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二進法原初魔法  作者: lukecat
第三部:探索
156/207

番外編:25分(4)

##ルキルス視点


##人物紹介


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。第三部では軍の任務にかかりきり。


[小隊メンバー]

ヴィノ 狐型獣人(小隊長)

ポルラ 虎型獣人

サシャール 蛇型竜人 信心深い

ガラク  ワニ型竜人







⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 無人の廃拠点が見える位置に来たら、ざっと確認してからすぐに引き返す予定だった。

 だが、建造物は思ったよりも巨大で、報告する時のためにだいたいの大きさを測ることになった。

 自分の身長と影の対比から建造物の大きさを測量する方法は、軍での基本訓練に含まれている。

 怪しい壁から一定の距離を保ちつつ、彼らは高さをおよそ二十メートルほどと見積もった。


 それは、モスタ王国の王城をも軽く凌駕する規模だ。

 ルキルスは、貴族学園に通っている頃王国の王都に住んでいた。王城の城壁を、大勢の使用人が手入れする様子をよく見かけた。そうしないと、雨水で亀裂が入ったり、石と石の間に雑草が生えてきてしまうのだ。


 今、目の前にある廃拠点の壁に、雑草が生えている様子はない。

 真南側には、人の倍の背丈がある巨人でも通れそうな大きな両開きの扉があって、さあどうぞ、お入りくださいとばかりに開いていた。

 その向こうには、建物が整然と並んでいる様子が見える。


 何もかもが作り物のようだ。

 この廃拠点そのものが幻のように思える。


「高さもだいたいわかったことだし、帰ろうか」

 ヴィノは引き攣った声で言った。

「それが最善だな」

 サシャールが早速、来た道を戻り始める。

 だが、突然聞こえてきた女性の悲鳴に、全員が振り返った。


 若い女の声だった。

「キャアアアいやああぁぁぁ! いやああぁぁぁ!」


 悲痛な、絶望を宿した声に、彼らは思わず走り出していた。

 声の聞こえてくる、開いた扉の方へ。


 一目散に駆けるポルラは、おそらく罠だとは思っていない。

 ガラクは半分疑っているようだ。

 だが、狩猟民の誰かが廃拠点に迷い込んで、助けを求めている可能性もある。


「ポルラ! ガラク!」

 追いかけながら、ヴィノが声をかけた。

「待て!」


 だが、ポルラの足が速すぎた。

 虎型獣人の身体能力は、ここにいる誰よりも高い。

 あっという間に扉を抜けて行った。

 ガラク、ヴィノが廃拠点に入った後、続けてルキルスとサシャールが足を踏み入れた。


 整然と並ぶ建物の間に道があった。

 さっき駆け込んだポルラたちの姿が、その道の先に見える。


 分断して弱体化するのはまずい。

 ここは敵地だ。

 追いかけようとした時、後ろから軋む音が聞こえてきた。

 振り返ると、扉が勝手に閉まっていくところだった。


 サシャールも振り返って、扉に飛びついたが遅かった。

 両開きの大きな扉は、完全に閉まってしまった。

 ルキルスとサシャールの二人で扉を引いたり押したりしたが、全く動かなかった。

 その間にも悲鳴は聞こえており、ポルラ、ヴィノ、ガラクの後ろ姿が遠ざかっていく。


「閉じ込められた!」

 サシャールが扉に縋り付き、拝み始めた。

「アレシャトよ……! このか弱き鱗の塊に、慈悲を与え給え……」


「ヴィノ!」

 ルキルスが叫んだ。

 一瞬振り返ったヴィノが、顔中の髭を下げて困ったような表情になる。

 結局彼は、ポルラが心配だったのだろう。

 止まらずに、先に進んで行った。

 道の向こうには、開けた空間が見える。

 どの拠点にも設置されている、中央広場に違いない。


 分断はまずいが、サシャールを一人で置いていくわけにもいかない。仕方なくルキルスは、扉のすぐ内側に一旦踏みとどまった。


 廃拠点の内部は、カウザン第一拠点と良く似ていた。

 門のある場所から広場へと続いているのは、石畳の道だ。

