3-23:転生したら××××でした
アメリアは歓迎しなかった魔導具『リタヌル』だが、午後にはマクシミリアンと共に大活躍した。
その日二回目の廃拠点は比較的早く見つかった。
輸送機が廃拠点に着陸した途端、マクシミリアンは黒剣を担いで輸送機から飛び出していく。隠れている人型モンスターがいないか調べるためだ。
その間にルファンジアは壁の罠を破壊した。
アメリアは、犠牲者がいないか確認する。
この手順にそれぞれが慣れてきて、流れ作業になり始めていた。
ザイオンは輸送機を亜空間に収納し、状態保存魔法を詠唱した。
万が一時を戻さなくてはならない事態になっても、ほんの二、三分程度のロスで済むように、保存魔法は小まめに実施している。
魔力を消費した後は、リセット魔法で必ず全回復させた。
百足男に殺された時も、油断せずに全回復しておけば、あんなに早く魔力が尽きたりはしなかったという反省からだ。
ここまで用心してもザイオンは、何かを忘れているような気がしていた。
目の届かない場所で何か取りこぼしているのではないか、そんな不安に付き纏われる。
目の届かない場所──治療院にいるユージーンや留守番のクロエには、差し迫った危険はないはずだ、と自分に言い聞かせた。
ルファンジア配下のエルフたちや、アンドレアが二人のそばにいる。
ただ、何かあってもすぐに助けに戻れないことが、不安なのだ。
ザイオンは、今朝出発前にルファンジアから紹介されたエルフのことを思い出した。
それは緑色の髪を刈り上げた小柄な男で、紫のローブを身に着けていた。
彼はルファンジアに顎をしゃくって、紹介を促していた。
その態度が気に入らなかった。
「……エリクシャナ様の甥御様で、傍系のセレディオス様です。魔導具製作の手伝いをしてくださるためにお越しくださいました」
ルファンジアも、渋々従っているように見えた。
「どうかお見知りおきを」
セレディオスは丁寧に会釈した。
ザイオンは頷くだけで応じた。
ルファンジアが様付けをしたということは、彼女には抑え切れない類いの別勢力なのだろうと察しが付いた。
自分の家に、話をしたこともない他人が勝手に入り込んでくるという状況に、ザイオンは慣れることができなかった。
魔力の充填や魔法銃弾・砲弾の製作と、エルフ族の人手を借りている状況では拒めないのかも知れないが──
(早く帰って様子をみないと)
廃拠点の確認を終えたザイオンたちは、中央にある広場に向かう。
報酬は、マクシミリアンの目には見えているはずだが、それがなんであっても罠を解除して取得する手順は変わらない。足を止めて確認する時間を省略した。
ルファンジアを残し、ザイオン、マクシミリアン、アメリアの三人が広場に足を踏み入れた途端、空が赤く瞬いた。
戦闘用の異空間に移送されると、赤い檻の中に、人型モンスターが召喚された。
地響きがして、広場の奥側に大きなヒビが入る。
「きゃあぁぁぁぁ!」
まだ敵の姿さえ見えないというのに、マクシミリアンが黒剣を持って突進していく。
雄叫びが甲高いのは何でだ。
「おい、待てこの馬鹿──」
止めようとするザイオンの声は、全く届かない。
「魔法障壁があるから、そんなに心配しなくてもいいのに」
隣に立ったアメリアが、少し呆れたように言う。
「別に心配しているわけじゃない」
ザイオンは彼女の誤解を正そうとする。
「ただ、闇雲に打ち込む前に、敵の形状や攻撃の方法を観察する必要があると思っただけだ」
「観察って……アレを?」
アメリアは、広がったヒビからはみ出た、巨大な触覚に視線を向けた。
それは外の世界を窺うように、ゆっくりと左右に揺れていた。
ザイオンはぞっとする。
その黒い色といい、艶といい、家の中で見かける害虫にそっくりだ──触覚だけでも長さが人の背丈の倍はあることを除けば。
「観察どころか、視界に入れたくもないわ」
「……同感だな」
ザイオンは意見を翻した。
棘のある特徴的な前脚が地面を掴み、身体を持ち上げたので、黒い頭が見えてきた。
触覚のすぐ下からこちらをじっと睨んでいるのは、複眼ではなく、人の眼だ。
「転生したらゴキブリでした」
アメリアが呟いた。
「嫌だわ。夢に見そう」
テンセイ。
消えたアメリアが、『忘れて』と言った言葉だ、とザイオンは心に留める。
マクシミリアンが、黒光りする巨大な頭部に黒剣を叩き付けた。
うっすらと、その頭部が光を帯びた。
魔法障壁が一瞬、抵抗を試みた証だ。
その障壁も下に見えていた頭部も、次の瞬間には細かい粒子になって、空間に溶けた。
地面の下に隠れていたはずの胴体も、断末魔を上げる暇もなく霧散したようだ。
「凄い! この剣、凄いね!!」
マクシミリアンは黒剣をブンブン振り回していた。
その足元の石畳から、割れ目が消える。
赤みを帯びた空が元の青さを取り戻した。
外に残してきたルファンジアの姿が見える。
アメリアは、広場中央に向かって歩き出しながら、嬉しそうにザイオンを振り返って言う。
「紫のソウルジェムよ! 一緒に来て」
彼女の後から近付いてみると、一昨日カエル型の怪物を倒した後に現れた、紫の珠と同じものが広場の真ん中に落ちていた。
アメリアに促されてザイオンが手を伸ばすと、珠は紫色の粉塵になって彼の周囲に纏わり付いた後、消えた。
「やっと二個目ね」
アメリアがほっとしたように呟いた。
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