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二進法原初魔法  作者: lukecat
コルディナ編
192/207

09:空飛ぶピラニア

【人物紹介】

ユージーン:

コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。


クロエ:

ユージーンの妹。

本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。


[エルフの里コルディナの住人]

オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。

ヴァン:オルドの父。武器は物干し竿。里長の相談役。

イリス:オルドの母。お喋りが好き。

ラヴィ:オルドの幼馴染み。里の物流担当見習い。指に深い傷を負う。

ミーナ:ラヴィの母。

レノ:ラヴィの父。里の物流担当。薄毛を気にして髪を頭頂で結んでいる。

ミツギ:オルドの家の裏手にある家に住んでいる幼いエルフの女の子

ポルル:ミツギの父。武器は鍋。

サリナ:ミツギの母



[主人公サイド]

ザイオン:

この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。


マクシミリアン:

ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。


アメリア:

カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。



[エルフ長老議会サイド]

マイロディス:

エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。


ルファンジア:

ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。






⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

「変だわ」

 イリスが呟いた。

「あちらには誰も住んでいないのに……」


 この家の北側一帯は、なだらかな山の斜面に広がる果樹園になっていて、最北端は急勾配の崖だ。そちらから誰かが来るはずもなく、関係者以外の誰かが夜の果樹園にいるはずがない。

