15:終わり
【人物紹介】
ユージーン:
コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。
クロエ:
ユージーンの妹。
本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。
[エルフの里コルディナの住人]
オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。
ヴァン:オルドの父。武器は物干し竿。里長の相談役。
イリス:オルドの母。お喋りが好き。
ラヴィ:オルドの幼馴染み。里の物流担当見習い。指に深い傷を負う。
ミーナ:ラヴィの母。
レノ:ラヴィの父。里の物流担当。薄毛が気になる。
ミツギ:オルドの家の裏手にある家に住んでいる幼いエルフの女の子
ポルル:ミツギの父。武器は鍋。
サリナ:ミツギの母
[主人公サイド]
ザイオン:
この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。
マクシミリアン:
ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。
アメリア:
カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。
ルキルス:
ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。
[エルフ長老議会サイド]
マイロディス:
エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。
ルファンジア:
ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。
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「……なんて無茶をするんですか」
ユージーンはマイロディスに手伝ってもらって立ち上がりながら、思わず言った。
「でも、二度も助けてくれて、ありがとうございます」
「助ける気なんてなかったんだがな」
マイロディスは気まずい表情になった。
善人ではない、と言い切ったのに真逆の行動を取ったせいだろう。
「君が逃げもせずに突っ立っているのを見たら腹が立った」
「僕は……怖いと、身体が動かなくなるみたいなんです」
ユージーンは、マイロディスに微笑みかけた。
「貴方が無事で良かった」
マイロディスのズボンはあちこち破れ、血で濡れていた。
あっという間に食べ尽くされても不思議ではない状況だった。
「私にも魔法障壁の心得があってね」
マイロディスは火掻き棒を小脇に抱え、解けかけた左手の包帯を巻き直し始めた。
「まあ、すぐに魔力切れを起こしたが」
「お兄様、大丈夫?」
クロエはマクシミリアンの戦いをしばらく見守った後、ユージーンの傍にやってきた。
「うん……」
ユージーンは正直に告白した。
「怖過ぎて、腰が抜けた。まだ身体に力が入らないよ」
「ふふ」
クロエは小さく笑ってみせたあとで、目を潤ませて兄を抱き締めた。
「マックスが間に合って良かった。……彼なら絶対探しに来てくれると思ってたの」
「君の無謀さは、あの銀髪の化け物を織り込んだ計画だったというわけか。巻き込まれて死ぬところだった」
マイロディスは、左手の包帯の内側へ端を押し込んだ後、右手の包帯を巻き直し始めた。
ユージーンを引き戸から守った時に打った頭には、流れた血が髪に付いたまま固まりかけている。
目元に滲んだ涙を指で払ったクロエは、マイロディスを振り返った。
「化け物じゃないわ、よく見てよ。強くて、格好良くて、可愛いでしょ?」
「マクシミリアンは、妹の彼氏なんです」
ユージーンが補足する。
「へーえ」
どうでもいいと言いたげなマイロディス。
マクシミリアンは人離れした跳躍力を見せて、頭上に剣を叩き込んでいた。
生首蝙蝠たちは剣に触れた途端、粉のように分解されて消えて行く。
「よし、届いた!」
着地したマクシミリアンは、少年のような笑顔を見せた。
そして次の獲物を求めて、再び駆けた。
生首蝙蝠たちは、逃げようとする仲間同士で衝突し、混乱して右往左往していた。
