表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二進法原初魔法  作者: lukecat
コルディナ編
197/206

14:新種の化け物

【人物紹介】

ユージーン:

コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。


クロエ:

ユージーンの妹。

本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。


[エルフの里コルディナの住人]

オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。

ヴァン:オルドの父。武器は物干し竿。里長の相談役。

イリス:オルドの母。お喋りが好き。

ラヴィ:オルドの幼馴染み。里の物流担当見習い。指に深い傷を負う。

ミーナ:ラヴィの母。

レノ:ラヴィの父。里の物流担当。薄毛を気にして髪を頭頂で結んでいる。

ミツギ:オルドの家の裏手にある家に住んでいる幼いエルフの女の子

ポルル:ミツギの父。武器は鍋。

サリナ:ミツギの母



[主人公サイド]

ザイオン:

この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。


マクシミリアン:

ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。


アメリア:

カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。



[エルフ長老議会サイド]

マイロディス:

エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。


ルファンジア:

ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。






⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 外はまだ暗かった。

 星が空を覆っている。


『北の五つ星……を矢で狙う英雄マリウス。色目を使う魔女。に、覆い被さる巨人』

 いつか海上で、ルキルスが息も絶え絶えに口にした星座の名を、ユージーンは思い出した。

『巨人の心臓に繋がれた、鎖。鎖を持つ、狩人』


 星が多すぎて、どう繋げば巨人や魔女になるのかユージーンにはわからなかった。

 夜明け前の風が冷たい。

 だが、寒いと思う余裕もない。


 マイロディスが詠唱し、小さな魔法灯火を浮かべた。

 ユージーンたちは、灯りの届く範囲に留まった。

 静けさの中、翼の音だけが響いている。

 敵は灯りの外側から突然襲ってきた。


 マイロディスが火掻き棒で、向かって来た生首蝙蝠の一匹を打ち払った。

 クロエが飛翔棍をクルクルと回し、数匹の魔法障壁を剥ぎ取った。

 弱って逃げだそうとした奴に銃撃でとどめをさすのは、ユージーンだ。

 ポーチの中の通常弾が減っていく。


 遠くから、怒号が聞こえてきた。

 龍紅玉の魔力が尽きた後、集落に向かった人型モンスターもいるようだ。

 混乱の中、どれだけの数が食堂に侵入し、外に居残り、集落に移動したのか、見当も付かなかった。

 敵が分散したおかげで、三人は善戦できたのだろう。


「オルドたちは、大丈夫かしら」

 クロエが呟いた。

「人の心配をしている場合じゃないぞ」

 しつこく特攻してくる生首蝙蝠の一匹に、火掻き棒を振り回しながらマイロディスは言った。

 その両手に巻いていた包帯は汚れ、半ば解けている。


 ユージーンは鞄に残っていた魔法弾を一つ、空中に放った。

 一匹が食らいつき、燃え上がった。

 共食い現象が起こり、その間だけ三人は休憩することができた。

 指で鞄に残った魔法弾を探ってみて、あと5発、とユージーンは呟いた。


「救援はまだなの?」

 クロエはマイロディスに尋ねる。

「私にわかるわけがないだろう」

 突き放す口調でマイロディスは答えた。

「通信魔導具を失ったんだからな!」

 彼は苛立たしげに、髪に刺さっていた木の破片を取り除いた。


「……さっきは、ありがとうございます」

 ユージーンの言葉に、マイロディスは何の事かわからないと言いたげに眉を寄せた。

「戸が壊れた時、助けてくれて」

「ああ」

 マイロディスは苦笑いした。

「まさか、引き戸があんなに脆いとは思わなかった」


 遠くから聞こえる怒号に、多くの悲鳴が混じり始めた。

 ユージーンたちには、助けに行くような余裕はない。

 死人が出ないようにと、祈ることしかできない。


 その後も三人で、襲ってくる生首蝙蝠を撃退し続けるうちに、思考が麻痺していた。

 ガンベルトに手をやってからユージーンは呟いた。

「弾切れだ……」

 ポーチにも、通常弾はない。

 魔法弾は、撤退用に残しておきたかった。


「夜明けだわ」

 クロエが疲れの滲んだ声で言った。

