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二進法原初魔法  作者: lukecat
コルディナ編
189/207

06:僕の妹が、格好いい……!

【人物紹介】

ユージーン:

コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。


クロエ:

ユージーンの妹。

本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。


[エルフの里コルディナの住人]

オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。

ヴァン:オルドの父。

イリス:オルドの母。

ラヴィ:オルドの幼馴染み。

ミーナ:ラヴィの母。

レノ:ラヴィの父。



[主人公サイド]

ザイオン:

この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。


マクシミリアン:

ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。


アメリア:

カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。



[エルフ長老議会サイド]

マイロディス:

エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。


ルファンジア:

ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。






⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 痩せ細った月が、西の地平に沈みかけていた。

 明るい屋内から外に出たユージーンは、一瞬足を止めた。

 結界の淡い光が、空き地を含めた建物群から、坂道の両側にある果樹園一帯を覆っていた。

 ヴァンは魔法灯火を灯し、空き地を抜けた先にある三叉路へと向かった。

 クロエとユージーンがその後に続く。


 風が冷たい。

 前を行くクロエが寒そうに身を竦めたのが見えた。

 ユージーンも寒さは感じたが、緊張の方が勝っていた。


 ふいに三叉路の傍にある木々の方角から、ガサリと音が響いた。

 クロエがさっと身構え、ユージーンも銃を手に、音のした方を窺った。


 長い棒の影が見えた。

 ヴァンが物干し竿を掲げて、三叉路から集落の方向へ進んで行く。

 さっき納屋の中で見かけたものだ。

 その竿の先が木の枝に当たったらしい。

 緊張が解け、クロエとユージーンは顔を見合わせて笑うと、先に進んだヴァンの後を追った。 


 クロエは飛翔棍を手に、警戒を続ける。

 ユージーンは銃を構えながら用心深く進んだ。

 足元が暗くて、先を探るようにして歩かないと、地面の凹凸に足を取られて転びそうだ。


 やがて三人は、左右に走る大きな道に出た。

 道の向こう側には、魔法灯火の灯りが届かない。

 まっ暗な闇だ。

 水音がするので、道沿いに川が流れているらしいとわかった。


 左へ暫く進むと、光の中に、植え込みに囲まれた木造の建物が浮かび上がった。

 道に面した戸の横には小さな窓があり、鎧戸の隙間から灯りが漏れている。

 魔法灯火の届く範囲が狭いので、建物全体の大きさはわからない。


「レノ! ミーナ!」

 ヴァンは物干し竿を左手に持ち替え、木の戸を叩いた。

 クロエとユージーンは、彼から少し距離を取って待った。


 引き戸が横へ動いて、中の淡い光が道に差した。

 中年の女性エルフが顔を出して、不思議そうに物干し竿を眺める。彼女がラヴィの母親、ミーナらしい。

「ヴァン? 何かあったの?」


 彼女は豊かな緑の髪を肩の辺りで纏め、腰まで垂らしている。

 その目が、ヴァンの厳しい表情を見返し、心配そうに瞬いた。

「まさか……」


「どうした?」

 家の奥から、男性のエルフが出てきて女性エルフの横に立った。

 ラヴィの父親、レノだろう。

 レノの緑の長髪は頭頂辺りで噴水のように纏められ、クロエが興味深そうに後退した生え際を眺めていることに、ユージーンは気づいた。

 時々妹は、他人の髪に異常なほどの関心を抱くことがある。


「お前たちの息子が怪我をして、うちにいる。来てくれ」

 そう言って、ヴァンは物干し竿を持ち直すと方向転換し、歩き始めた。

 エルフの夫婦が、悪い想像をしたらしく息を飲む。


「待って! 怪我って……」

