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二進法原初魔法  作者: lukecat
コルディナ編
200/206

17:ブレスレットは戻ってこない

【人物紹介】

ユージーン:

コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。


クロエ:

ユージーンの妹。

本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。


[エルフの里コルディナの住人]

オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。

ヴァン:オルドの父。武器は物干し竿。里長の相談役。

イリス:オルドの母。お喋りが好き。

ラヴィ:オルドの幼馴染み。里の物流担当見習い。指に深い傷を負う。

ミーナ:ラヴィの母。

レノ:ラヴィの父。里の物流担当。薄毛を気にして髪を頭頂で結んでいる。

ミツギ:オルドの家の裏手にある家に住んでいる幼いエルフの女の子

ポルル:ミツギの父。武器は鍋。

サリナ:ミツギの母

バニアルト:コルディナの里長、痩せた老エルフ。長い白髪をお下げの三つ編みにして、両肩から下に垂らしている。



[主人公サイド]

ザイオン:

この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。


マクシミリアン:

ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。


アメリア:

カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。



[エルフ長老議会サイド]

マイロディス:

エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。


ルファンジア:

ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。






⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 ユージーンは長い夢を見ていた。

 夢だという自覚はあった。

 時々目を覚ましては、重い疲労感に引き込まれるようにして夢に舞い戻っていたからだ。

 夢に紛れ込んで、クロエとマクシミリアンの会話が聞こえてきた。


『……北に行くには、西の山を越えなくちゃいけないってイザンが言ったんだ。荷車も同じ道を通ったはずだからって』

『……イザンってあの黒狼の人?』

『そう! ……山を越えて、北に進んでたつもりなんだけれど……』

『地図がないと難しいよね』

『そうなんだ。……ザイオンが追いかけてきて、お前のせいで一日無駄にしたって……』


 ザイオンが迎えにきてくれた。

 自分には帰る場所があると思うだけで、嬉しくて胸が熱くなる。


 でも、話さなくてはいけない。

 すぐには帰れないことを──

 ユージーンは起きようと足掻くが、夢から抜け出すことができない。


 最後に見ていた夢で彼は、生首蝙蝠が飛び交う暗闇の世界にいた。

 頭上で翼の音が聞こえた。

 淡い光を纏った生首蝙蝠が何匹も、飛び過ぎていった。

 ユージーンは身体を低くし、見つからないように移動する。

 出口を探すが、どちらへ行けばいいのかわからなかった。

 手に持っているのは、魔導銃だ。

 妹が長い名前をつけていたが、忘れてしまった。


 手探りすると、岩のような壁があった。

 湿気た壁に指先を触れながら、進む。

 出口に近づいているのか、遠ざかっているのか、そもそもこの世界に出口はあるのか。


 また翼の音がして、ユージーンは頭上を見る。

 人間の生首に似たものが、蝙蝠のように上へ下へと大きく振れながら飛び過ぎて行った。

 生首には、見覚えのある顔が付いていた。


 ユージーンの視線に気づいたかのように、その化け物は振り返った。

 黒髪に黒い瞳。

 父親そっくりの男の顔が、怒りの表情を浮かべている。


(見つかった?!)