 いつの間にか薄明が訪れていた。


 東の空を振り返ると、ピンクや赤紫、青紫と、変わりゆく色彩を背景に、母屋の二階の窓に張り付いている数十匹近い化け物の翼が見えた。

 オルドたちの魔力に引き寄せられているのだろう。


 一匹の生首蝙蝠が、食堂から姿を現した。

 そのまま二階の窓へ吸い寄せられるように飛んで行く。

 二匹目、三匹目が同じ行動を取り、後を追う数が一気に増えた。

 これほど多くの化け物が中にいたのかと、驚く。


 ユージーンたちは、彼らの飛行経路から急いで距離を取った。

 三叉路の手前でユージーンが振り返ると、逃げる動きに誘われるように、十数匹が翼を翻して向かってきていた。


 納屋の前でマイロディスは先頭の一匹をなぎ払ったが、別の三匹に纏わり付かれ、必死の攻防を繰り広げ始めた。

 クロエは宿舎の前にいた。

 彼女は飛翔棍でかなりの数を弾いた。

 けれど、仕留めきれなかった数匹が彼女を狙って飛び回っている。


 ユージーンを狙ってきた生首蝙蝠は二匹だ。

 だが、弾切れで銃は使えない。

 逃げるしかない──


 彼は残った魔法弾を全て地面にばらまいた。

 確かクロエは、一撃撤退作戦だと言った。

 

 早速化け物たちが、争いながら魔法弾に食いつく。

 クロエやマイロディスに纏わり付いていた連中も、こちらに向かってきた。

 何度も目にした、共食いの光景が始まる。

「クロエ! 今のうちに宿舎へ……」


 無数の羽ばたく音に気づいて視線を上げると、母屋の二階を目指したはずの集団が向きを変えて、突撃してくる姿が見えた。

 共食いに参加しようとしたのだろう。

 視界を覆うほどの、凄い数だ。

 自分に向かってくる生首蝙蝠たちを見上げながら、ユージーンはその場に棒立ちになった。


 クロエも見上げて、短い悲鳴を上げた。

 化け物の巨大な群れが、ユージーンに迫る。


 目の前に、人間に似た頭部がひしめいた。

 だが彼らの目に知性の輝きはない。

 ひたすら食べ物を求め、口を大きく開けて突っ込んでくる。

 マイロディスの『腹が空けば何でも食う』という言葉通りだ。


 痛みを予想してユージーンは怯んだ。

 痛いのは怖い。

 全てをかなぐり捨てて、逃げ出してしまいたくなる。

 人としての尊厳を失い、這いつくばって、もうやめてと泣き叫んで。

 妹には、そんな目に遭って欲しくない。


(食べられるのがクロエでなくて良かった──)


「まったく君は!」

 マイロディスが、立ち竦んでいるユージーンを突き飛ばした。

「死にたいのか!」


 空き地に転がったユージーンは、驚いて見上げる。

 マイロディスは怒りの形相で、火掻き棒を激しく振るっていた。

 生首蝙蝠が何匹も叩き落とされる。

 だが、あまりにも数が多すぎた。


(そんな……)

 群れた翼の中にマイロディスの姿が埋もれて行くのを、ユージーンはただ見ていることしかできない。


『死にたいのか!』

 それは、そのままマイロディス自身にも跳ね返る言葉だ。

 善人ではないと言ったくせに、二度も庇うなんて。


(僕は……僕なら、いなくなっても良かったのに)


 突然目の前を、黒いものが縦に走った。

 それは振り下ろされた、黒い剣だった。

 群がっていた生首蝙蝠たちは、剣に触れた途端小さな粒子状になって消えた。


 翻って下から一度、上からもう一度と、剣が叩き付けられた。

 群れの三割ほどが、障壁で身を守る間もなく消えた。

 何が起こったのか、ユージーンは咄嗟には理解できなかった。


 残った化け物たちは甲高い声を上げ、翼を翻した。

 マイロディスが再び群れの中心に姿を見せた。

 火掻き棒を構え、逃げて行く化け物たちを威嚇している。


 銀髪の男が黒い剣を掲げて、嬉しそうに笑った。


「クロエ! ユージーン! 見つけた!」

 まるでかくれんぼをしていたかのような、軽い口ぶりでマクシミリアンは言った。

「遅くなってごめんね。僕、北に走っているつもりが、違う方向に行っちゃってて」


 ユージーンは、ひとまず危機が去ったことを知った。

 痛い思いはしなくて済みそうだ──自分も妹も、マイロディスも。

 安堵のあまり、ユージーンはへたり込んだまま立てなかった。


「マックス!」

 クロエが、彼に駆け寄る。

「やっぱり来てくれた!」


「待っててね、クロエ」

 マクシミリアンは、逃げて行く化け物たちを見据える。

「悪いやつはぜーんぶ、僕がやっつけるから!」


 言葉通り、マクシミリアンは黒い剣を振り回して生首蝙蝠たちを退治し始めた。

 生首蝙蝠たちは鋭い悲鳴を上げて、黒剣から逃げ惑った。

 触れると消えてしまうということを、本能的に知っているかのようだ。


 その様子を眺めながら、マイロディスが近づいてきて、ユージーンに手を差し伸べた。

「新種の化け物が現れたようだな」

 マイロディスは皮肉ったが、その声には安堵の色が滲んでいた。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