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二進法原初魔法  作者: lukecat
第三部:探索
154/207

番外編:25分(2)

##ルキルス視点

前話番外編:25分(1)ユージーンと同じ日の話になります。


##人物紹介

ユージーン:

クロエの兄でクロエ大好き。第三部では療養中。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。第三部では軍の任務にかかりきり。


[小隊メンバー]

ヴィノ  狐型獣人(小隊長)

ポルラ  虎型獣人

サシャール 蛇型竜人 信心深い

ガラク  ワニ型竜人







⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 目的の場所に近付き、飛行艇は高度を下げた。

 機内に響いていた圧縮空気の噴出音が、しばらくの間忙しなく響いた後、艇の動きが止まる。

 着地したらしいが、ほんの少し、機体が傾いている。

 ジャングルに覆われたこの大陸で、着陸できるだけの開けた場所を見つけるのは至難の業だ。多少傾いでいるぐらいなら上出来と言えた。


 ルキルスは座席のベルトを外し始めた。


「あらゆる聖霊の祖にして我らが始祖、この世の森羅万象を司る大神、アレシャトにお祈り申し上げるぅ」

 蛇型竜人サシャールの祝詞が、ルキルスの背後で朗々と響き渡った。

 カウザン第一拠点駐留師団第五小隊の任務は、現地に到着し、サシャールが祈りを捧げるところから始まる。


「死してなお、奇跡により蘇り我らの命。どうか此度も、手厚い加護を与えた給えぇ」

 目を閉じたサシャールは真剣そのものだ。

 座席前に立ったまま頭を垂れる彼の、薄い黄緑色をした頬の細かな鱗が、機内の照明を神々しく反射している。


 ルキルスは溜め息を堪えた。

 巨大なミミズ型サムシングフェイルドの体内で小隊が全滅して、アレシャトの奇跡と呼ばれる時間逆行のおかげで蘇って以来、彼はずっとこんな調子だ。


 彼の後ろに見えるワニ型竜人ガラクは、安全ベルトを外しながら、どんよりとした目をしている。

 この間死んだ時のことを、思い出しているのだろう。


 狐型獣人ヴィノも立ち上がって、肉球のある手を合わせ目を閉じていた。

「死にませんように死にませんように死にませんように」

 直裁的な言い方だが、内容はサシャールの祝詞と同じだ。


 虎型獣人ポルラはまだ座席に蹲っていた。

 ヴィノと同様手を合わせ、小声で呟いている。

「奴らに遭遇しませんように奴らに遭遇しませんように奴らに遭遇しませんように」


(残念ながらその願いは叶わないぞ)

 ルキルスは、銃と、対人型モンスター用魔法銃弾の所在を念のため確認すると、扉へ向かう。

(なぜならこの第五小隊は、人型モンスター討伐のためにここへ来たんだからな)


 全員深緑色の軍服を着て、ベルトで銃を担ぎ、ガンベルトを身体に数本巻き付けていた。巨大人型モンスター用の、拳ほどもある魔法砲弾を所持しているのは、ヴィノとルキルスだ。


「扉を開きます」

 操縦士役のエルフが、事務的な声で告げた。

「この艇は打ち合わせ通り、すぐに飛び立ちます。幸運を」


「……行くぞ、ポルラ」

 ヴィノはなかなか動こうとしない虎型獣人の肩を叩き、声をかけた。


 隊長は狐型獣人のヴィノだったが、彼はカウザン第一拠点地下で一度死を経験してからというもの、精神的に不安定だった。以来小隊の任務中はルキルスが先頭に立って動き、ヴィノはしんがりで他の隊員を補佐する役目を負っている。


