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二進法原初魔法  作者: lukecat
コルディナ編
190/207

07:命名、生首蝙蝠

【人物紹介】

ユージーン:

コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。


クロエ:

ユージーンの妹。

本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。


[エルフの里コルディナの住人]

オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。

ヴァン:オルドの父。

イリス:オルドの母。

ラヴィ:オルドの幼馴染み。

ミーナ:ラヴィの母。

レノ:ラヴィの父。



[主人公サイド]

ザイオン:

この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。


マクシミリアン:

ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。


アメリア:

カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。



[エルフ長老議会サイド]

マイロディス:

エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。


ルファンジア:

ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。






⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

(無我夢中だった……)

 ユージーンは、冷静に行動できた自分を振り返った。

 妹と一緒に戦った。

 萎縮することなく動けたのは、彼女がいたからだ。

 戦えた自分が誇らしい。

 身体が震えているのは、恐怖からだけではなかった。


「お兄様、格好良かった!」

 クロエが優しく笑いかけてくれる。

 彼女はまだ、ユージーンの腕をしっかり掴んでいた。

「うん……クロエもね」


「二人とも、怪我はないか?」

 空き地で物干し竿を構えたまま、ヴァンが尋ねた。

「大丈夫、問題ない! ……です」

 クロエは勢いよくそう答えた。

「二人がいてくれて助かったよ」

 ヴァンが頬を緩める。

 レノとミーナの二人はすでに、息子のいる母屋へ入って行ったようで姿は見えない。


 背後では、化け物たちが近づこうとしては薄く光る結界に阻まれ、小さなその顔を歪めていた。

 男、女、年寄り、子どもと、その頭部の特徴は様々で、髪の毛まであった。

 今のところ結界を突破される心配はなさそうなので、ユージーンは銃をホルスターに収めた。


「話に聞いていた通り、確かに人に似てるね! だから人型モンスターと呼ぶのね。気持ち悪さが普通のモンスターと段違いだわ」

 クロエもようやくユージーンから離れると、飛翔棍をベルトのホルダーに留めて背中に回した。

「別名サムシングフェイルド。人型モンスター目、空飛ぶ生首属、生首蝙蝠科、みたいな……あれ? 順番間違ってる?」


 生首蝙蝠。

 クロエがそう口にした時、ユージーンの中でその名が定着した。


「増えてきているな」

 ヴァンは、結界の外を眺めながら心配そうだ。

「結界の光に引き寄せられているのか?」


(光……そうだろうか?)


 ユージーンは、さっき撃ち落とした化け物の様子を思い出した。

 牙を剥き、大きな口を開けて襲いかかろうとした相手は、間近にいたユージーンではなく、ミーナだ。


「エルフ族を食べようと狙ってきてるのかしら」

 クロエは、右人差し指を一本立てた。

 思いついた、という仕草だとユージーンは思ったが、ラヴィの真似だったようだ。

「あの指を食べられた人が『奴らエルフを食うぞ』って言ってたし。お兄様と私とあの奥さんと、皆同じぐらいの背丈で並んで歩いていたのに、襲われたのは、あのエルフの奥さんだったわ」


「……ラヴィは指を食われたが」

 ヴァンが考え込むように首を捻った。

「一緒にいた草食竜は一口も食われていなかった。考えてみれば、食いでのある草食竜を狙わなかったのは妙だ」

「鳥は、食べられていたんですよね」

 ユージーンは、ラヴィの説明を思い出した。


「ああ。確かに奴らは鳥を大量に食べていた」

 ヴァンは頷いた。

「貪欲な化け物だ。だが、大きな草食竜とエルフを前にして、エルフを選んだ。今も、君たちではなくミーナに襲いかかった。普通の餌も食べるが、ラヴィの言う通り、エルフを美味しい餌だと思っているのは間違いなさそうだ」


 あの時、ヴァンやミーナの夫もいた。

 なのになぜ彼女だったのかとユージーンは考えた。


(それに、どうやって人族とエルフ族を見分けているんだろう?)


 魔力を持っているかどうかで判断しているとしたら、あの人型モンスターたちは魔力量が『見える』ということになる。彼らがミーナを選んだ理由、それは、あの場にいた中で彼女が一番、魔力量が多かったせいではないか。


「ラヴィが帰り着いた里の入り口は、集落の方にあるんですか?」

 ユージーンの質問にヴァンが頷いた。

 つまり、木が撓むほど化け物が集まっていたという森とこの家の間には、集落があるはずだ。

「単純にエルフを狙って来たのなら、ここに来る前に集落にいるエルフの人たちを襲っているはずです」


「その様子はなさそうだ」

 ヴァンは集落のある南の方向を振り返った。

「以前大火事があった時、怒鳴り声や叫び声がここまで届いたからな」


 ユージーンも集落の方を見た。

 暗くて見えないが、静まり返っていて、襲撃騒ぎが起こっているとは思えない。

「もしかしたら、ですが」

 ユージーンは控えめに切り出した。

「あの人型モンスターたちは、龍紅玉の魔力に引きつけられてきたのかもしれません。……あの生首蝙蝠たちには、魔力が『見える』んじゃないでしょうか?」


「今オルドが魔力を充填している龍紅玉?」

 クロエは、頭上を飛ぶ生首蝙蝠を見上げた。

 最初に見た時は数匹程度だった化け物が、今は十数匹ほどの数になっていた。

「魔力が目に見えるのなら、あの柱は太陽みたいに光り輝いているはずよね。その光に引き寄せられて集まってきているのね?」

 魔力を光として見ているとは限らないが、匂いや音だった場合、それをどう言い表せばいいのかわからないので、ユージーンはただ頷いた。


「もしそうなら、ここは結界に守られていて安心だとばかりは言えないな。ミーナのように、寄って来た生首蝙蝠に襲われる危険が大きい」

 ヴァンは苦々しい表情になった。

「昨日、東の谷が崩れて大穴が開いた。その穴が、奴らの住み処に通じたんじゃないかと里長は話していた。今日森にいた化け物は数十匹を超えているように見えたが、穴からもっと出てくるとしたら……まずいぞ」


