいないことがわかった。
アメリアは、ひどく狼狽えたザイオンの様子を思い出す。
この広い大陸で見失ったら、二度と会えないかもしれない。
捜索円の半径を倍にすると平面の広さは二乗になる。
追跡魔法の対象は三次元空間だから、必要魔力は二乗どころではなく急増する。
ギリギリまで魔力を使ってもマクシミリアンの行方を探知できず、ザイオンは青ざめていた。
「どこに行ったんだ、あいつ……」
「多分ガーディアンズ事務所で有力な情報を聞いたのね。そのまま一人で向かったんだわ」
マクシミリアンの行動を読めなかった自分にも責任がある、とアメリアは後悔した。
何か分かったら戻って来て私たちにも報せてね、と念を押すべきだったのだ。
「事務所に聞けば行き先が分かるはずよ」
拠点の門を守るガーディアンズ事務所では、荷車の出入りを記録していた。
エルフ族長老議会から依頼を受けた傍系のエルフ、マイロディスはミカンを搬入した翌日、ユージーンとクロエの兄妹を乗せて去った。
荷車はミカンの産地であるコルディナの里所有の物だったので、北にあるコルディナの里に向かった可能性が高い。
それを聞いてすぐにマクシミリアンは、ひたすら北へと進んで行ったに違いなかった。
幸いアメリアは地図を携えていたので、コルディナの位置はわかった。
だが黒龍の背に乗って北方向に飛んだザイオンとアメリアは、行程の半分を進んでもマクシミリアンを見つけられなかった。
いくら身体能力の高いマクシミリアンでも、空飛ぶ黒龍が追いつけないのはおかしい。マクシミリアンが道を間違えたに違いないと判断して、彼らは途中で引き返した。
拠点から荷車でコルディナに向かうには、一旦西にある山へ行って、山を越えてから北に向かう必要がある。
山の名前はカウザン山といい、カウザン川の源流となっていた。
西の斜面にある山道沿いに北側へ渡ると、そこには東西に走る大きな道があった。
道の両側には森が繁茂し、東に少し進むと北へと向かう道が分岐している。
「北にはいなかったし、東に直進を続ければギガテス大河に突き当たるから、間違いに気づいて戻ってくるはずよ」
アメリアはこのところ毎日地図を眺めていたので、拠点周辺の地理は頭に入っていた。
「探すとしたら西ね」
彼女が推測した通り、マクシミリアンは西に突進していた。
夜明けを迎え、真後ろに太陽が昇るのを見て何かがおかしいと気づき、足を止めたらしい。
それでようやく、ザイオンの追跡魔法にひっかかってくれた。
黒龍が降り立った時、マクシミリアンはどこからか調達したカンテラを手に持っていた。
ザイオンがマクシミリアンに掴みかかって小言を炸裂させている間、アメリアも龍から降り、道ばたの比較的平らな石に腰を下ろして休憩した。
長い時間両足を開いて龍の身体にまたがっていたせいで、足腰が痛んだ。
ザイオンに借りた革のジャケットは胸周りが少し窮屈なので、息苦しさに負けてボタンを外し、少しだけはだけていた。
抱えている魔法書は、龍に乗っている間ザイオンとの密着を防ぐためのものだ。
黒龍マシューは道を占拠し、身体を丸めて短い眠りを貪っていた。
「お前のせいで一日無駄にした!」
小言が一区切りし、ザイオンはマクシミリアンに指を突きつけて言った。
「俺たちはマシューに乗って先に行くから、お前は走って付いて来い!」
なんて鬼畜なのかしら、とアメリアは思ったが、マクシミリアンは本当に走ってついてきた。
自転車に乗った飼い主と一緒に散歩している犬をアメリアは連想した。
もちろん黒龍は、マクシミリアンを見失わない程度に速度を落としていた。
徹夜での移動は龍も人間も疲れるからと、アメリアは時々休憩を要求した。
ザイオンは気が急いていたようだ。
だが、さすがに体力の限界を感じたのか素直に従ってくれた。
結局コルディナに到着したのは翌日の明け方だ。
様々なことが手遅れになる一歩手前で、彼らは間に合った。
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