番外編:25分(5)
##ルキルス視点
番外編:25分シリーズ最終話
##人物紹介
ルキルス:
ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。第三部では軍の任務にかかりきり。
[小隊メンバー]
ヴィノ 狐型獣人(小隊長)
ポルラ 虎型獣人
サシャール 蛇型竜人 信心深い
ガラク ワニ型竜人
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ポルラたちもまたルキルスたちと同じように、どこにもたどり着けず、同じ道をずっと歩いていることに気づいたらしい。
ヴィノは無線で軍に応援を呼ぼうとしたが、雑音ばかりで応答がなかった。
「道を進んでも戻っても同じなら、道を外れてみよう」
ガラクがそう提案した。
「建物を突き破って横に移動すれば、抜け出せるかもしれない」
反対したのはヴィノだ。
わざわざ冒険しなくても、軍に連絡を取ってその場で応援を待つのが手順書通りのやり方だった。小隊の隊長として彼は、模範的な判断をしたのだ。
「ポルラが俺を抱えて建物にぶつかっていった時は、もう死ぬかと思ったね」
地上に降ろされたヴィノは、恐怖で逆立った毛を必死で撫で付けていた。
「木の破片は降ってくるし、埃は立つし、もう散々だよ」
「ごめんねぇ、ヴィノ」
ポルラが、狐型獣人の肩をそっと払った。
「でも、一人で残って、無線に呼びかけ続けるって言い張るからさ。離れたら二度と会えないかもしれないでしょう?」
「やるじゃないか」
ルキルスは彼らの機転を称えた。
「おかげで合流できた」
「問題が解決したわけじゃないけれどな」
ガラクは、足下に転がっていた木の破片を手に取って、上向きに狙いを付けた。
「見ろよ、あれ」
彼がさし示した方向に、カモメよりも少し大きい程度の鳥がいた。
壊れた建物の屋根に止まって、じっとこちらを見ている。
薄紫色の羽毛に覆われた腹部にある模様が不気味だ。
三つの線が、閉じた目と口のように見えた。
「さっきの悲鳴、あの鳥の鳴き声だったんだ」
ガラクが破片を投げた。
「キャアアアいやああぁぁぁ!」
人間の女性の声にそっくりな鳴き声を上げて、鳥が飛び上がる。
掠めた破片を、鳥の身体を守るように光った膜が弾く。
腹の部分の模様が動いた。
切れ長の大きな目が開き、こちらを睨んでいる。
その下にある口が開いて、叫んでいた。
「キャアアいやあぁ!」
「あれもサムシングフェイルドなのか!」
サシャールが銃を抜く。
鳥は、少し離れた建物の屋根に止まった。
その後ろに、十数羽、同じ鳥が並んでいた。
「うわぁ、いつの間に……」
ポルラが肩に提げていた銃を手に取って、構えた。
翼の音に、ルキルスは振り返った。
別の建物の屋根にも、同じ鳥が次々に降り立っている。
「……撤退しよう」
ガラクが翼の数を数えながら言った。
「弾が足りなくなりそうだ」
「ど……どっちへ?」
ヴィノが無線機を握り締めて、廃拠点の中央と、入ってきた扉の方向を見比べる。建物を突破してきたために区別がつかなくなったようだ。
「戻ろう」
サシャールが扉の方向を指さす。
「どうせ繋がってるんだから、どっちも同じじゃないかな?」
ポルラが銃を下げる。
どちらにしろ、逃げるしかない。
ルキルスは、ポルラが道と道の間を壊して繋いだことで、奇妙な空間の捻れが解除されたのではと期待した。
前触れ無く、鳥たちが一斉に飛び立った。
「キャアア!」
「いやああぁぁぁ! いやああぁぁぁ!」
「キャアアアいやあ!」
空が悲鳴でいっぱいになった。
「キャアアア!!」
ヴィノも悲鳴で応戦した。
彼の耳を鳥が急襲し、ルキルスがその一匹を撃つ。
墜ちた仲間に斟酌せず、鳥たちは次々に小隊を狙って滑空してきた。