 だからヴァンは、躊躇なく果樹園の結界を解除した。


 それなのに、確かに誰かがいて、叫び声を上げ、必死に駆けてくる足音がする。

 皆が息を詰め、耳を澄ませていた。


「助けに行かないと……」

 引き戸に向かいかけるオルドの腕を、父親のヴァンが掴んで止める。

「馬鹿を言うな。一緒に襲われるだけだぞ!」


 古代エルフ語らしい詠唱が聞こえた。

 叩き付けるような鈍い音が響いた。

 重なり合う化け物の悲鳴は、人間そっくりだ。


「攻撃魔法だ」

 鍋を構えた、女の子の父親が呟いた。

「傍系のエルフじゃないのか?」


 足音が家の西側に回り込んだ。

 窓の外の鎧戸を誰かが乱暴に叩く。

「誰かいないのか!」

 その声にユージーンは聞き覚えがあった。


「マイロディスだ」

 そう口にしたオルドに、ヴァンが問いかけるような視線を向ける。

「誰だって?」

「長老議会から来た傍系のエルフだよ」


 それは、ユージーンをコルディナの里に連れてきたエルフの名前だった。


「ああ、あの……」

 クロエが苦々しい口調で言った。

 彼女の、くっきりした目元と切れ長の眦は、気の強そうな印象を他人に与えがちだ。それが今や、はっきりと激怒に近い表情を作っている。

「お兄様からブレスレットを奪った男!」


 クロエとオルドはマイロディスを詐欺師だと決め付けたが、ユージーンにはまだ信じたい気持ちが残っていた。

 彼はユージーンの代わりに、医療費を支払ってくれた。

 今回も、里の危機を知って戻ってきたのかもしれない。

 それなら、助けを求める彼に応えるべきではないのか。

 ユージーンは迷いながら、ホルスターの上から魔導銃を押さえる。


 人型モンスターに銃撃は効かない。

 魔法障壁で弾かれるからだ。

 それは以前、別の人型モンスターで経験済みだった。


 今度は戸が叩かれた。

 低い位置で、引き戸が揺れた。

 姿勢を低くし、もう魔法も使えないほどに追い詰められているのだとわかる。

「おい! 入れてくれ!」

 その声に、ユージーンは思わず立ち上がっていた。


「くそ、こいつら、魔力を吸ってやがる!」

 皆が、恐怖に打たれながら彼の悲痛な声を聞いていた。

 だが外に出れば、同じ目に遭う。

 引き戸を開けることさえ、彼らは躊躇していた。


「あああ! 痛ってえ! あっちに行け! 誰か!」


 苦痛の声にユージーンは身を竦める。

 彼は思わず、提げている鞄を掴んだ。

 さっき銃弾を結界の外に投げた時のことを思い出した。


 そして、助けられるかもしれない方法を思いついた。

 試してみる価値はありそうだ。


 ユージーンは、鞄に手を入れて、銃弾を一掴み取り出した。

 そして、鞄と銃は食卓の上に置いた。

 手の中に十数個の銃弾を握り締めたまま、彼は引き戸に近づいた。


「お兄様?」

 心配そうに、クロエがすぐ後ろに付いてくる。

 外に居る男は、苦痛の声を上げ続けていた。

「あっちへ行け! このクソ蝙蝠野郎!」


 戸に手を掛けて、ユージーンは一瞬考えた。

 結界は、害虫や害をなす生き物の侵入を阻む。

 引き戸を開けても、建物の内側は安全なはずだ。


 彼が戸を横に滑らせると、家の中の灯りが外を照らした。

 数十匹を超える生首蝙蝠たちが、結界の外を飛び回っている姿が見えた。

 開いた戸に気づいた一匹が、突進してきて、結界に弾かれる。

 それを見たエルフの女の子が、後ろで小さな悲鳴を上げた。


 傍系のエルフは、両腕で頭を守るようにして、地面の上に身体を丸めている。

 彼の身体の上で押し合いながら、牙を立てているのは生首蝙蝠だ。

 何匹いるのか、数える余裕はなかった。


 ユージーンは、手の中に握り締めた銃弾を全て、空中に放り投げた。

 銃弾は光を反射しながら、結界の境界線を越えて、緩い放物線を描いた。


 氷結弾、火炎弾、電撃弾。

 それぞれが、魔法を起動させるための魔力を帯びていた。

 目敏く見つけた生首蝙蝠たちが、さっと飛んで行った。

 飲み込まれた途端、彼らの内側から魔法が発動した。


 数匹が凍り付いた。

 もう数匹が燃え上がった。

 残りは痺れて落下していった。


「ダレだ!」

「だれ?!」


 行動不能に陥った仲間に、他の化け物たちが群がる。

 倒れたエルフに群がっていた生首蝙蝠たちが、一斉にそちらを見上げた。

 そして競って飛び立ち、共食いの輪に加わる。


 少しでも数を減らせたら、救い出せるかもしれないとユージーンは思っていた。

 幸運にも作戦は上手くいって、倒れているエルフの側には一匹も残らなかった。

「今のうちに!」

 ユージーンが声をかけたが、地面の上に蹲ったエルフの男は呻き声を上げるだけで、動かない。

 手を伸ばせば届く距離だ。

 ユージーンは一瞬躊躇った。


「待って、お兄様!」

 クロエの止める声が聞こえたが、その時にはもう外に出ていた。

 エルフの男を抱え起こして移動させようとしたが、ユージーンには重すぎた。

 男のどんよりした目が、力なく見上げた。

 頭から流れた血がその顔を覆っていた。


 クロエも飛び出してきて、一緒に男を引き摺った。

 傍系エルフの男、マイロディスは、よろよろと立ち上がった後、戸の内側に倒れ込んだ。

 その間に生首蝙蝠たちは、行動不能になった仲間たちを食べ尽くしていた。


「まるで空飛ぶピラニアだわ!」

 クロエは、引き戸からはみ出ていたマイロディスの足を蹴るようにして、中に入れ込んだ。

 彼女は、向かってきた一匹を飛翔棍で弾き飛ばした。

 魔法障壁を光らせながら飛んで行ったその生首蝙蝠は、人間そっくりの甲高い悲鳴を上げた。


 ユージーンたちが屋内に戻った途端、彼らは結界に体当たりを始めた。

 その数は、開いた戸から見えるだけでも三十匹は超えていた。


「なんて無茶をするんだ!」

 オルドが、群がる生首蝙蝠たちの前で急いで引き戸を閉めた。


 マイロディスは、土間に倒れたまま呻いている。

 牙の痕が無数についた耳やうなじが痛々しいが、幸い、ラヴィのように大きく噛み千切られた傷はなかった。


「誰だ?」

「ダレだ?」

 戸外で、不気味な声が重なり続けていた。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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