 ルキルスは扉を抜ける。

 そこは湖沼を臨む湿地だった。

 湿っぽい空気には、生臭い臭気が混じっている。

 軍靴の下で、土地が少し沈んだ。


「足場が悪い。気を付けろ」

 ルキルスが振り返って注意を促す。

 すぐ後ろにサシャールが付いてきていた。

 チロチロと舌を空気に晒して匂いを確かめている。


 続いて、ガラクが扉を抜けて湿地に足を下ろした。

「うわぁ」

 嫌そうに、彼は軍靴に付いた汚れを見た。

 湿地全体に海苔のようなものが生えていた。小さな甲殻類が、踏み潰された海苔の下から慌てて逃げていく。

 数歩程度進んだ辺りを、色のくすんだ湖の水が洗っていた。


 ポルラを連れたヴィノが飛行艇から出た途端、スライド式の扉が閉まった。

 さっさと行け、と言いたげなタイミングだ。

 到着したばかりですでに満身創痍同然の小隊を引き連れて、ルキルスは艇を離れる。


 空気を盛大に吹き出しながら、飛行艇は旅立った。

 冷たい風が小隊のメンバーを襲った。

 サシャールとガラクには毛がなかったが、ヴィノとポルラの短い体毛は後ろに吹き付けられていた。

 ルキルスは海の民特有の赤髪を軍用帽子に押し込めて隠しているので、風の影響は殆ど受けなかった。

 誰も文句を言わず、飛行艇を見送る。


「第五小隊、現地に到着。これより任務を開始。どうぞ」

 ヴィノが、首にぶら下げた通信用の導具を手に取って報告した。無線機といって、電池という動力で動く機械なので魔力を必要としない。


『第五小隊へ。了解。通信終了』

 雑音の多い音声がそう答えた。


「被害が報告されているのは、湖沼の北側だから……」

 周囲を見回したヴィノの声が途切れた。

「あっちかな?」

 地図をあらかじめ覚えてきたルキルスが、北の方向を示す。


「ああ。そうだな」

 ヴィノがほっとした様子を見せる。

「行こう」

 ルキルスが歩き始める。

 その後を、他の四人が続く。

 人型モンスターの討伐任務は、これで三度目だ。

 任務は問題なくこなせていた。

 だが、時がまき戻る前のような楽天的な雰囲気は無い。

 いっそ、初対面の時のように嫌味を言ってくれた方がどれだけやりやすいか、とルキルスは思っていた。


「被害報告について、再度確認」

 ヴィノが生気の無い声で言った。

「狩猟民数名がサムシングフェイルドの襲撃に遭った。地面に人の顔のようなものがたくさん埋まっていたので近付いたら、襲ってきた。急いで逃げたので、埋まっていた顔の下がどうだったのかはよく覚えていないそうだ。被害は、何人かが噛みつかれた、以上」


「なんでそんな怪しいものに近付くんだよ。意味が分からないね」

 ガラクが油断なく辺りを見回しながら、文句を言う。

「……俺たちの仕事を増やしやがって」


「誰かの悪戯じゃないかな。きっとそうだ。困っちゃうよね」

 虎型獣人のポルラには、最初の威勢の良さはない。獣人としてのプライドは打ち砕かれ、強さを誇る言動は一切なくなってしまった。

「わざわざ自分を埋めて、誰かが通りがかったらおどかそうとしていたわけ。子どもはそういうことをしそうだ」


「万一人間だったとしても、魔法銃弾の魔法は人間には発動しないから遠慮無く撃てる」

 ルキルスは、ポルラを振り返って念を押す。

「ポルラは銃の扱いが俺たちの中で一番上手いから、さっさと任務を終わらせてくれそうだ」


「ああ。うん。まあね」

 ポルラは少し得意げな様子を見せる。

「頼んだぞ、ポルラ」

 後ろから、彼の大きな背中をヴィノがポンポン叩く。

「任せてよ」

 と、気を良くしたらしいポルラが答える。

 だがそれも長続きはしなかった。

 すぐに暗い表情で、付け足す。

「まあ、多分、悪戯だとは思うけれどね……」


「我が祈り聞き届け給え、我ら小さな鱗の塊にて、ひ弱でかくも脆い存在……」

 ルキルスのすぐ後ろで、サシャールが小声で呟いていた。


 死は怖い。

 それが普通の人間だ──竜人族であろうと、獣人族であろうと。

 だが中には生きづらさに、死を望む者もいる。

 ルキルスは、ユージーンが躊躇無く海に飛び込んだ瞬間を思い出した。

 その瞬間の、息が止まるほどの恐怖を彼は未だに忘れることができない。


『魂が壊れてるんだよ』

 伯父の言葉を思い出す。

『ちょっとしたきっかけで、結局は死んでしまう』


(祈りが本当に効くのなら)

 ルキルスは前を向き、歩く速度を速める。

(あいつが二度と死を選ばないように──それだけを祈ろう)











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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