3番目の婚約解消 54 セライアの決意
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セライアから面会の許可を得られたアンジェリアは、レイモンドとルルドとの話の後、早速セライアの部屋に遊びに来ていた。
「…お姉さま、ずいぶんとお土産を買い込んだのね?」
「えぇ! セシル様と結婚式をした後で、旅行にも行く予定はあったのだけれど…。ベイガザード王国が勢力を強めている情勢でしょ? 次に旅行へ行けるのが、いつになるのか分からないんだもの!」
コーション国のセライア用の客室では、所狭しと物が溢れており、足の踏み場を探すのも大変な状態であった。
部屋の端にはセライアがコーション国で購入したお土産が山のように積み上がっている。それを侍女がいそいそと旅行用の木箱にせっせとしまっている。
カーペットやベッドには衣類や靴が置かれており、これもまた侍女達が必死に荷造りをしていた。
「ーーそれにしても、すごい量ね…。本当は、王都の治安悪化で、町の散策はお兄様に禁止されていたんじゃなかった?」
「ーー! そ、それは…」
アンジェリアは大量の荷物で溢れる室内に圧倒された。セライアがコーション国に大使として来てから、オルソン公爵領やコーション国の王都でルルドを護衛に頼み、買い物をこっそり楽しんでいたことは把握していた。けれど、ここまで買い込んでいたとはアンジェリアは思いもしなかった。
セライアはアンジェリアに痛いところを指摘されて、アハハと笑ってごまかしている。
ーーーーそれにしても、この大量の品…。改めて、コーディル公爵家の財力を感じるわ…
アンジェリアは、自身の実家の豊かさを目のあたりにした様な何ともいえない気分になった。
「結婚して、こんなに買い込んだら、セシル様もお叱りになるんじゃない?」
アンジェリアはセライアが嫁ぐラークブルグ侯爵家頭をかすめ、後々小言をセライアが言われて落ち込むのではないかと心配になった。
「もう、アンジェは心配性ね。大丈夫よ。これとか、ラークブルグ侯爵家へのお土産と、これはうちのコーディル公爵家、後、お友達へのお土産なの。全て配るから置く場所には困らないわ!!」
セライアはアンジェリアの言葉を何やら勘違いをして、斜め方向の解釈をしたらしい。セライアの言葉を聞いていた侍女達も苦笑いをしながら、こちらを見ていた。
「いや、お姉さま、置くスペースを心配しているんじゃないのよ…」
アンジェリアがひきつった顔をしているのに、セライアはキョトンとして、何が可笑しいのかと不思議そうだ。
「ーーどうかした?」
「…、何でもないわ」
とりあえず、セライアのお土産の話は後にしておこうと、アンジェリアは侍女が荷物を避けて作ってくれたソファスペースに座った。
「さっき、ルルドとレイモンド伯父様が部屋に来たの。ライアルト殿下の容態が回復しつつあるそうよ」
セライアも向かえのソファに座った段階でアンジェリアが端的に用件を伝えると、みるみる内にセライアの表情が曇った。
「ーーそれは、ガーランド王国にとっては、喜ばしい情報でしょうね…。でも、コーション国にとっては、ベイガザード王国に攻め入れられる危険が高まったと、いう事よね…」
アンジェリアを心配に見つめながらセライアはそう言うと、侍女達を部屋から下げた。
「ーーお姉さま…」
「やっぱり、帰るの、やめよう、かな…?」
わざと軽くふざけたように言うセライアだが、目はとても真剣だ。
そもそも、先にガーランド王国に戻ったギルバートと同じタイミングで、セライアも帰国する予定だったのだ。しかし、コーナー王女の捕縛劇騒ぎが収まるまで、せめてアンジェリアが落ち着きを取り戻すまでと、アンジェリアの側に少しでも長くいたいと、セライアは帰国を渋っていたのだ。
「ーーお姉さま、ありがとう…でも、セシル様に私が叱られてしまうわ。セライアお姉さまは知らないと思うけれど、セシル様、怒ったら怖いのよ? 敵に回したくないわ」
アンジェリアが少しだけ大袈裟に肩を竦めふざけても、セライアの表情は和らぐことはない。反対にアンジェリアの手をぎゅと握り、心配そうな顔で細々と話し出した。
