番外編:25分(1)
##ユージーン視点
##時間は少し巻き戻って、ザイオン、ルファンジア、マクシミリアン、アメリアの四人が罠探索に出た初日になります。
##人物紹介
ユージーン:
クロエの兄でクロエ大好き。第三部では療養中。
ルキルス:
ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。第三部では軍の任務にかかりきり。
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ルキルスへ
元気そうで何より。
僕も経過順調と言われているので、ルキルスが帰投する頃には治療院を出ていると思う。
早く治りたくて、ベッドの上で腕立て伏せをしていたら、看護スタッフに見つかって怒られちゃったよ。
腕立て伏せといっても、腕を曲げた途端に潰れるんだけれどね。
僕は、自分が何の役にも立っていないことがとても心苦しい。
今日は医療費の支払いがあって──クロエに付き添ってきた、初対面のエルフに言われたんだ。
「ザイオン様に衣食住を頼っている上に、高額な医療費まで負担させるのか」
って。
彼の言うことは正しい。
僕は妹に、お金を預けていたんだけれど全然足りなかったようで、本当に申し訳ない。
ザイオンは、ずっと黙って支払っていてくれてたんだな。
僕は薄々気づいていながら、彼の厚意に甘えていた。
自分の図々しさと、常識の無さに呆れる──
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書いている途中でユージーンは、筆を止めた。
そして、手紙を手に取り、読み返す。
(仕事で大変な思いをしているルキルスに、僕は何を書いているんだろう? 心配してもらおうとしているのか?)
ユージーンは、手紙を破り捨てて丸めた。
さっきクロエと共に、緑色の髪を刈り上げた男性エルフが来た。
ルファンジアはザイオンたちと一緒に飛行艇で出かけ、ルファンジアの息子アンドレアが家事をしているので、その代理だという。
初めて会うそのエルフは、紫色のローブを着て、金の細い鎖を腰に巻いていた。
華奢で、年下に見えたが、エルフ族は見かけと年齢が違う。
落ち着いた雰囲気から考えて、かなり年上かもしれなかった。
彼は、クロエが別室で医師と話している間、ユージーンのそばに付き添っていた。
「貴方は、ザイオン様のお仕事を手伝っていたと聞きました」
エルフの男は微笑んでそう言ったが、声の調子は冷ややかだ。
彼らエルフ族が、王国人に悪感情を持つのは自然のことだ。
エルフ族王家の姫は、王国に捕らわれていた。
それがザイオンの母親だ。
クロエにそう説明してもらった時、ユージーンは不思議に思っていた──ルファンジアは、王国出身の自分になぜ親切に接することができるのかと。
このエルフの男はルファンジアと違って、内心の嫌悪感を隠し切れてはいなかった。
「手のかかる、大変な仕事ですね」
大仰に、尊敬しているかのような口調でエルフは言った。
「今は私たちが担っております。勝手ながら、機械で工程を自動的に行えるように工夫させていただきました。仕事を奪うようで恐縮ですが、貴方にとってもその方が良いでしょう? 病気で働けないようですから。新しいお仕事をお世話いたしましょうか? 住み込みの農作業仕事ならたくさんありますよ」
何を言われているのか、一瞬理解できなかった。
しばらく考えてから、ユージーンのしていた仕事を今はエルフ族がしていて、機械でできるようになったからもう貴方は要らない、という意味だと気づいた。
居場所を失ったのだ。
あの家に住む理由も。
「……治療院に相談窓口があるので、まずはそちらに聞いてみます」
ユージーンは、胸の奥に重たい感情が居座り始めるのを感じる。
自分の力で乗り越えなくてはいけない。
いつまでも、妹やザイオンに頼ってはいられない。
今まで甘えすぎていたことにも気づかなかった。
自覚無くあの部屋に帰っていれば、図々しいとザイオンにも呆れられていただろう。
髪を刈り上げたエルフは、手に持っていた書類をユージーンの目の前で振った。
それは病院の請求書で、ユージーンの所持金を遙かに上回る額が書かれていた。
「私も本当は、病人にこんなことを言うなんて気が進まなかったんです。でも、ザイオン様に衣食住を頼っている上に、高額な医療費まで負担させるなんてね。ルファンジアや北の傍系一族はなぜか許しているようだが、私は許容できません」
ユージーンは、しばらく息苦しさと戦っていた。
このエルフ族の男は何一つ間違ったことを言ってはいない。
彼は勇気を出して、こちらの非常識さを教えてくれただけだ。
「……言いにくいことを指摘してくださり、ありがとうございます」
なんとか、言葉を繋いだ。
「どうしても仕事が見つからなければ、その時はお願いしてもいいですか?」
エルフの男は、頷いて、満足げな笑みを浮かべた。
「お任せください。決して悪いようにはしませんよ──」
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ルキルスへ
元気そうで何より。
僕は──
新しい紙を前に、ユージーンは続きを書くことができなかった。
仕方なく彼は、筆記具と書きかけの手紙を、ベッドサイドテーブルの引き出しにしまい込んだ。
(仕事が見つかったら、また書くね)
今日は時間がゆっくりと過ぎていくように感じる。
クロエたちは一旦帰って行った。
昼ご飯にはまだ早い時間だ。
掛布の中に蹲り、彼は目を閉じる。
これからは後ろ向きにならず、前だけ見て進もうと決めていたユージーンだが、重苦しい感情が自分の中に居座っていて、邪魔をする。
自己中心的に、自分のことばかり考えるから、そんな感情が生まれるのだ。
(寂しいとか……悲しいとか。人に迷惑ばかりかけている僕が、そんなことを口にしていいはずがない)
ユージーンは友人の無事を祈ることにした。
この広い大陸のどこかで、彼は、人外の怪物と戦っている。
どうか怪我をしませんように。
無事に帰ってきますように。
それから、クロエとマクシミリアンが幸せに過ごせますように。
ザイオンが僕に呆れて嫌っていたりしませんように──
(仕事を見つけなきゃ)
住む場所も見つける必要がある。
できればクロエのいるこの拠点から離れたくない。
今の自分では、一人では何もできそうにない。
でもクロエに相談したらきっとまた、彼女やザイオンに甘えることになってしまう──
(どうしたらいいんだろう?)
蹲った姿勢で掛布を被り、打ち拉がれていたユージーンは、途中で時間が25分巻き戻ったことに気づかないでいた。
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