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二進法原初魔法  作者: lukecat
第三部:探索
153/207

番外編:25分(1)

##ユージーン視点

##時間は少し巻き戻って、ザイオン、ルファンジア、マクシミリアン、アメリアの四人が罠探索に出た初日になります。


##人物紹介

ユージーン:

クロエの兄でクロエ大好き。第三部では療養中。


ルキルス:

ユージーンの同級生。ザイオンに多額の借金をしている。第三部では軍の任務にかかりきり。








⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 ルキルスへ


 元気そうで何より。

 僕も経過順調と言われているので、ルキルスが帰投する頃には治療院を出ていると思う。

 早く治りたくて、ベッドの上で腕立て伏せをしていたら、看護スタッフに見つかって怒られちゃったよ。

 腕立て伏せといっても、腕を曲げた途端に潰れるんだけれどね。


 僕は、自分が何の役にも立っていないことがとても心苦しい。

 今日は医療費の支払いがあって──クロエに付き添ってきた、初対面のエルフに言われたんだ。

「ザイオン様に衣食住を頼っている上に、高額な医療費まで負担させるのか」

 って。

 彼の言うことは正しい。

 僕は妹に、お金を預けていたんだけれど全然足りなかったようで、本当に申し訳ない。

 ザイオンは、ずっと黙って支払っていてくれてたんだな。

 僕は薄々気づいていながら、彼の厚意に甘えていた。

 自分の図々しさと、常識の無さに呆れる──




----------------


 書いている途中でユージーンは、筆を止めた。

 そして、手紙を手に取り、読み返す。


(仕事で大変な思いをしているルキルスに、僕は何を書いているんだろう? 心配してもらおうとしているのか?)


 ユージーンは、手紙を破り捨てて丸めた。


 さっきクロエと共に、緑色の髪を刈り上げた男性エルフが来た。

 ルファンジアはザイオンたちと一緒に飛行艇で出かけ、ルファンジアの息子アンドレアが家事をしているので、その代理だという。

 初めて会うそのエルフは、紫色のローブを着て、金の細い鎖を腰に巻いていた。

 華奢で、年下に見えたが、エルフ族は見かけと年齢が違う。

 落ち着いた雰囲気から考えて、かなり年上かもしれなかった。

 彼は、クロエが別室で医師と話している間、ユージーンのそばに付き添っていた。


「貴方は、ザイオン様のお仕事を手伝っていたと聞きました」

 エルフの男は微笑んでそう言ったが、声の調子は冷ややかだ。

 彼らエルフ族が、王国人に悪感情を持つのは自然のことだ。

 エルフ族王家の姫は、王国に捕らわれていた。

 それがザイオンの母親だ。

 クロエにそう説明してもらった時、ユージーンは不思議に思っていた──ルファンジアは、王国出身の自分になぜ親切に接することができるのかと。

 このエルフの男はルファンジアと違って、内心の嫌悪感を隠し切れてはいなかった。


「手のかかる、大変な仕事ですね」

 大仰に、尊敬しているかのような口調でエルフは言った。

「今は私たちが担っております。勝手ながら、機械で工程を自動的に行えるように工夫させていただきました。仕事を奪うようで恐縮ですが、貴方にとってもその方が良いでしょう? 病気で働けないようですから。新しいお仕事をお世話いたしましょうか? 住み込みの農作業仕事ならたくさんありますよ」


 何を言われているのか、一瞬理解できなかった。

 しばらく考えてから、ユージーンのしていた仕事を今はエルフ族がしていて、機械でできるようになったからもう貴方は要らない、という意味だと気づいた。

 居場所を失ったのだ。

 あの家に住む理由も。


「……治療院に相談窓口があるので、まずはそちらに聞いてみます」

 ユージーンは、胸の奥に重たい感情が居座り始めるのを感じる。

 自分の力で乗り越えなくてはいけない。

 いつまでも、妹やザイオンに頼ってはいられない。

 今まで甘えすぎていたことにも気づかなかった。

 自覚無くあの部屋に帰っていれば、図々しいとザイオンにも呆れられていただろう。


 髪を刈り上げたエルフは、手に持っていた書類をユージーンの目の前で振った。

 それは病院の請求書で、ユージーンの所持金を遙かに上回る額が書かれていた。

「私も本当は、病人にこんなことを言うなんて気が進まなかったんです。でも、ザイオン様に衣食住を頼っている上に、高額な医療費まで負担させるなんてね。ルファンジアや北の傍系一族はなぜか許しているようだが、私は許容できません」


 ユージーンは、しばらく息苦しさと戦っていた。

 このエルフ族の男は何一つ間違ったことを言ってはいない。

 彼は勇気を出して、こちらの非常識さを教えてくれただけだ。

「……言いにくいことを指摘してくださり、ありがとうございます」

 なんとか、言葉を繋いだ。

「どうしても仕事が見つからなければ、その時はお願いしてもいいですか?」


 エルフの男は、頷いて、満足げな笑みを浮かべた。

「お任せください。決して悪いようにはしませんよ──」






----------------


 ルキルスへ


 元気そうで何より。

 僕は──




 新しい紙を前に、ユージーンは続きを書くことができなかった。

 仕方なく彼は、筆記具と書きかけの手紙を、ベッドサイドテーブルの引き出しにしまい込んだ。


(仕事が見つかったら、また書くね)


 今日は時間がゆっくりと過ぎていくように感じる。

 クロエたちは一旦帰って行った。

 昼ご飯にはまだ早い時間だ。

 掛布の中に蹲り、彼は目を閉じる。


 これからは後ろ向きにならず、前だけ見て進もうと決めていたユージーンだが、重苦しい感情が自分の中に居座っていて、邪魔をする。

 自己中心的に、自分のことばかり考えるから、そんな感情が生まれるのだ。


(寂しいとか……悲しいとか。人に迷惑ばかりかけている僕が、そんなことを口にしていいはずがない)


 ユージーンは友人の無事を祈ることにした。

 この広い大陸のどこかで、彼は、人外の怪物と戦っている。

 どうか怪我をしませんように。

 無事に帰ってきますように。


 それから、クロエとマクシミリアンが幸せに過ごせますように。

 ザイオンが僕に呆れて嫌っていたりしませんように──


(仕事を見つけなきゃ)


 住む場所も見つける必要がある。

 できればクロエのいるこの拠点から離れたくない。

 今の自分では、一人では何もできそうにない。

 でもクロエに相談したらきっとまた、彼女やザイオンに甘えることになってしまう──


(どうしたらいいんだろう?)


 蹲った姿勢で掛布を被り、打ち拉がれていたユージーンは、途中で時間が25分巻き戻ったことに気づかないでいた。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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