ギシギシと、不気味な翼の音が迫ってくる。
一匹ずつ狙って撃つ間に、他の鳥から攻撃されそうだ。
「走れ!」
ルキルスは叫んだ。
サシャールが指さした方へ、全員が一斉に走り出した。
「痛い、痛い!」
ポルラは嘴で襲撃され、毛をむしられて悲鳴を上げた。
ヴィノは、引き裂かれた耳から血を流している。
ガラクの硬い鱗は、嘴の攻撃を防いだ。
だが目を狙われ、彼は走りながら、銃を撃って応戦した。
銃弾が鳥型モンスターを捉え、魔法を展開したが、数の上では些細な成果だった。
頭上を埋め尽くすほどの鳥たちが、五人を追い立てた。
「止まれ! みんな、止まるんだ!」
拳で殴るようにして鳥を追い払いながら、ルキルスは立ち止まった。
彼らは建物のない開けた場所に辿り着いていた。
道の両端が繋がった無限回廊からは抜け出せたようだったが。
「扉がない!」
「間違えたのか?!」
「そんなはずはない」
彼らは確かに、元来た方向へと駆け出したはずだ。
なのに扉はどこにも見当たらない。
目の前には、石畳の広場があった。
あと一歩進めば、中に入ってしまう。
(そううまくは行かなかったか……)
一つ罠を突破できたと思ったら、次の罠が始まっていた。
追い立てられるままに進むのは危険だと、ルキルスは本能的に悟った。
「見ろ!」
サシャールが銃で鳥を撃ちながら、広場の片隅を指さした。
血だとわかる黒いシミが、大きく広がっている。
「うわあ、ヤバいやつ」
ガラクが怯えを表情に走らせた。死んだ時の記憶を蘇らせたのだろう。
「引き返すぞ!」
ヴィノが踵を返す。
「痛いよう」
頭を抱えたポルラが後を付いていく。
全員が逆方向に戻り始めた。
しつこく追いすがる鳥のモンスターたちを、ルキルスとガラクが撃つ。
やがて、息を切らしながら道の反対側に辿り着いた彼ら五人は、再びさっきと同じ広場を前にしていた。
「……どうなってるの?」
「駄目だ……もう駄目」
「とにかく、深呼吸だ」
サシャールは小声で祈り始めた。
「アレシャトよ……我を助け給え」
「どうしてもあの広場に俺たちを入らせたいみたいだな」
そうしている間にも襲ってくる鳥を、ルキルスは撃ち続けた。
弾倉が空になれば、手で魔法銃弾を込める。
ガンベルトに取り付けた弾には限りがあるが、頭上を飛ぶ鳥は、無数と言えるほど多い。
このままではまずいと、本気で焦り始めていた。
「入ったら最後俺たち、石畳に広がる血の染みになるってことか?」
ガラクは、弾の残数に拘ることを止めたようだった。
襲ってくる鳥も、そうでない鳥も、全てに狙いを付けて撃ち始める。
「こちら第五小隊!」
ヴィノが無線機に呼びかけている。
「廃拠点で苦戦中! お願い! 助けて! どうぞ!」
軍の誰かが聞いていたら激怒しそうな内容だったが、返事は雑音だけだ。
「もう一度、さっきと同じ手を試そう!」
ガラクが叫んだ。
「そうだね!」
ポルラが元気に応じた。
確かに、打つ手がない以上、道を外れるしかない。
壊れた建物を目指して、ポルラが戻り始める。
他の小隊メンバーがその後に続いた。
初手で間違えたのだと、ルキルスは思った。
この廃拠点に入った時点で、終わっていたのかもしれない。
一行のしんがりを勤めながら、ルキルスは銃を構え、襲ってくる鳥を威嚇する。
壊れている建物まではあっという間だった。
彼ら五人は急いで中へと進む。
建物から外へ出ると、そこは道ではなかった。
石畳の上で、彼らは立ち止まる。
足下には黒い血の痕があった。
彼らは全員、広場に立っていた。
頭上は禍々しい赤に染まり、さっきまで見えていた青空はない。
「なんで……」
ガラクが、よろめいて、すぐ後ろにいたヴィノにぶつかった。
後ろに下がったヴィノの背後に、網の目のような赤い光が浮かび上がった。