 女性のエルフは、ヴァンを追いかけようとして外に出た時、ようやくクロエとユージーンに気づいた。

 その視線が、ユージーンの持っている銃に向けられる。

「この人たち、武器を持ってるわ!」

 彼女は、小さく悲鳴を上げた。

「息子を怪我させたのは、あなたたちね!?」


 ユージーンは驚いて、後ずさりした。

「は?」

 クロエが顔をしかめた。

 その声の出し方は、ザイオンに似ていた。


「馬鹿なことを言ってないで、急げ!」

 ヴァンが振り返って叫んだ。

 クロエとユージーンは、黙って彼に従った。

 結界の外にいるので、こうして話している間にもどこから襲われるかわからない。


「待てよ、ヴァン、説明しろ!」

 エルフの夫婦が追いすがってきた。

「この二人は何だ? ラヴィはどうして家に帰ってこないんだ? そんなに重傷なのか?」


「うちに来て、自分の目で確かめろ」

 ヴァンはそれだけ返して足を速めた。




 二人を伴って、ヴァン、クロエ、ユージーンは元来た道を辿った。


 狭い道へ入り、もうじきオルドの家に続く三叉路に差し掛かるという時、羽ばたきの音が聞こえてきた。

 三叉路の向こうには、オルドの家と果樹園を包む結界がうっすらと光っている。

 その光の周りを鳥のような生物が数匹、飛び回る姿が見えた。


「まずいな……もうここまで来たのか」

 ヴァンが呟いた。

「何、あれ」

 ラヴィの母親──ミーナが呟いた。

「蝙蝠?」


 生物は、上下に大きく振れながら飛んでいた。

 そのうちの一匹が群れを離れて、向かってくる。

 黒っぽい影のように見え、詳細ははっきりとわからなかった。

 クロエが飛翔棍を、ユージーンは銃を構えた。

 影が、ミーナに向かって急降下した。


 クロエが彼女の前に飛び出した。

 飛翔棍が影を弾く。

 魔法障壁を光らせながら、翼をばたつかせたのは、人にそっくりな頭部を持つ何かだ。


「誰ダ!」


 空中で体勢を立て直し、上昇したその化け物は、人の声でそう叫んだ。

 人間の頭部にそっくりのものが、空を飛んでいる。

 その頭は、本物の人間よりも一回り小さい。ラヴィの説明通り、頭の後ろに蝙蝠のような翼が付いていた。


 ミーナが悲鳴を上げた。

 夫のレノがその腕を引っ張って、下がらせる。


「結界内へ急げ! 早く!」

 ヴァンが物干し竿を振り回しながら、声を上げた。


「なんてキモいの!?」

 クロエは飛翔棍を器用に操り、宙に飛び上がった。

 その先、少し高いところに化け物がいた。


(僕の妹が、格好いい……!)


 飛翔棍が、化け物を捉えた。

 先端から刃が飛び出し、化け物を切り裂こうとする。 

 魔法障壁が刃を受け止め、攻撃は無効化された。

 だがその衝撃で、化け物は障壁ごと弾き飛ばされた。

 懸命に羽ばたいて、高度を保っている。


 飛翔棍の刃は、両端にあった。

 普段は仕舞われているが、モンスターとの戦闘時には突出する。

 クロエが腕を伸ばしつつ、棍を回転させた。

 逆側の刃が化け物に襲いかかった。


 かろうじて攻撃に耐えた化け物が、ふらふらと落ちながら光を失った。

 ユージーンが銃口で狙いを定める。

 クロエが着地し、飛翔棍を構え直した。


「ダレダ!」


 懲りずに、化け物は再び上昇しようとした。

 人間にそっくりな目で、三叉路の向こう、逃げていくミーナを見据えている。

 その目に浮かぶのは、獲物を狙う貪欲さだ。


 結界の光が剥き出しの牙を照らした。

 大きく開けられた口は、格好の的だ。

 ユージーンが銃を撃つと、化け物は鈍い音を立てた。

 木にぶつかり、跳ね返り、地面に落ちて、ユージーンの足元まで転がって来て止まった。


 口からドロリと血の塊を吐き出した化け物は、若い女の顔をしていた。

 両眼の光は消え、明らかに死んでいるとわかった。

 見下ろしながらユージーンは、動けないでいた。

 それが安堵の気持ちからなのか、恐ろしさなのか、考えている暇はなかった。

 まだ終わっていない。

 幾つもの羽ばたきが聞こえてきた。


「結界内へ!」

 ヴァンが叫んだ。


「お兄様!」

 クロエがユージーンの腕を掴んだ。

「早く!」


 見上げると、こちらに向かって飛んでくる数匹の化け物が見えた。

 ヴァンが物干し竿で追い払おうとしている。

 クロエに引っ張られるようにして、ユージーンは結界の内側へと逃げ込んだ。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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