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二進法原初魔法  作者: lukecat
コルディナ編
201/206

18:……死んでるのか?

【人物紹介】

ユージーン:

コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。


クロエ:

ユージーンの妹。

本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。


[エルフの里コルディナの住人]

オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。

ヴァン:オルドの父。武器は物干し竿。里長の相談役。

イリス:オルドの母。お喋りが好き。

ラヴィ:オルドの幼馴染み。里の物流担当見習い。指に深い傷を負う。

ミーナ:ラヴィの母。

レノ:ラヴィの父。里の物流担当。薄毛を気にして髪を頭頂で結んでいる。

ミツギ:オルドの家の裏手にある家に住んでいる幼いエルフの女の子

ポルル:ミツギの父。武器は鍋。

サリナ:ミツギの母

バニアルト:コルディナの里長、痩せた老エルフ。長い白髪をお下げの三つ編みにして、両肩から下に垂らしている。



[主人公サイド]

ザイオン:

この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。


マクシミリアン:

ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。


アメリア:

カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。



[エルフ長老議会サイド]

マイロディス:

エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。


ルファンジア:

ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。






⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

『オルド。君のつけているブレスレットは、魔法障壁を自動的に発動させます。二階の入り口を塞いで、皆を守ってください』


 エルフたちを避難させたあの時、マイロディスはオルドがブレスレットをしていることに目敏く気づいていて、効能も正確に知っていた。

 近くに潜んで手に入れる機会を狙っていたのだと考えれば、果樹園にいたことにも納得がいく。


 ユージーンは、マイロディスがオルドたちエルフを守るために戦おうとしているのだと、勝手に思い込んだ。

 だが思い返してみればマイロディスは、そんな意思表示を一度もしていない。


『全員を避難させた後、あの修羅場から一人で逃げ出すつもりでいたのにな』


 クロエとユージーンが一階に残ったせいで彼は、怪しまれずに撤退する機会を失ったのだ。

 マイロディスの『いろいろと想定外だ』という言葉は、引き戸の脆さなどではなく、成り行きで共闘したことを意味していた。




「僕のせいだ……」

 ユージーンは眠っているオルドの横に膝をついた。

「ごめんね、クロエ。僕のせいで……」

 暴力的に奪おうとすれば、ブレスレットは魔法障壁を発動する。 

 だからマイロディスは、オルドが眠っているところを狙った。

 目的を果たした彼は、嘘をばらした上で遁走した、ということなのだろう。


「お兄様」

 クロエが隣に跪いて、ユージーンの身体に両腕を回した。

「大丈夫よ。言ったでしょう? あれはただの迷子札だって」


 クロエはそう言って慰めてくれたが、ザイオンの用意してくれたブレスレットをユージーンはこれまでに二度失った。

 たった今奪われたクロエのブレスレットも入れて通算三つだ。

 さすがのザイオンも呆れるに違いない。


「借金は嘘だったんだ」

 ユージーンは、妹に申し訳なさ過ぎて、涙ぐんだ。

「クロエはここに来る必要なんてなかった。僕の巻き添えになって、危ない目に遭って、その上にブレスレットをなくして……」

 妹が驚いた表情になった。

「嘘だったの?!」


「……支払いに使ったのは、ザイオンから預かったお金だってマイロディスは言った。僕は、そんな大事なこともわからなくて、簡単に欺されてしまった」

 ザイオンや妹に頼らずに、一人でなんとかしようと思った結果がこれだ。

 ユージーンは消えてしまいたい気分になる。


(僕には何もできない。居ても仕方がない。僕は……)

 息がしにくくなっていく。


「良かったわ!」

 クロエがあっけらかんと言った。

 怒り出すとばかり思っていたユージーンは驚いて彼女を見返した。


「これでいつでも帰りたい時に帰れるね。詐欺エルフは絶対に許せないけれど!」

 クロエはニヤニヤし始めた。

「あの男、頭が派手に切れていて何針も縫ったの。あれは絶対、部分ハゲになるわ。お兄様を騙した罰よ。いい気味! 一生後悔するといいわ」


「僕を庇ったせいで、そんなことに……?」

 ユージーンは、マイロディスが最後に見せた笑顔を思い浮かべた。

 何も言わないで立ち去ることだってできたはずだ。

 なのにわざわざ彼は、借金が嘘だと教えに来た。


(僕は、怪我の具合を気遣うこともしなかったのに)


