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二進法原初魔法  作者: lukecat
コルディナ編
186/207

03:リセットブレスレット

【人物紹介】

ユージーン:

コルディナ編主人公。元ルグウィン公爵家嫡男。


クロエ:

ユージーンの妹。

本編第一部『悪役令嬢は退場しました』主人公。元ルグウィン公爵家の公爵令嬢。日本からの転生者。コミュ障気味だが最近は改善。


[エルフの里コルディナの住人]

オルド:コルディナの里に住むエルフ一家の息子。果樹園の管理人。

ヴァン:オルドの父。

イリス:オルドの母。



[主人公サイド]

ザイオン:

この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。


マクシミリアン:

ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。幼名マクシー。


アメリア:

カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』の主役。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマー。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。



[エルフ長老議会サイド]

マイロディス:

エルフ長老議会の意向で、ユージーンとクロエをコルディナの里に連れてきたエルフ。


ルファンジア:

ザイオンの母であるシャルシャの元守り役。王国人排斥派だったが、ザイオンの身辺に王国出身者の存在を許していることで、長老議会からザイオンの側役を解かれた。






⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

「あれがザイオンの作った魔導具だと知っていたんだわ。適当に理由をこじつけて、取り上げたのよ」

 怒りに満ちたクロエの声に驚いて、オルドとイリスが心配そうに彼女を振り返る。


「……そうかな」

 医療費を支払ってくれたマイロディスは、『貴方は初めからザイオン様を当てにしていたのですね』と指摘した。


 確かにその通りだ。

(僕には何もないから……当たり前のように、妹やザイオンに頼り切りだった)


 申し訳ない気持ちになったところへ、『ザイオン様に迷惑がかからないよう、借金という形にすれば良い』と提案されて、言いなりになった。

 ユージーンは、自分の不甲斐なさを痛感する。

 しかも巻き添えの形で、妹をここに連れてきてしまった。


「そうかもしれない。ゴメンね……」

 謝ると、彼女は慌てて表情を和らげた。

「違うの。お兄様は悪くないのよ。悪いのはあの詐欺師だから」


「詐欺師には違いないな」

 オルドが憎々しげにパンを引きちぎりながら、会話に割り込んできた。

「奴らはいつも長老議会の名で無理難題をふっかけてきて、こっちが困っても知らん顔だ。搾取することしか考えていない。担保だって? 書面で契約でも交わしたのか?」


「書面……?」

 ユージーンは不安な目をオルドに向ける。


「いくらの借金で、その担保に何を渡し、返済が終わったらどうするか、という約束を文章にしたか?」

 オルドは指に挟んだパンを、まるで筆記具のように空中で動かして見せた。

 ユージーンは首を横に小さく振る。

 書面にするなんて、考えもしなかった。

 ただ言われたことに、従ってしまった。


「全ては口約束か。その担保とやらは還って来ないだろうな」

 オルドは筆記具に見立てたパンを口に放り込んだ。

 その口調には悔しさが滲んでいた。

「いつもの奴らのやり口だ。後から問い質したところで、そんな事実はなかったとか言い出すに決まっている」


「よくわからないけれど、借金なんて忘れて、ずっとここに居ればいいじゃないの」

 イリスがニコニコしながら言った。

「その方があたしたちも助かるし」


「何もわからないくせに口を挟むなよ、母さん」

 オルドはウンザリした口調で言う。

「親に対して随分酷い言い様ね、オルド」

 イリスは息子に対してむっとした顔をしながら、厨房へと向かった。


「ザイオンは、怒るかな……」

 ユージーンは後悔に苛まれ始めた。

 そもそもあのブレスレットは、ザイオンから借りた物だ。

 勝手に渡したりしてはいけなかった。

 しかも、なくすのはこれで二度目だ。


「僕は、ザイオンの信頼を裏切ったんだ」

 怒り、あるいは失望の表情を浮かべるザイオンの様子を想像すると、食卓の上で組んだユージーンの両手に、力が籠もった。


 妹の手が、彼の組んだ手に重なる。

「ザイオンは、そんなことで怒ったりしないわ」

 クロエの優しい声音が、諭す。


「責めるようなことを言ってしまって、ゴメンなさい。あのブレスレットはね、ただの道具なの。ザイオンにとっては迷子札──認識票みたいなものよ。お兄様よりも大事なわけないじゃない。それに……」

 妹はゆっくりと口角を上げた。

「ザイオンはおそらく、お兄様のブレスレットを取り戻しにいくわ。あれには追跡魔法がついているもの」


「迷子札……?」

 ユージーンは妹を見返した。

 クロエの笑みには、暗い愉悦のようなものがわずかに滲んでいた。


(僕の妹が、なんだか黒い……)


