04:始まり
【人物紹介】
ユージーン:
コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。
クロエ:
ユージーンの妹。
本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。
[エルフの里コルディナの住人]
オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。
ヴァン:オルドの父。
イリス:オルドの母。
ラヴィ:オルドの幼馴染み。
ミーナ:ラヴィの母。
レノ:ラヴィの父。
[主人公サイド]
ザイオン:
この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。
マクシミリアン:
ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。
アメリア:
カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。
ルキルス:
ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。
[エルフ長老議会サイド]
マイロディス:
エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。
ルファンジア:
ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。
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リセットブレスレットの使い方、その一。
「まず、腕に嵌めてから三十分程度待って。できるだけ魔力量が最大値の状態で嵌めると効率がいいわ」
魔力を持たない人族のクロエが、エルフ族のオルドに使い方を説明していた。
これまでぶっきらぼうだったオルドが、素直にクロエの言葉を受け入れている。
その様子を、ユージーンは微笑ましい気分で見守った。
イリスは、空の食器を厨房に運んで洗い始めた。
「今日は魔力充填の予定だったから、魔法は極力使わないようにしていた。今は最大値のはずだ」
そう言ってオルドは、受け取ったブレスレットを左腕に嵌めた。
「ザイオンは、はめた時点での身体の状態が丸ごと記録されると言っていたわ。その後は『一定時間ごとに差分を取得してデータを混ぜて自動保存する』ので、魔力の減った状態で保存されないように、時間経過に気を付けて」
「さぶんって何だ?」
オルドの質問は最もだった。
「差分は差分。差の分、ということ」
クロエの答えは、答えになっていなかった。
多分ザイオンの言葉をそのまま口にしただけなのだろう。
前回とは異なった部分という意味じゃないかな、と思ったユージーンだが、間違っているかもしれないので、口出しはしなかった。
リセットブレスレットの使い方、その二。
「リセット魔法の起動は、ブレスレット表面に書いてある古代エルフ語の文字を使って。魔力がなくなってきたなと思ったら起動してね。魔力量が、保存された時点の量に戻るから」
ユージーンもクロエも、古代エルフ語は読めないが、文字の形と順番だけは覚えていた。
クロエが文字に触れる順番を伝えると、オルドは頷いた。
「……リセット、か。なるほど」
彼は古代エルフ文字が読めるらしい。
「魔力量が回復した後は、結界用の龍紅玉より先に、まず、ブレスレットの龍紅玉に魔力の充填して」
ザイオンは自前の魔力とは別に、ブレスレットにも龍紅玉を取り付けて、予備の魔力を蓄えられるようにしていた。
龍紅玉に魔力を貯めていれば、使用者がエルフ族でなくても使うことができる。
エルフ族だったとしても、使用者の魔力が尽きたらリセット魔法を起動できないかもしれない。そんなギリギリの状態を想定して、龍紅玉に魔力を貯めておく。
なんて用意周到なんだろうと、ユージーンは思った。
「結界用龍紅玉への充填が終わったら、返してね。それから、このブレスレットのことは……他のエルフたちには黙っていた方がいいかも」
クロエの視線が、厨房の水場で食器を洗っているイリスへ向けられた。
「わかってる」
オルドは難しい顔をした。
「これがあれば魔力不足が一気に解決するからな。皆欲しがるだろう。場合によっては流血沙汰だ。母さんには口止めしておく。お前たち、こんな物を簡単に他人に渡すなんて、無防備過ぎないか?」
「そうかも」
クロエは含みのある笑みを見せた。
「でもオルドは、ちゃんと返してくれるでしょう?」
「なるべく早く返すようにする」
オルドが立ち上がって結界用の龍紅玉に向かおうとしたので、クロエは引き留めた。
「まだ三十分は経ってないわよ?」
彼女が柱の上部にある時計を指さす。
「ああ……そうだな」
オルドは足を止めた。
「気が急いてしまった」
オルドは戻ってきて、さっきと同じ席に座った。
「このブレスレットの価値は、相当なものだ。担保にするには高価すぎる」
左腕を上げたオルドは、ブレスレットを撫でた。
「長老議会の連中はずる賢い。一つ手に入れた後は、もう一つのブレスレットをどうやって手に入れようかと、計画を練るんじゃないかな」
「それは、……力尽くで奪いに来るという意味?」
クロエは、床に置いてある飛翔棍を確かめるように見た。
「でも、ルファンジアには定期的に卸しているはずよ。彼女を通じて手に入れればいいのに」
ユージーンは、上着のポケット辺りを手でそっと押さえた。
銃の感触が手に触れた。
ザイオンのくれた武器だ。
誰かがブレスレットのために妹を狙うとしたら、見過ごせない。
「ルファンジアは軍事用だって言っていたから、お偉い人には渡っていないのかしら」
クロエは、現在ブレスレットをしているオルドも危ないと気づいたようだった。
「もし奪われそうになったら、無理せずに渡してしまってね、オルド。後で取り返しに行くから──多分ザイオンが」
「そう簡単に取り返せるかな」
オルドは悲観的だった。
「王家直系の方といえども、長老議会の意向を無視できるとは思えない」
「その長老議会ってなんなのか、私たちはよく知らないのよね。ザイオンからも聞いたことがないし」
クロエがユージーンを振り返った。
ユージーンは、その通りという意味で頷いた。
「長老議会は、大陸中のエルフたちを取り纏めるための議会だ。その意向を受けて、各地を治めている傍系の家門が行政を執り行う。エルフ族なら誰でも知っていることだが」
そこまで言ってオルドは、クロエたちがエルフ族ではないことを思い出したらしい。
「……議会を構成しているのは、傍系エルフの家門から選出された議員たちだ。最近は専横が酷いが、俺たち無冠のエルフ──家門を持たない一般のエルフが何を言っても取り上げてもらえない」
イリスが厨房から戻ってきて、息子のコップにジュースを継ぎ足した。
「上には上の思惑があるんだろうけれどねぇ」
のんびりとした口調に、諦観の念が滲んだ。
「あたしたちは、自分にできることをするしかないよ。それにしても、お父さんは遅いねぇ。様子を見に行ってくれない、オルド?」
「結界用の魔力充填が終わったらな。それまでには帰ってくるだろう」
オルドがそう答えた時、入り口の戸が大きな音を立てて開かれた。
勢いよく入ってきたのは、オルドに似た中年のエルフだ。
顔も身体もオルドより大きく、長い髪を無造作に束ねている。
さっきからイリスが帰りを待ちわびていたオルドの父親、ヴァンだった。
息子の赤い服とは違って、灰色の服を着ていた。
「お帰り、ヴァン。あんた、ご飯は」
イリスの言葉を遮って、彼女の夫は焦ったように言った。
「大変なことになった」
彼はイリス、オルド、クロエ、ユージーンの顔を一人ずつ見た。
「人型モンスターが襲撃してくるぞ」
「……ラヴィ!?」
オルドは立ち上がると、慌てた様子で入り口に走っていく。
そして、よろめきながら入って来たエルフの男を支えた。
「大丈夫か?!」
「ああ」
ラヴィ、と呼ばれたエルフの声は、震えていた。
「里に帰る途中で、人の生首が飛んでいるような化け物に、襲われた」
エルフの男の、長い緑の髪はボサボサに広がっていた。
「何とか逃げてきたんだ……。奴ら、エルフを食うぞ」
そう言って男は、右手を掲げて見せた。
その右手の小指は、骨が見えそうなほど抉れていて、血だらけだった。
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