 引き戸が壊れた時、マイロディスが庇ってくれなかったら、血塗れになっていたのはユージーンだった。

 咄嗟に人を庇ってしまう、それが彼の本質なんだとユージーンは思った。

 だから、騙されたことへの怒りよりも、悲しい気持ちが先に立ってしまう。


「どうした?」

 引き戸のない入り口から、足音が近づいてきた。

 ユージーンは緊張して身体を強張らせた。


 隣にしゃがんでオルドを覗き込んだのは、ザイオンだった。

「……死んでるのか?」


 心の準備が、間に合わない──

 たくさんのことをザイオンに謝らないといけないのに、言葉が出なかった。


「誰が死んだの?」

 遅れて近づいてきたアメリアがザイオンの肩越しに、安らかに眠るオルドを見た。

ユージーンが深刻な表情で彼の傍に膝をついていたために、誤解を招いたようだ。


「死体にしては血色がいいわ」

「オルドよ。この家の息子で、果樹園の管理人」

 クロエが紹介した。

「ああ、里長の補佐をしていたヴァンの息子さん」

 アメリアが頷く。

「クロエのブレスレットを使って、みんなを守り抜いたと聞いたわ。一晩中気が抜けなくて、疲れたのね」


「マイロディス……僕たちをここに連れてきた傍系のエルフが」

 ユージーンは誰の目も見返すことができずに、項垂れた。

「そのブレスレットを、持ち去ったようなんです」


 ザイオンが自分のブレスレットを操作し始めたので、ユージーンは顔を上げた。

 薄い光を放つ小さな窓がブレスレットの上に現れた。

 そこに表示された輝点が、動いている。


「まだそれほど離れてないな」

 ザイオンは周囲に視線を走らせて、方角を確認する。

「南か」

「追いかけてボコボコにする?」

 クロエが立ち上がった。

「……いや」

 ザイオンは軽く指で弾いて、光る窓を閉じた。

「行き先の予想はついている。巣に運び込まれるのを待とう」


「……すみませんでした」

 ようやくユージーンは、謝罪する勇気を絞り出した。

 彼はザイオンの目をまっすぐに見て、逸らすまいとした。

 そうしないと謝ったことにはならないと思ったからだ。

「僕は、言われるままここに来て、自分のブレスレットも渡してしまいました。たくさん迷惑をかけてゴメンなさい……」


 ザイオンがひどく哀しげな表情をしたので、ユージーンは言葉を詰まらせた。

 失望させてしまった、と思った。

 彼の気遣いをことごとく踏み躙ってしまった。

 もう今までのようには、接してくれないだろう。


「お前は」

 ザイオンが手を伸ばしてきたので、ユージーンは反射的に身をすくめた。

 殴られても仕方がないと、踏みとどまったユージーンの髪を、ザイオンはグシャグシャと乱した。

「どうして、俺に敬語なんて使ってるんだ?」

 叱責を待っていたユージーンは、予想外の言葉に目を瞠った。


「俺は……その」

 乱れた髪を撫でる指から温かさが伝わる。

「一応、お前やクロエの兄のつもりでいるから。もっと図々しくなれ。俺を罵倒するぐらいの勢いでいい」


 ザイオンは、怒ってはいない。

 失望してもいない。

 ユージーンは、俯かないように必死で顔を上げていた。

 俯いたらきっと、涙がこぼれ落ちてしまう。


 ザイオンは、ユージーンの頭を軽くつつくと、立ち上がった。

 なぜか彼は、小脇にキャベツの玉を抱えていた。

「ブレスレットのことは気にするな。あれは安全装置のついた荷札みたいなものだ」

「荷札……!?」


 迷子札よりも格が下がっている。


「私たちを出荷でもするつもりなのかしら?」

 アメリアが自分のブレスレットを掲げた。

「せめて名札って言いましょうよ」


「実際に刻んでいるのは名前ではなく連番の数字だから、荷札止まりだな」

 ザイオンはクロエを振り返った。

「マクシミリアンはどうした?」


「まだ私の部屋で寝てるみたい」

 クロエはユージーンを引っ張って立たせると、微笑んだ。

「言った通りだったでしょう? 履き物を持って来るから待っててね、お兄様」

 そして、出入り口を抜けて出て行った。


「座ってろ。一通り片付けられてはいるが、どこかに破片が残っているかもしれないから、裸足でウロウロしない方がいい」

 ザイオンはユージーンに食卓を指さすと、キャベツの玉を持って厨房へ向かう。

 食卓には昼食が準備されていた。

 大皿の上に茹でた芋や加工肉が盛り付けられていて、朝よりも品数が多い。


「キャベツ畑の向こうに半分枯れたでかい葉が生えていたな。何の野菜だろう?」

 ザイオンはキャベツの玉から葉を千切り始める。

「多分里芋だと思う。お願いすればそれも掘ってくれたんじゃないかな。この里のエルフたちは素朴で親切ね」

 アメリアが麻袋を持ってザイオンの隣に立つと、土の付いた大根や人参を取り出して流しに置き始めた。

「油断するなよ? 王国人排斥派っていうのが、紛れているかもしれない」

「そうね……一緒に暮らしていてもわからないぐらいだものね」

 アメリアの言葉が、少し哀しげに響いた。


「ねえ、ここで土を洗い流してもいいと思う?」

「いや、駄目だろう。ボウルに水を生成して、その中で土を落とせ。配水管が詰まりそうだって、少し考えればわかりそうなものだが」

「……そうかなって思ったから訊いてみたのよ。なのにいちいち人を貶める必要ってある? 私、貴方のそういう一言多いところが嫌い」

「……え」

 ザイオンの手が止まった。

「ボウルね。ヴァンに自由に使っていいとは言われたけれど、他人の台所ってわかりにくいわ」

 動きを止めたまま沈み込んでいる様子のザイオンを無視して、アメリアは厨房の周辺にある収納をあちこち開け始めた。


 ユージーンは食卓のそばにある椅子に座って、二人のやり取りを眺めていた。


『もっと図々しくなれ。俺を罵倒するぐらいの勢いでいい』

 ザイオンの言った通りのことを、今アメリアがやってみせてくれた。

 彼女のようにはできないけれど、いつか軽口を叩けるぐらいにはなりたいと、ユージーンは思う。


『一応、お前やクロエの兄のつもりでいるから』


 ザイオンの台詞が、ユージーンの内側で何度も繰り返され、浸透していく。

 呼応するように胸の奥で広がる温かな感情の名前を、彼は思いつけないでいた。




















これでコルディナ編は終わりです。

収まり切らなかった部分を、エピローグや番外編の形でいつか追加するかもしれないです。

⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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