13:いろいろと、想定外
【人物紹介】
ユージーン:
コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。
クロエ:
ユージーンの妹。
本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。
[エルフの里コルディナの住人]
オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。
ヴァン:オルドの父。武器は物干し竿。里長の相談役。
イリス:オルドの母。お喋りが好き。
ラヴィ:オルドの幼馴染み。里の物流担当見習い。指に深い傷を負う。
ミーナ:ラヴィの母。
レノ:ラヴィの父。里の物流担当。薄毛を気にして髪を頭頂で結んでいる。
ミツギ:オルドの家の裏手にある家に住んでいる幼いエルフの女の子
ポルル:ミツギの父。武器は鍋。
サリナ:ミツギの母
[主人公サイド]
ザイオン:
この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。
マクシミリアン:
ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。
アメリア:
カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。
ルキルス:
ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。
[エルフ長老議会サイド]
マイロディス:
エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。
ルファンジア:
ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。
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クロエが飛翔棍をクルリと回し、低く飛ぶ一匹に刃を二度叩き付けた。
化け物を包んでいた魔法障壁の光がまたたき、消滅する。
フラフラと飛んで天井近くへと逃げたところへ、ユージーンが銃撃した。
人に似た頭部が食卓の上に落ちた。
死に顔を見てユージーンは背徳感に襲われるが、あれは人ではないと自分に言い聞かせた。
クロエは別の一匹を飛翔棍で弾き飛ばした。
その個体は障壁を失いながらも再びクロエに向かって飛び、飛翔棍の刃で串刺しにされた。
マイロディスはクロエの勇姿に驚いたらしく、目を見開いていた。
ユージーンは誇らしい気分になる。
そして、クロエが避難よりも戦いを選んだ気持ちを理解した。
マイロディスも負けじと、次々に侵入してくる人型モンスターを火掻き棒で打ち据えた。
重い火掻き棒は、ユージーンの想像以上に武器として優秀だった。
魔法障壁ごと砕かれた化け物が、土間に落ちた。
恐怖感はまだ消えてくれない。
でも、これからは火掻き棒とうまく付き合っていけそうだとユージーンは思った。
クロエとマイロディスは、順調に生首蝙蝠を倒していった。
逃げ出したものは、ユージーンが銃弾でトドメを刺した。
幸いだったのは、侵入路が煙突だったことだ。
一度に多くは通れない。
しかも飛びながらなので、翼と翼がぶつかり、最初から負傷している生首蝙蝠もいた。
一匹ずつ、確実に仕留めていく。
人の首に似た遺骸が、土間に、食卓にと積み上がった。
このまま救援が来るまで凌げるかも、とユージーンが楽観的になり始めた時、火掻き棒を振り抜きながらマイロディスが叫んだ。
「入り口が破られそうだ!」
見ると、引き戸が激しく揺れていた。
ひしめくほど集まった化け物たちが、体当たりしているのだ。
横に滑らせれば簡単に開くことに、彼らは気づいていないようだった。
けれど戸は少しずつ、振動で横にずれていく。
隙間に気づいた数匹が、無理矢理顔を捻じ込んで入ろうとしている。
(まずい──)
ユージーンは走った。
走りながら、鞄に手を突っ込んだ。
投げ付けるつもりで、魔法弾を一つ取り出す。
どうにか間に合って、開きかけた扉を押さえた。
目の前で、半ば入り込んでいた生首蝙蝠の顔が扉に挟まった。
小さな口を開けて、化け物は叫んだ。
「誰ェ?!」
ユージーンは衝動的に、取り出した氷結弾を化け物の口に入れた。
まるで飼っている鳥に餌でもやるような仕草だった。
殺気のない動きだったからか、敵の魔法障壁も邪魔しなかった。
氷結弾を飲み込み、凍り付いた化け物が扉の向こう側に落ちた途端、こちらに入ろうとしていた化け物たちが、一斉に引いた。
共食いが始まったらしい。
その隙に、ユージーンは戸を閉めた。
「君も、面白いことをするね?」
マイロディスが、何匹目になるのかもわからない化け物を叩き付けながら言った。
クロエは一瞬飛翔棍を止め、にっこり笑って親指を立てた。
よくやった、という合図だ。
戸の向こうが静まったのは一瞬で、再び騒がしくなる。
生首蝙蝠たちが取り付き、揺さぶっているようだ。
放っておくとまた開いてしまう。
左のかかとで戸の端を押さえながら、ユージーンは銃を構えた。
作業のように、決まった手順で彼らは戦闘を続けた。
クロエが飛翔棍の両端で斬り付ける。
マイロディスが力業で叩き潰す。
二人から逃げ出したものを、ユージーンが撃つ。
戦況はこちら側に有利なように思えた。
だが……
(まずい)
背後の引き戸に、凄まじい勢いで体当たりする音がしている。
戸のズレを押さえることはできても、内側への圧力を押さえ込むことはできない。
内側にたわんだ引き戸は、外れかけていた。
どれだけ集まっているんだ、と想像して、ユージーンはぞっとする。
「クロエ……!」
ユージーンは鞄の蓋を開けた。
「避難して! 早く!」
「お兄様!?」
振り返ったクロエが、駆け寄って来ようとする。
「違う……二階へ逃げるんだ!」
ユージーンは、思ったよりも時間がなかったことに気づいた。
ミシミシと木の裂ける、甲高い音が響いた。
それは破砕の前兆だった。
思わず振り返った時、誰かがユージーンを押し倒した。
ばら撒こうと思っていた鞄の中身が、衝撃で弾け飛んだ。
次の瞬間、戸が決壊した。
ユージーンは土間に突っ伏した格好で、頭上を行き過ぎる翼の音を聞いた。
生首蝙蝠たちが大量に入り込んできたことがわかった。
視線を上げると、土間に魔法弾が飛び散っているのが見えた。
生首蝙蝠たちはその上に降り立ち、奪い合うように食べ始めた。
ユージーンに覆い被さって、砕けた戸から彼を庇っていたのはマイロディスだ。
「……いろいろと、想定外だ」
独り言のようにそう言ったマイロディスの頭からは血が流れ、髪や耳には木の破片が刺さっている。
「お兄様」
駆け寄ってきたクロエが、ユージーンの腕を掴んだ。
「私たち、よく頑張ったわ! 今のうちに外へ出ましょう。戦略的撤退よ!」
彼女の背後で、魔法弾を食べて行動不能になった仲間に、生首蝙蝠たちが群がり始めていた。
ユージーン、クロエ、そしてマイロディスの三人は、戸の残骸を踏みしだきながら外へ出た。
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