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二進法原初魔法  作者: lukecat
コルディナ編
199/206

16:……少しだけ休もう

【人物紹介】

ユージーン:

コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。


クロエ:

ユージーンの妹。

本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。


[エルフの里コルディナの住人]

オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。

ヴァン:オルドの父。武器は物干し竿。里長の相談役。

イリス:オルドの母。お喋りが好き。

ラヴィ:オルドの幼馴染み。里の物流担当見習い。指に深い傷を負う。

ミーナ:ラヴィの母。

レノ:ラヴィの父。里の物流担当。薄毛を気にして髪を頭頂で結んでいる。

ミツギ:オルドの家の裏手にある家に住んでいる幼いエルフの女の子

ポルル:ミツギの父。武器は鍋。

サリナ:ミツギの母



[主人公サイド]

ザイオン:

この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。


マクシミリアン:

ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。


アメリア:

カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。



[エルフ長老議会サイド]

マイロディス:

エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。


ルファンジア:

ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。






⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 ザイオンの美しい容貌は髪飾りやイヤリングで彩られ、手の指の全てに指輪があった。

 黒革の服にあしらわれた龍紅玉も色鮮やかだ。

 まるで、黒龍を背景にした一枚の絵画のようだとユージーンは思う。


 それに加えて、あの厄介な人型モンスターを一瞬で葬った無敵さだ。

 彼の強烈な存在感に圧倒され、エルフ族の人々は思わず跪いたのだろう。


 その彼が、帰るぞ、と言った。


 ユージーンの胸の内に嬉しさが生まれかける。

 だが、そんなはずはないとすぐに打ち消した。

 あれはクロエに言った言葉だ。


 喜んでしまったあとで、勘違いだと知って打ちのめされる予感にユージーンは怯えた。

 何の役にも立たない自分を迎えになんて来るはずがない。

 与えられていた仕事はエルフたちでこなせるものだし、休んでばかりの自分は居ても迷惑なだけだ。


 それに、帰れない。

 まだ借金を返していない。

 ここに留まって働いて、マイロディスからブレスレットを返してもらわなくてはならなかった。


「簡単に言わないで」

 黒龍の方から、女性の声がした。

「貴方も王子も二日ほど寝ていないし、連れて帰る方法も考えないと」


 ザイオンにばかり目を向けていたせいで、黒龍に乗っているもう一人の人物に、ユージーンは気づいていなかった。

 黒の革服を身に着けた女性が、龍の鞍からゆっくり下りて来た。

 ユージーンは彼女とは、ザイオンの家で会ったことがあった。

 茶色の髪に知的な灰色の瞳をした小柄な女性──アメリアだ。


 アメリアは肩から斜めがけにしたベルトに、分厚い装丁の本を提げていた。

 彼女の登場は、その場の神々しい雰囲気を現実に引き戻した。

 エルフ族の人々が顔を上げ、何者だろうと訝しがっている。


「アメリア!」

 マクシミリアンと一緒に、クロエが前に出た。

「クロエ!」

 アメリアと妹が抱き合う様子を、ユージーンは眺めた。

「無事で良かった!」

「何とかね」

 以前友達のいる人を羨ましがっていたクロエだが、もう寂しい思いをすることはなさそうだとユージーンは安堵する。

 マクシミリアンは、油断なく周囲を見回しながらクロエの傍に控えていた。


「連れ帰る方法……?」

 ザイオンは黒龍を振り返り、二人分しかない鞍を見た。

「マシューの足に一人ずつ、ぶら下げるのはどうかな? 左足にユージーン、右足にクロエで。マクシミリアンは走って来たんだから、走って帰れるだろう」


 ユージーンは短く息を吸い込んだ。

 大きく膨れ上がる感情を、用心深く彼は受け入れていった。

 帰っていいんだ……帰れるんだ、と、ザイオンの言葉を反芻する。

 左足にユージーン、右足にクロエ。

 黒龍の後肢にぶら下げられて飛ぶ自分とクロエの姿をユージーンは想像した。


「ほら、寝不足で頭が働いていないでしょう?」

 アメリアが笑ったので、その運搬方法が現実的ではないことにユージーンは気づいた。

「途中で落ちて死んじゃうわよ。もっと安全な方法を考えなくちゃ」


「あらゆる聖霊の祖にして我らが始祖、アレシャトに繋がる王の血筋の方に、コルディナの里長バニアルトがご挨拶申し上げます」

 三叉路から丁寧な言葉でザイオンに呼びかけたのは、痩せた老エルフだ。

 長い白髪をお下げの三つ編みにして、両肩から下に垂らしている。

「このたびは、我がコルディナの里をお救いくださり、誠にありがとうございました」


「あの人型モンスターたちは、里を襲っていたんですか?」

 尋ねたのはアメリアだった。

 ザイオンは威圧するような目でエルフたちを見下ろしている。


「はい。昨日突如現れた奴らに、危うく皆食われるところでございました」

 老エルフは、後ろにいるエルフたちをさし示した。

「ここにいるのは比較的軽傷の者ですが、重傷を負って動けない者も多数います」

「それは災難でしたね」

 耳や頭から血を流しているエルフたちを見て、アメリアは表情を引き締めた。

「まずは応急手当をしなくては。それからあの人型モンスターがどこから来たのかを調べて、封鎖する必要があります。そちらは軍隊の管轄になりますね。医師も手配できるか、きいてみます」