彼は悲鳴を上げ、前に弾かれてガラクに衝突した。
ルキルスは真後ろを見た。
さっき通り抜けたはずの壊れた建物はどこにも見えない。
手を伸ばすと、赤い編み目状の、実体のない檻が浮かび上がる。
それはルキルスの手に、刺すような痛みをもたらした。
「閉じ込められた……?」
泣くような声で、ポルラが呟いた。
「大丈夫……大丈夫だ」
サシャールが、動揺した様子を見せる。
「我ら、か弱き鱗の塊は、アレシャトの庇護の下……」
ギチギチと、羽ばたく音が聞こえてきた。
ルキルスは上空を見上げた。
鳥だ。
薄紫色の羽毛に覆われた鳥が、頭上から広場に下りてくる。
鋭い黄色の嘴は、半ば開いていた。
涎が、広場に落ちる。
鋭い目が、食欲にまみれた情熱を込めて、ルキルスたちを見下ろしていた。
腹毛の部分には、大きな顔の模様がある。
さっきまで小隊を執拗に追い回していた鳥にそっくりだ。
だが、大きさが違う。
輸送用の六人乗り飛行艇よりも一回り大きい。
その嘴の大きさなら、人を丸ごと飲み込めるだろう。
ルキルスたちの視界いっぱいに、巨大な鳥は降り立った。
腹に生えた巨大な顔が、目を開ける。
女の顔だ。
口を開け、口角を上げて、ニィと嗤う。
ルキルスは魔法砲弾へ手を伸ばす。
ポーチの中に手を入れて、構えた。
巨大な女の顔は大口を開けて、甲高い声で鳴いた。
「キャアアアいやああぁぁぁ!」
逃げ場はない。
砲弾を手に持ち、投げ付けようとした時。
甲高い、涼やかな音が頭上に響いた。
気が付くと、ルキルスは高い壁の前に立っていた。
廃拠点に入る直前で、開いた扉が目の前にある。
彼は振り返った。
ヴィノ、ポルラ、サシャール、ガラクがそこにいた。
全員、戸惑った様子で、顔を見合わせている。
「なんだ……どうなってる?」
何が起こったのか、咄嗟には飲み込めなかった。
「アレシャトの奇跡だ」
サシャールが感動に打ち震える声で、呟いた。
「時間が、巻き戻った……」
そんな馬鹿な、とルキルスは思うが、一度経験したことでもあった。
あの日──小隊全員が、ミミズ型サムシングフェイルドに飲み込まれて死んだ。
そして気づいたら、何時間も前に戻っていたのだ。
「でも俺たち、まだ死んだわけじゃなかったよな?」
ガラクが、わけがわからない、という顔をしている。
「ああ……前回とは違うな」
ルキルスは、自分の手を見る。
痛みや死の記憶もない。
(俺たちじゃなくて、別の誰かが死んだのかもしれない)
何の根拠もなく、ユージーンのことが頭に浮かんだ。
今すぐにでも、無事を確かめに帰りたくなる。
(まずは無事に、任務を終えなくては……)
「アレシャト大神に御礼申し上げるぅ」
跪いたサシャールが、天を仰いでいた。
ますます、信仰心に拍車がかかりそうだ。
「良かったぁ」
ポルラが涙目で頭を撫でた。
「禿げたりしたら、姉ちゃんに馬鹿にされるところだった」
そこはさっき、鳥に啄まれて毛が抜けていた場所だ。
今はすっかり元通りになっている。
「戻った……戻ったぞ」
ヴィノも、裂けて血が出ていたはずの耳にそっと指を触れて、確かめていた。
獣人族の耳や尻尾、毛に対する拘りは、ルキルスには計り知れないものがある。
「キャアアアいやああぁぁぁ!」
壁の向こう側から、女の叫び声そっくりの、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
今度は、誰一人誘い込まれたりはしなかった。
「……撤退だ!」
ヴィノが声を上げた。
彼の号令を聞くよりも先に全員踵を返し、逃げるように来た道を駆け戻り始めていた。
百足男のその後は番外編集の方に追加しています。
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