「ーーラークブルグ侯爵家は、どうでも良いのよ。ガーランド王国にいれば命の危険はないでしょう? でも、アンジェ、あなたは違うわ。ここコーション国は、国王をも毒殺しようとする輩がいるのよ? いつ、何が怒るか…。ねぇ、このまま、ガーランド王国に一緒に帰れないの?」
セライアは震えながら、アンジェリアの手を握りしめ一気に捲し立てた。
「ーー、ガーランド王国からは、コーション国が魔法石を融通してくれた恩義を返すために、このままコーション国に留まるように指示されてるのーーギルお兄さまが、陛下から伝令をくれたの、知ってるでしょう?」
ギルバートからは、ガーランド王国に帰って直ぐ、国王の意向を伝える書簡がコーション国に届いていた。曰く、アンジェリアはこのままコーション国でレオンの補佐に当たるようにとの指示だった。それをセライアに優しく伝えても、悲しみに沈んだセライアには響かない。
「ーー、自分はサスティアル王国に呪いにかかった息子を完治してもらって…、それなのに、コーディル公爵家の娘を放置するなど、国王陛下ってバカじゃないの?」
「セライアお姉さま!!」
怒りに血が上ったセライアのガーランド国王非難に、ここに誰もいなくて良かったと、心底アンジェリアは感謝した。
「ーー周りで誰が聞いてるかも、分からないのよ。言葉には、気を付けないと」
「ーーっ、分かってるわよっ!」
アンジェリアがセライアに注意すれば、セライアは口を突きだし、面白くないと呟いた。そして、再びアンジェリアの手を握りしめ直すと、目を伏せながら、真剣に話し出した。
「ーー、アンジェ、何があっても、ガーランドに帰ってくるのよ? そして、また、家族皆で、楽しくお茶をするの。お父様とお母様、タチアナお姉さまに、ギルお兄さま、イアンも皆揃って、お母様のお気に入りの紅茶を飲むの。そして、お母様の延々続く、紅茶の解説を聞いて、兄妹皆でうんざりするのよーー」
「ーーえぇ、わかったわ…」
セライアは顔を床に向けたまま、声を震わせて鼻をすすりながらもアンジェリアに言い聞かせた。アンジェリアも、もうすぐやってくるセライアとの別れに寂しさがこみ上げ、もらい泣きしそうになった所で、ふと思い出す。
「ーーお姉さま、ルルドが荷物のみを馬車でガーランドに戻すように言っていたわ。お姉さまは、転移魔法でルルドが、送ってくれるって」
「ーー! 本当に?! もう少し、アンジェの側にいても良いの?!」
アンジェリアの言葉に、勢い良くセライアは顔をあげて返事をした。その瞳には、うっすら涙が残っている。
「ーー、ラークブルグ侯爵家が心配するかも、知れないけれど。セライアお姉さまさえ、良ければ…」
「大丈夫よ! セシル様は、お優しいもの!!」
セライアはそう言うと、アンジェリアをぎゅっと抱き締めた。以前、転移魔法の事を話題にしたときは、貴族の威厳について延々と説教されたが、今回はすんなり提案を受け入れてくれるらしい。
「こうなってら、しばらくは、コーション国に居座ってやるわ! アンジェの姉として、できる限りのことはさせてちょうだい!!」
「お姉さま、ありがとう!!」
セライアの温かい言葉にアンジェリアは心強さを感じた。コーション国には、アンジェリアに親切にしてくれるルーファスや、レオン、オルソン公爵家の面々がいる。けれど、セライアのような家族が側にいてくれるのとは、やはり安心感が格段と違うのだ。
「そうとなれば、ルルドにうちに連絡を入れてもらわなきゃ! 私達、娘達がコーション国にいれば、きっと、お父様や国王陛下だって、コーション国に有利に動いてくれるわ!!」
セライアは自身の拳を握り、高貴な令嬢にはそぐわないガッツポーズをした。
まるで、自分自身を奮い立たせている様子に、アンジェリアは、少し心苦しさも感じる。
ーーーー私のため、セライアお姉さまは、ラークブルグ侯爵家との婚姻も延期することになる。
ーーーー魔力のないセライアお姉さまが、この戦乱が起こる可能性が高いコーション国にいることは、身の危険だってある。
ーーーーコーション国に、何かあれば直ぐにでも、ルルドに頼んでセライアお姉さまをガーランド王国に連れ帰ってもらおう
アンジェリアは、刻々と近づく動乱の時を前に、セライアとの一時を忘れないよう、後悔しないよう過ごすと誓った。
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