 アメリアは耳に付けた魔導具に手を触れて、どこかに連絡を取り始めた。




 ユージーンは慣れない戦闘で体力の限界を迎えており、その後のことは断片的にしか覚えていない。


 気がつけば彼は、オルド家の食堂で二度目の朝食を食べていた。

 引き戸はなくなっていたが、暖炉で盛大に火が熾っていて、寒くはない。

 火の中に、引き戸の残骸が見えた。

 ヴァンたちが家の中を片付けたついでに、そこに放り込んだようだ。

 オルドは柱の前で、再び龍紅玉に魔力を充填している。


 生首蝙蝠の遺骸が積み上がっていた食卓の上は、綺麗に片付けられていた。

 イリスは天板を拭き清め、幾つもの大皿を置いた。

 その上にはパンやチーズ、目玉焼きが盛られている。

 ラヴィが昨日荷車で運んできて、保冷庫に入れておいた品だ。

 配達どころではない状況なので、朝食として有効活用されたようだった。

 途中でイリスは、怪我をしたエルフたちの手当に呼び出されて出かけて行った。


「もう勝手にいなくなるな」

 隣に座ったザイオンが、ユージーンに言い聞かせていた。

「……王国人排斥派とやらがいるらしい。次は命を狙ってくるかもしれない。俺の目の届くところにいろ」

 なんと返して良いかわからず、ユージーンはただ頷いていた。


「貴方やクロエがいないと、寂しくて泣いちゃうっていう意味よ」

 アメリアが一瞬近づいてきて、ユージーンにそう耳打ちした。

「俺は……泣いてない!」

 ザイオンの抗議には素知らぬ顔でアメリアは、食卓の対面にいる老エルフとヴァンのところへ戻り、周辺の地図を一緒に覗き込んだ。

 そこでは、崩落した谷の調査についての話し合いが行われていた。

 人型モンスター専任の軍隊が間もなく到着するので、駐留場所の候補をいくつか挙げているところだ。


 ザイオンの更に隣にはマクシミリアンが座って、平らげた自分の取り皿を眺めていた。

「さっきさ」

 オレンジジュースを運んできたクロエに、彼は言った。

「ちょっと離れた建物で、美味しそうな草食竜を見かけたんだ……」


「指の人の竜ね。生きてたんだ!」

 クロエの言う『指の人』とは、指に大怪我を負ったラヴィのことだろう。

 彼女はコップにジュースを注いで、マクシミリアンの前に差し出した。

 マクシミリアンはジュースを受け取りながら続けた。

「アイツはでかくて固いから解体が大変だけれど、太もも辺りの肉が美味い」

「勝手に解体するなよ?」

 ユージーンが心配になってきたところで、ザイオンが戒めてくれた。


「駄目……駄目です、黒龍様!」

 哀れっぽい懇願が聞こえてきたので振り返ると、壊れた入り口の向こうに、ラヴィがいた。

「この子は、ネアは……うちの、大事な子なんです!」


 飼っている草食竜を伴って母屋と黒龍の隙間を通り抜けようとしたが、狭すぎたらしい。

 黒龍マシューが頭をもたげ、通り抜けられずにつっかえている草食竜の匂いを嗅いでいた。

「あ。ずるい、マシュ!」

 マクシミリアンが立ち上がって叫んだ。

「太ももは残しておいて!」


 黒龍は顔をふいと逸らして、前肢の上に顎を乗せた。

 食べるつもりではなかったようで、身体を寄せて、草食竜を通してやる。

 ラヴィは怪我をした手で、必死に草食竜の轡を引っ張って三叉路に逃げた。

「ああぁ、行っちゃった」

 マクシミリアンの残念そうな声と、クロエの笑い声が遠くからのように響いた。

 ユージーンの重い瞼が閉じようとしていた。


(疲れた。……少しだけ休もう)


「マシューは最近好き嫌いが多いな」

 隣でザイオンが呟いた。

 ユージーンには、その後の記憶がない。

 食卓にもたれたまま、寝落ちしたらしかった。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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