 その道は、中央が高く、端が低くなっている。

 端に沿って掘られた溝に雨水を逃す仕組みだ。

 道の両側に、今にも住人が扉を開けて出てきそうな、小綺麗な木造建築物が並んでいる。


「サシャール。他の連中と合流するぞ。二人だけではリスクが大きい。外へ出るのは後回しだ。ヴィノは無線機を持っているから、助けを呼べる」

 ルキルスが説得すると、サシャールはようやく扉に祈りを捧げるのを止めた。


 サシャールを連れて、ルキルスが他の三人の後を追う。

 だが、様子がおかしい。

 石畳の道をいくら先へ進んでも、広場の入り口が近付いて来ない。

 先へ行った三人の姿も、忽然と消えていた。

 一本道で見失うはずがないのに、気配すらない。


「どこまで行ったんだ……?」

 広い道が、延々と続く。

 石畳は綺麗に掃き清められていて、歩いても砂埃一つ立たない。

 どこにも人影は見えず、さっき聞こえていた悲鳴もいつの間にか止んでいる。


「ヴィノ! ガラク! ポルラ!」

 呼んでも返事はなかった。

「ルキルス……」

 サシャールが、道ばたの建物の一つを指さした。


「いたか?」

 ルキルスは勢い良く振り返って尋ねた。

「いや。……あの看板だが」

 と、サシャールは、二階建ての建物を示す。

 店の前には看板があり、屋号らしい名前が書いてあった。


「宿屋、夜光とあるだろう」

「ああ」

「あの看板を見るのは、三回目だ」


 ルキルスとサシャールは顔を見合わせた。

 そんな馬鹿な、と否定するよりも先にルキルスは、ナイフを取り出す。

 そして、看板に近付いて、文字の下に×印を付けた。


 先へ進んで、景色を頭に入れる。

 この辺りはかつて店が集まっていたらしい。

 果物屋、肉屋、パン屋。

 造りと看板からそう推測できる建物の並びを通り過ぎる。

 しばらく歩いて、宿屋を見つけると、ルキルスは看板を確かめた。

 夜光、と書いた看板にはさっき彼が付けた×印があった。


 ルキルスはもう一度ナイフを取り出し、×印の隣にもう一つ×印を刻む。

 ×が一つだけなら、偶然同じ傷が付いた看板で、この廃拠点の宿屋は全て同じ名前だという可能性もあるからだ。

「引き返そう」

 不安そうなサシャールを連れて、今度は来た方向へ歩き出す。

 パン屋、肉屋、果物屋。

 戻った先に見つけた宿の看板には、×印が二つあった。


「まずいぞ……」

 焦りが生まれた。

 ルキルスは、看板に三つ目の×印を付けて、更に戻った。

 パン屋、肉屋、果物屋。

 ×印が三つ付いた夜光の看板に辿り着く。


「まるで道の両端が繋がっているようだな」

 ルキルスは考え込む。

「もしも片方が留まって、もう片方が進めば……」


「それは絶対に駄目だ」

 サシャールが首を振った。

「それこそ、この罠を作った捕食者の思うつぼだ。おそらく、今は二人だから無事なんだ。一人になった途端、私たちは餌食になる」


 サシャールの言葉に、ルキルスは頷いた。

「そうだな。……その可能性はある」

 そして、気づいた。

「あの三人も、同じ罠にかかっているとしたら」


 進む者と戻る者、留まる者。一人ずつ分かれる選択をするかもしれない。

 そして一人になった途端、サシャールの言うように……


「キャアアア!!」


 どこかから、甲高い悲鳴が聞こえてきた。

 ルキルスとサシャールは、ギョッとして立ちすくむ。

 同時に、メキメキと破壊音も響いていた。

 パン屋の壁が弾け飛んで、中からポルラが登場した。

 左手でヴィノを担ぎ上げている。


「あぁぁぁぁ! 死ぬうぅ!」

 悲鳴を上げていたのは、ヴィノだった。

 彼らの体中に、大小の木くずが付いていた。

「ルキルス!」

 ポルラがほっとした様子を見せる。


「よう」

 ポルラの後ろから、ガラクが顔を覗かせた。

「また会えて嬉しいよ」


 なるほど。

 目的地に至る道がなければ作ればいい。

 ルキルスは自分の予想が外れたことがおかしくて、笑い出した。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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