マクシミリアンは時々、手掴みした一匹の翼をもいで、宙に放り投げた。
すると、魔法弾を投げた時のような化け物同士の共食いが始まる。
そこへ剣を叩き付けることで、マクシミリアンは効率良く彼らを排除していった。
まるで彼らと戦った経験があるみたいだ、とユージーンは思った。
突然、生首蝙蝠が一斉に高度を上げた。
逃げるというよりは、新たな行き先を見つけたかのような動きだ。
二階の窓に張り付いていた生首蝙蝠たちも、彼らに合流した。
その行方を目で追ったユージーンの視界に、集落周辺から上空へと飛び立つ、たくさんの影が映った。
里にいる生首蝙蝠が全て、同じ方向を目指して飛び始めているようだ。
「もう終わっちゃった」
残念そうに言いながら、マクシミリアンが剣を下ろして戻ってきた。
クロエが自分から離れて彼に駆け寄る様子を、ユージーンは微笑ましく見送った。
ほんの少し、寂しい気持ちになる。
「マックス!」
クロエがマクシミリアンの逞しい体躯に抱き付いた。
「また助けられたね、ありがとう!」
「僕は、何十回も何百回もクロエを助けるよ」
マクシミリアンは大きな黒い剣を掲げた。
「見て! これは探索の途中で見つけたタイサムシングフェイルドトッカガタの魔導武器でね……えっと……何だっけ?」
「もしかして、魔法障壁ごと人型モンスターを消し去る魔法の剣?」
「そう! よく分かったね?」
陽が昇って、世界の色が変わり始めた。
異形の化け物たちがどこへ向かったのか、探す必要はなかった。
朝の光が、里の上空に浮かぶ灰色の巨大な珠を照らし出した。
生首蝙蝠の翼で覆われた大きな塊だ。
中心に何があるのか、地上から見ることはできない。
「凄まじい魔力に引きつけられているようだ」
見上げたマイロディスは、恐れを感じたように身を竦めた。
バタバタと足音がして、母屋からヴァンが駆け出してきた。
「救援が来たのか?」
彼は空を見上げ、ユージーンの横で立ち止まった。
「あれは……なんだ?」
遅れて、オルドやラヴィも出て来た。
「なに、あれ……?」
「でかい……!」
ラヴィは指の痛みを忘れたようだ。
「母さん! 窓を開けて空を見て!」
壊れた扉から屋内に向かって、彼はそう呼びかけた。
「僕は……ネアが無事か見てくる」
二階の鎧戸を開ける音がした。
イリスたちの興奮した話し声が聞こえてきたが、内容まではわからなかった。
「新たな化け物登場……というところか」
冗談めかしたマイロディスの言葉に、ユージーンは思い出す。
マクシミリアンは、違う方角へ向かっていたと言っていた。
多分上空にいるのは、間違った道を行くマクシミリアンを見つけ、正しい方角を教えられる存在。
そして、魔力が多く、生首蝙蝠たちを呼び寄せてしまうであろう人だ。
ユージーンは、息を詰めて見上げ続けた。
すると、信じがたいことが起こった。
灰色の翼が集結してできた巨大な塊が、ふいに輪郭を失った。
そのあとには薄い雲のようなものが漂い、朝陽を浴びて煌めいた。
その雲も、次の瞬間には消えていた。
「おお……」
見上げていたオルドやヴァンが、長い息を漏らした。
異形の化け物たちが消えた後、姿を現したのは、見覚えのある黒い龍だった。
翼で滑空しながら近づいてくる。
そして、オルドの家の上空を旋回した。
「みんな、下がれ!」
ヴァンが声をかけた。
マクシミリアンとクロエ、ユージーン、マイロディス、オルド、ヴァンが母屋のギリギリ壁際まで後退すると、黒龍は空き地にゆっくりと降り立った。
空き地の八割がその巨体で埋まった。
集落の方から、龍を見て追いかけて来たらしい大勢のエルフが三叉路に詰めかけたが、それ以上近づくことができなかった。
黒龍はお辞儀でもするように身体を低くした。
鞍から下りてきたのは、ザイオンだった。
ヴァンが跪いて、胸に手を当てた。
彼だけでなく、オルドも、三叉路にいるエルフ族の人々も次々に跪いた。
立っているのはマクシミリアンと、クロエ、それにユージーンの三人だけだ。
ユージーンも、他のエルフたちのように跪きたい衝動に駆られた。
ザイオンはユージーンとクロエを見ると、軽く溜め息を吐いた。
「帰るぞ」
と、彼は言った。
なんだか、泣きそうな顔をしていた。
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