3-19:仕様
##人物紹介
ザイオン:
この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。
マクシミリアン:
ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。
アメリア:
カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』のモブ令嬢。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマーで死因はおそらく不摂生。
ルファンジア:
エルフ族でザイオンに仕えている。元はザイオンの母親であるシャルシャの側役。
クロエ:
本編第一章『悪役令嬢は退場しました』主人公。コミュ障気味だが最近は改善。
ユージーン:
クロエの兄でクロエ大好き。第三部では療養中。
ルキルス:
ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。第三部では軍の任務にかかりきり。
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二回目の探索へ出発する日の朝、食卓に着いたザイオンの後ろに立ち、ルファンジアが報告した。
「百足男の死亡を、スラン師団長管轄の小隊が確認しました。私たちが輸送機を着陸させた川原で見つかったそうです」
「ふううぅん」
眠そうな顔のマクシミリアンが、ザイオンの代わりに返事をした。バターの大きな塊をパンに塗りつけている。ちょっと大きすぎはしないかと、ザイオンは思った。
(その三分の一で足りるはずだ……)
いつもならクロエが適量のバターを塗ってマクシミリアンにパンを渡すところだが、朝食の時間を早めたので、彼女はまだ寝ている。
「私たちを追って川原まで来たのかしら」
ザイオンの隣で、アメリアは不安げな様子を見せていた。
知らないうちに危機が迫ってきていたのかもしれない、と想像したのだろう。
あの程度の雑魚は危機のうちに入らない──と言いたいところだが、一度殺された経験がザイオンの口を閉ざす。
「当初捜索した時には見つかりませんでしたから、そうではないと思います。死期を悟って水を飲みに出て来たのかもしれませんね。捜索済みの場所でしたので発見が遅れたようです」
ルファンジアは、通信用のイヤリングに触れていた。今報告を受けながら話しているようだった。
「森の深部に巣穴も発見、死んだ下半身もそこで見つけました」
朗報だ。
そう思ってから、ザイオンは憎悪に満ちた眼を思い出す。
あの眼には、明らかに知能が宿っていた。
憎まれる理由はよくわからない。
だがあの男には、何かを憎まざるを得ない苦痛があったことは確かだ。これ以上憎しみや痛みに苛まれることがなくなって、あの男にとっても良かったのだとザイオンは思うことにする。
「今度から、横じゃなくて縦に真っ二つにしよう」
マクシミリアンは、バターの塊と共に、パンを齧っている。
「それは難しそう。敵もじっと立って待っているわけじゃないでしょうし」
アメリアは、食卓でかわす会話にしては内容が不謹慎すぎる、などとは思わないようだ──公爵令嬢のくせに。
なんて言うとまた反感をかうだろう。
そんな余計なことをつい口に出してしまうから、嫌な気分にさせて、挙げ句嫌われるのだと、ザイオンは自制する。
マクシミリアンが次のパンに手を伸ばした。
「貸せ」
ついにザイオンは立ち上がった。
彼は、対面に座っているマクシミリアンからパンを奪うと、適量のバターをパンに塗りつけて、渡してやる。
アメリアは、過保護ね、とでも言いたげな、面白がる顔になった。
違う。甘やかしているわけじゃないんだ。
彼女はこの国でバターがどれだけ高いか、知らないに違いない。小さな塊が千プリコもするんだぞ──?
金の話をして振られた幾つもの経験が、ザイオンの脳裏に浮かんだ。
彼は座り直すと、黙って食事を続けた。
ルファンジアもアメリアの向こう隣に座って、朝食を食べ始める。
エプロンをしたルファンジアの息子が、給仕をしながら何か言いたげな顔をして母親を見ていたが、結局何も言わずにコーヒーを注いでいた。
***
早朝出発したザイオンたちは、輸送機で上空から廃拠点を探しながらカプリシオ大陸を移動した。
一昨日は比較的近い場所を選んでいたようだが、今回は目的地に着くまで時間がかかった。
だから早朝出発だったのかと、ザイオンは納得する。
アメリアは地図を広げて、遠方の山々と見比べ、ルファンジアと会話しながら位置を確認していた。
マクシミリアンは椅子を後ろに倒し、小さな容れ物を腹に巻き付けて寝ている。
容れ物の中身はおそらく食い物だろう。
前回食糧袋を持ち出せなかったので、自分専用を持参したらしい。
(こいつの食べ物への執着は、小さな頃自分で調達しないと餓死する環境で育ったからだろうな)
もしかしたら、もう一つの世界でお腹を空かしながら死んだ時の記憶が、心の奥深くのどこかに沈んでいるのかもしれない。そんな風に考えると哀れで、安易に殴ったりはできない。
……はずなのだが、ザイオンは、今日もマクシミリアンの顎に剃り残しの髭が一本だけあるのを見て苛々する。なぜ全部剃らないのか、残った一本が気にならないのかが、不思議だ。
葡萄ジュース輸送機は飛び続け、一つ目、二つ目の廃拠点があるはずの上空を通ったが、緑地に埋もれて跡形もなかった。
機内は圧縮された空気の噴き出す音が断続的に響き、やたらとうるさい。ある程度防音はしているようで、互いの会話は聞き取れた。
透過した機体の外に広がる青空を眺めていると、アメリアが振り返って、尋ねた。
「気持ちの整理はできた?」
探るようなグレーの瞳をザイオンは見返す。
もしかして、気にしていたのだろうか?
「まあな」
この世界は、元々は決められた筋書きのある物語だった。
神の簒奪。母とマクシミリアンの死。禁断の魔術師と、人型モンスターの侵攻。
アメリアには前世の記憶があり、その物語を知っている。
だが、この世界は物語を逸脱し、現実として時間を進めている。
先行きはわからず、『物語』と現実とは違う部分が多いので、アメリアは全てを話すことができない。
そうしたことを知っても知らなくても、結局ザイオンは、目の前の問題を片付けながらこの現実を生き抜くしかない。
彼女に訊きたかったことを、ザイオンはもう一つ思い出した。
「そういえば、仕様ってなんだ?」
「仕様?」
アメリアは覚えていないようだった。
「カエルの化け物をやっつけた時に、紫の珠が出なかっただろう? それを仕様だって言わなかったか?」
「ああ……」
アメリアは頷く。
「あれはソウルジェムというアイテムで、私が知っている限りでは、一度取得したらその場所では二度とは出ないのよ。その代わり、時間を戻しても効果は消えない。世界の掟であって覆せない仕組み、それを私は、仕様って呼んだの」
「一度取得したら……?」
「状態表示魔法で確認できるとは思うのだけれど、あれは魔力の上限値を増やすアイテムのはずよ。何度でも出るのなら、時間を巻き戻して何度もカエルの化け物を倒せば、無限に魔力の上限値を上げられることになるでしょう?」
「そんなことが可能なのですか?」
ルファンジアが、操縦桿を握ったまま振り返った。操縦に気を取られて、全ては聞いていなかったようだ。
「能力値を増やすアイテムに限っては無理だと思う。そういう仕様なの。だから、違う場所で別のソウルジェムを探すしかないのよ」
アメリアは両手のひらをそっと合わせ、宙を睨んだ。
「できればアレシャトが私たちの前に今、能力値解放アイテムをポンッと出現させてくれれば助かるのだけれど」
昨日夜の『わりと本気で言ってるのよ』という言葉通り、彼女は真剣そのものだったが、そんな願いが簡単に叶えられるわけがない。
奇跡は起きず、葡萄ジュース輸送機は次の目的地へと飛び続けた。
石壁に囲まれた廃拠点を見つけたのは、それから間もなくのことだ。
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