 ユージーンの両手から、力が抜けた。

 思い詰めていた気持ちが消えて、気が軽くなっていた。

 ザイオンは、そんなことで怒ったりしない──


 わかっているはずなのに。

 ユージーンは自分が常に、誰かを怒らせていないかと心配しては怯えていることに気づいた。

「そうだね。……クロエの言う通りだ」


 クロエの手が、ユージーンの両手を軽くつついた後、離れていった。

 妹はいつも、闇から救ってくれる。

 明るい世界へと連れ出してくれる。

 彼女の存在がなかったら、ユージーンはとっくに生きていく気力を失っていた。


「貴方たちは、ザイオン様と知り合いなの?」

 厨房から戻ってきたイリスは、空のコップをオルドの前に音を立てて置いた。

 息子に対して腹を立てているらしい。

 渋い表情になったオルドが、オレンジジュースの容器から自分でコップに注ぐ。


「アレシャトに繋がる王の血筋の方が現れたという話は、本当だったんだね」

 イリスがオルドの隣に座り直して、興味津々の様子で尋ねてきた。

「エリクシャナ様にそっくりの、物凄い美人さんなんですって?」


 エリクシャナは、建国の英雄と称されるこの国の有名人だ。

 ザイオンにとっては、祖母になる。

「美人……」

 クロエが浮かべた笑みに、冷たさが混じった。

 妹は、ザイオンが嫌いなわけではないようだが、彼が褒められるとあまり良い顔をしない。


「母さん」

 オルドがイリスに向き直って、咎めた。

「いちいち他人様の事情を詮索するのはやめろよ」


「直系の方のことはエルフ族全体に関係するのよ」

 イリスは息子に捲し立てた。

「里長のところには通信魔導具があるからね、最近はこの里でも、ザイオン様の話ばかりしているよ」

「ろくな話じゃなさそうだな」

 オレンジを一気飲みしたオルドは、二杯目をコップに入れていた。


「確かに、良い話ではないわ。なんでも長老議会が後宮を作って囲い込んでしまって、一般のエルフはザイオン様を一目見ることもできないらしいね」


「後宮……?」

 そんな話になっているのか、とユージーンは驚く。


「王家直系の方々は血筋を絶やすことはできないので、複数の配偶者を持つことが許されているでしょう? あたしの好きな恋愛小説では、それを後宮と呼んでいて」

「母さんの好きな小説はどうでもいい」

「後宮ものは、権力争いが醍醐味なんだけれど」

「本当にどうでもいいから」


 親子喧嘩再発の兆しに、クロエとユージーンは口を挟まずに見守る。


「長老議会は、自分たちの言いなりになる傍系の娘だけを、後宮に入れるつもりなのよ。このままだと間違いなく、権力闘争が勃発するわね。お前も少しは政治に関心を持たないと」

「政治っていうか、母さんのは唯の井戸端会議じゃないか」

「ザイオン様がどんな方なのか知りたいと思うのは、エルフ族として当然でしょう? お前だって知りたがっていたじゃないか、オルド」


「それは……」

 オルドが言い淀んだ隙に、クロエが発言した。

「……後宮なんてないですよ」

 彼女は、声をひそめて続ける。

「秘密にしてもらえるのなら、私たちが知っていることをいろいろと話しちゃいますけれど?」

「もちろん! 誰にも言わないよ」

 イリスは嬉しそうに請け合った。

 オルドも興味があるらしく、表情を緩めてクロエを見返した。


 この場合の『秘密』や『誰にも言わない』という約束が、実は破られる前提だということは、人生経験の浅いユージーンでも知っている。


「後宮というのは間違いで、ザイオンはいつも魔導具を作っているんです」

 クロエは、指を一本立てた。

「それで作業場に引き籠もっているから、家族以外の人には会う機会がないだけです。ユージーンお兄様は、魔導具作成の手伝いをしていました」

 ユージーンは、そっと頷いて妹の言葉を肯定した。


「それは羨ましいわね。あたしもミカン農家なんてやめて手伝いたい……」

 イリスの肩を、オルドが突いた。

「余計なことばっかり言うなって、母さん」

「もう。冗談なのに」

 不満げな表情でイリスは小さく呟く。


「ザイオンがエリクシャナ……様にそっくりなのは本当です」

 クロエが二本目の指を立てた。

 さっきイリスが投げかけた疑問の数だとユージーンは気づいた。

 一つ目は後宮などない、ということ。

 二つ目はザイオンの容姿。


「ザイオンは弟のマクシミリアンをとても愛していて、自ら手料理を作って食べさせています。マクシミリアンは腹違いの弟で、食いしん坊で、可愛くて……」

 クロエは三本目の指に視線を落とした。

 それは、話が脱線しないようにという工夫なのだろう。

 マクシミリアンの話を打ち切って、『ザイオン様がどんな方か知りたい』というイリスの要望に、クロエは応えた。


「ザイオンは綺麗好きで、細かくて神経質で、怒りっぽくて」

 クロエは、自分のブレスレットに視線を落とした。

「過保護で……」


 ブレスレットに付加された魔法障壁と、追跡魔法のことを言っているに違いなかった。


「それに、凄い魔導具を作るんです」

 クロエがブレスレットを外したので、ユージーンは目を見開いた。

「クロエ……?」

 外してしまったら、病気や怪我をしても元に戻せない。


「駄目だよ、クロエ……」

「お兄様も外してるでしょう?」

 妹は、これでお揃いねと言わんばかりに微笑んだ。


「試してみる?」

 そう言ってクロエは、ブレスレットをオルドに差し出した。

「魔力不足が解決するかもよ?」


 その言葉でユージーンは理解した。

 クロエは、さっき親子喧嘩の元となっていた魔力充填のため、ブレスレットのリセット魔法をオルドに使わせるつもりなのだ。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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