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3番目の婚約解消 39 レオンの想い

 ベイガザード王国の姫と第1王子カイルとの仲が、上手くいっていない。そんな噂は、婚約式の後、すぐに王宮内に広がった。

 噂の出所は、少しでもベイガザード王国派の結束を崩したいオルソン公爵派だと、アンジェリアは考えていた。


「ーーじゃぁ、不仲は本当なの?」


「あぁ、兄上の呼び出しも、姫は全部無視して部屋に閉じ籠っているらしい。立太子の儀が終わり次第、ベイガザード王国の側近も全て国に帰るようにと、命令を下したそうだよ」


 アンジェリアの部屋にレオンが訪ねてきたのは、明後日にカイル王子の立太子の儀を控えた朝食後だった。


 ーーーーベイガザード王国の姫は、コーション国に嫁ぐのが嫌だったのかしら……


 ベイガザード王国としては、鉱物が豊富で、魔法石まで産出するコーション国が欲しいはすだ。ベイガザード王国の姫ならば、国命としてコーション国を乗っ取る勢いで嫁いできたに違いないとアンジェリアは考えていた。


「カイル殿下は何と言っているの? ベイガザード王国の姫がこのまま部屋に閉じ籠るとなると、戸惑う貴族もいそうよね?」


「兄上の派閥の揺らぎが起きてくれたら、僕としても好都合なんだけれど……いくら何でも、ベイガザード王国の姫も、兄上の立太子の儀を欠席をしないだろう。だから、祝賀パーティーの時には、アンジェも注意して、姫君を見て欲しいんだ」


「それくらいなら、わかったわ」


 レオンの頼みに、1つ返事でアンジェリアが頷いた。アンジェリアの部屋では、間近に迫った敵の立太子の儀に向けて、侍女達が気合をいれて、アンジェリアの準備を進めている。

 レオンは、そんな侍女達をちらりと見たかと思うと、どこか言いにくそうに口を開いた。


「ーーねぇ、アンジェ。アンジェはコーション国が好き? このまま、僕と一緒にコーション国を守ってくれるよね……?」


「……? 突然どうしたの? もちろんよ、国民のためにもベイガザード王国を排除しましょう!」


「……、あぁ、まずは、そうだよな」


 アンジェリアが力強く、妥当ベイガザード王国を打ち上げると、何故だかレオンはガックリと頭を下げた。アンジェリアの部屋で準備に勤しんでいた侍女達までもが、微妙な顔でアンジェリアをちらちら見ている。


 ーーーーへ? 私、何か間違った答え方したのかしら?


 アンジェリアがうーんと唸りながら首を捻ると、マリアナがため息をつきながら、レオンにお茶のお代わりを勧めた。しかし、レオンはお代わりを断り、かなり冷えきったお茶を一気に飲んだ。そして、アンジェリアに休息もたくさんとるようにと一言伝え、会議のために部屋を後にした。


 ーーーー一体、何だったの??


 アンジェリアが、何か言いたそうなマリアナに助けを求めるように視線を向けると、マリアナはもう一度大きくため息をついた。側にいた他の侍女達もどこか呆れた様子でアンジェリアを見ている。


「ねぇ? アンジェは本当にさっきの言葉の意味分かってないの? ーーレオン殿下は、アンジェに国が落ち着いてからも、ずーっとコーション国にいて欲しいって言いたかったのよ!」


「なっ!」


 マリアナがレオンの言葉を訳すと、アンジェリアは顔を赤くした。アンジェリアにとっては、レオンとの婚約はあくまでも、ベイガザード王国をコーション国から排除するための手段だ。レオンは先日もアンジェリアに対して好意を伝えてきたが、アンジェリアはどうレオンに応えれば良いのか分からなかった。


 ーーーーレオンにはアマリア様もいるのに。私は愛する人を他の人と分かち合うのは……、無理、出来ないわ……


 かといって、レオンの気持ちに応えられないと今すぐに伝えて、レオンの気が沈んでは元も項もない。アンジェリアは、コーション国が落ち着いて、政治的な状況が安定した上で、レオンに別離を伝えようと考えていたのだ。


 ーーーーカイル殿下も、コーション国での覇権争いのために、ベイガザード王国から姫を娶るのに……その姫と不仲なんて、人の心は思い通りにはならないものね


「アンジェ? 私、何か、不味いことを言っちゃった?」


 無言のまま、思考に耽るアンジェリアに、売って変わってマリアナが心配そうに尋ねた。マリアナの側には、アンナやコーション国の侍女達もおり、急に黙ってしまったアンジェリアに皆心配そうな表情を浮かべていた。


「ーー大丈夫よ……そう、少し考え事を思い出しただけなの。まずは、カイル殿下の立太子の儀に万全な状態で備えなちゃね」


 アンジェリアが努めて明るく振る舞うと、渋々といった様子でマリアナも引き下がって、ドレスやら装飾品の確認に、再び取り掛かり始めた。



 アンジェリアはしばらくして皆が、動き出したことにほっと肩を撫で下ろした。そして、皆の邪魔にならないように、近くのセライアの部屋に顔を見に行こうと静かに部屋を出た。


「ーーアンジェリア様、お出かけですか…?」


 部屋の外にはロイターとナサルが何やら警備をしながら打ち合わせていたようだ。アンジェリアが静かに1人で部屋を出たことに、ナサルは少し不機嫌そうにアンジェリアに問いただした。


「えぇ、皆忙しくしてるから、お姉様の部屋に顔を見に行こうと思ったの。ナサルは忙しい? ついてこられそう?」


「もちろん、お供します」


 ナサルはアンジェリアがお供を連れないで、城内をうろつくと思ったらしい。アンジェリアが、ナサルに供を頼むと、表情を少し緩め、アンジェリアの護衛を了承した。


「ロイターは、中の者達が私を探し始めたら、居場所を伝えてちょうだい」


「……、かしこまりました」


 ナサルとは異なり、ロイターは嫌々アンジェリアの指示に頷いた。アンジェリアの部屋の中は、カイルの立太子の儀の準備で忙しい。アンジェリアを見逃したとなれば、八つ当たりされてもおかしくはない。


 ーーーーロイター、ごめんね! でも、もうすぐセライアお姉様もガーランド王国に帰国してしまうもの。会える時に、顔を見ておきたいわ


 ナサルもロイターもこれまでも、アンジェリアがギルバードやセライアに会いに行くのを止めることは決してなかった。

 王位を巡って、対立が深まる王宮内で歩き回ることを黙認して貰っていることに感謝しながら、アンジェリアは最短ルートでセライアの部屋に向かった。

読んで頂きありがとうございます!

まだまだ話は続きます。

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