 震える手で銃を構える。

 こちらに向かってくるその顔に向けて、引き金を引いた。


 かしゅ、と気の抜けた音だけが響き、銃弾は発射されなかった。

 弾が入っていなかった。

 身体を探ってみると、ガンベルトもポーチも見当たらない。


 大きな口を開けた、父親の顔が迫ってくる。

 生首蝙蝠じゃない──

 人の頭部と同じ大きさをしていた。


『ユージーン』

 父親の生首が呼んだ。


 ユージーンは逃げだそうとしたが、動けなかった。

 恐怖で腰が抜けていた。






 誰かに呼ばれたような気がして、ユージーンは目を覚ました。

 悪い夢はすぐに去って、あやふやになった。

 自分が暖かい毛布の中にくるまっていて、そこが宿舎の部屋であることに彼は気づいた。

 食卓で寝てしまった後、誰かが運んでくれたらしい。


 まだ脱力感の残る身体をゆっくりと起こすと、ベッドの横に人影があった。

 予想外のことにユージーンはビクリと震えた後、固まった。

 それはマイロディスだった。


「やっと起きたか」

 マイロディスが言った。

 ユージーンを呼んでいたのは彼らしい。

 マイロディスの頭には新しい包帯が巻かれていた。


 窓の外を見れば日が高い。

「僕は……寝坊したんですね」

 それでマイロディスが起こしに来たのだと思った。

 何があろうと働いて金を返せと催促するのが、彼の役割なのだろうと。


「……馬鹿だな、君は」

 マイロディスが嗤う。

「借金の話は嘘なのに」


「え?」

 さっきまで寝ていた頭では、うまく考えられなかった。

「どういう意味ですか?」


 マイロディスは悪びれる様子もなく答えた。

「医療費の支払いにあてた金の出所はザイオン様だ。だから君には借金などない。つまり、ここで働いて長老議会に返済する必要は無い」


 衝撃だった。

 予想外のことに、感情が付いていかない。

「……どうして、そんな嘘を?」

 そう尋ねることしかできなかった。


「あの新型魔導具は、自ら差し出してもらう必要があった。暴力に訴えて奪おうとすれば魔法障壁が発動するかもしれないからね」

「新型魔導具?」

 それがブレスレットのことだとユージーンが思い至る前に、マイロディスは歩き出していた。

「全員を避難させた後、あの修羅場から一人で逃げ出すつもりでいたのにな。一緒に戦うなんて想定外だったよ」


 マイロディスは引き戸を開けて出ると、こちらに向き直って手をヒラヒラと振った。

「君はお人好し過ぎる。もう少し、妹を見習って人を疑った方がいいぞ。……じゃあ、元気で」

 そう言って爽やかな笑顔を見せると、戸を閉めた。


 借金は嘘……?

 返済が完了すれば、担保に取ったブレスレットを戻してくれる、という約束だったはず。


(ということは、ブレスレットは戻ってこない……?!)


 ユージーンは毛布を撥ね除けた。

 ベッド横に置いてあるブーツを見つけたが、履く時間も惜しんで、外に向かう。

 勢いよく戸を引き開けて、廊下に飛び出すが誰もいない。


 左手には引き戸の並んだ長い廊下が伸びていて、突き当たりは階段に続いている。

 右手には部屋はなく、別の階段が一階に下りていた。

 廊下に姿が見えないということは、マイロディスは右手の階段を下りたのか──


 そこへ、クロエが階段を上ってきた。

「お兄様? お昼ご飯……」

 彼女はユージーンの焦った表情を見て、言いかけた言葉を止めた。

「何かあったの?」

 その視線が、ユージーンの素足に向けられる。


 マイロディスを見なかったか訊こうとして、ユージーンは悪い予感に襲われた。

 イリスが詰問した時、マイロディスは『兄妹が無事かどうかを確認しに来た』と答えた。

 借金の話が嘘で、『新型魔導具』を手に入れることが目的だったというのなら、あの言葉も嘘だろう。

 目的を果たした後、もう一度里に戻って来た理由はおそらく──


「クロエのブレスレットは、今どこに?」

 ユージーンの問いに、クロエは答える。

「結界用の龍紅玉に充填し終わった後、オルドが寝ちゃったの。起きたら返してもらうつもりで……」


「今すぐ、確認した方がいい」


 クロエは不思議そうに兄を見返した後、さっと踵を返した。

 階段を駆け下り、空き地で丸まって眠っている黒龍マシューの横を通って、母屋を目指す。

 ユージーンは、裸足のままその後に続いた。

 彼の悪い予感は的中した。


 オルドは、柱のすぐ横に敷かれた毛布の上で寝ていた。

 彼の左手首に、ブレスレットはなかった。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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