「結界の向こうに、気持ち悪い生首がぎっしりと並んだりして」

 クロエが無邪気に、想像を口にした。


 そんな状況で、龍紅玉が魔力切れを起こして結界が消えたらどうなるのか。

 あまり良い結果は期待できそうにない。


 ヴァンも、ユージーンと同じ恐れを抱いたのだろう。

「結界の範囲を小さくして、魔力の消費量を抑えた方がいいな」

 彼は納屋に物干し竿を投げ込むと、急ぎ足で母屋に入っていった。


「弾丸の補給に付き合ってくれる?」

 宿舎が結界の範囲から外されるかもしれない。

 手持ちの弾丸では心細かったので、ユージーンはクロエにそう頼んだ。


「ええ」

 クロエは、宿舎の方へ歩き出しながら言った。

「私もちょうど、部屋に荷物を取りに行くから付き合って、と言おうとしていたところなの」




 ***


 クロエの言う荷物とは、ザイオンの作った鞄だった。


 ここに来る時、クロエはその鞄におやつを詰め込んでいた。

 空間魔法が使われていて、見かけ以上に物がたくさん入る。

 だが、重量を軽くすることまではできないので、欲張って入れると重すぎて運べない。


 ユージーンをここに連れてきたマイロディスは、いつどうやって運び出したのか、ザイオンの家に置いてあったはずの荷物も荷車に載せていた。

 その中には弾丸の入った箱もあった。

 ユージーンが人型モンスターに襲われた日、友人のルキルスと一緒に購入したものだ。

 普通の弾丸だけではなく、氷結弾、火炎弾、電撃弾もあった。

 今は種類を選んでいる余裕はない。

 ユージーンは魔法弾を全て鞄に放り込んだ。


 かなりの重さになったが、かろうじて持ち運べた。

 通常弾よりも割高だったので、大量には買えなかったせいもある。

 千切れた鞄のヒモを、肩から斜めがけにして結んだ。

 通常弾はガンベルトに入れていた。念のため、ベルトに付いているポーチにも入るだけ入れておいた。


 クロエと一緒に母屋へ戻る途中、結界の外を眺めると、淡い光に照らされて飛ぶ生首蝙蝠の影は更に増えていた。正確に数えたわけではないが、二~三十匹はいる。

 ユージーンはふと思いついて、弾丸の一つを鞄から取り出した。

 結界は外からの侵入を防ぐが、中から物を投げた時には干渉しなかった。

 ユージーンの投げた弾丸が、結界の外へと飛んで行く。


 生首蝙蝠が一匹、さっと追いかけて、口に入れた。

「確かに、魔力に引き寄せられるみたいだね」

 ユージーンは、それだけを確認するつもりで銃弾を投げたのだった。

「銃弾にも魔力があるの?」

 クロエは、銃弾を食べた生首蝙蝠を目で追っていた。


「魔法弾には、小さな龍紅玉がついているんだ」

「そうなの? 相場が上がってるから、今売ったら儲かっちゃうかも」

「それはいいね。借金が返せる」

 兄妹は顔を見合わせて笑った。


 銃弾を食べた生首蝙蝠が、燃え上がった。

 火炎弾だったようだ。

「撃たなくても、化け物の体内で魔法が発動するのか」

 発動条件は、齧られた衝撃による変形か、体液による浸潤だろう。


 ということは、未使用弾の保管をもっと慎重にしないと──などとユージーンが考えている間に、予想外のことが起こった。


 燃えながら落ちる生首蝙蝠に、他の生首蝙蝠が群がったのだ。

 十数匹分の翼で埋め尽くされた塊が、結界の淡い光に照らされてフラフラと飛んでいる。


「……共食い?」

 唖然とした様子でクロエが呟く。

 その言葉通り、燃えていた一匹はあっという間に食い尽くされた。

 彼らがばらばらに飛び去った後には、何も残っていなかった。


「びっくりした」

 ユージーンは、心情をそのまま呟いた。

「でも、そうか……魔法障壁を使えるということは、人型モンスターは魔力を持っているということだから、お互いに餌でもあるのか」


「囲まれてどうしようもなくなったら、この方法でいけばいいよね」

 クロエは、ユージーンが提げている鞄から銃弾を一つ取って、結界の外に投げた。

 生首蝙蝠に学習能力はないようだ。

 すぐに一匹が飛びつき、電撃で痺れて落ち始める。

 その一匹に、他の生首蝙蝠たちが食いつく。

 痺れているだけの化け物は、まだ死んではいないはずなのに、弱みを見せただけで仲間の餌食になった。


「人型モンスターと言うけれど、そんなところまで人間に似なくてもいいのに」

 クロエが哲学的な突っ込みを入れていた。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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