3番目の婚約解消 38 カイルの婚約式
王宮庭園のいざこざを探りに出たユーグによると、婚約式の直前ということで、王宮警備隊の中で、内々に処理をされたらしい。
確かに、婚約相手のベイガザード王国の貴族が騒ぎを起こしたとなれば、醜聞となりオルソン公爵派が騒ぎ立てる可能性もあった。
ーーーーようは、自国のためにベイガザード王国の姫が止めに入っただけなのかしら……?
「ーージェ、アンジェ! どうしたの? これから、兄上と婚約者とのダンスだ。その後は、僕達の番になるーー気分でも、悪いのか?」
アンジェリアが今朝の王宮庭園の出来事を思い出していると、レオンに思考の沼から引き上げられた。
カイルの婚約式は、教会から神官を呼び、問題も起きなくつつがなく終了した。今はベイガザード王国の姫との婚約を祝うための祝賀パーティーの真っ只中だった。
「あぁ…、ごめんなさい。集中しなくてはならないのに」
ダンスフロアには、第1王子カイルとベイガザード王国の姫がダンスを始めようとしている。レオンとアンジェリアは国王のルーファスと並んで、一つ高い壇上で王族の列席に座り、ダンスフロアを眺めていた。
ーーーーベイガザード王国の人間がうじゃうじゃいる中で、ぼーっと気を抜くなんてあり得ないわ……
ダンスフロアには、婚約者同士のダンスを囲むようにして眺めるコーション国の貴族とベイガザード王国の貴族が溢れている。少し離れた所には、ガーランド王国とエステリア国から来た参列者が遠巻きに様子を伺っていた。
「もうすぐ、音楽が終わる。その次は、僕らやアンジェのご兄姉、ベイガザード王国側の使者のダンスだ。視線に気が滅入るだろうけれど、堪えてくれ」
「ーーええ、わかっているわ」
カイル達のダンスを眺めている人間の中にも、チラチラとこちらを伺う者が多数見受けられる。期待の目や憎悪に満ちた目、単なる好奇心を宿した目など、気分の良いものではない。
「ーーセシリア姉様、ダンス、大丈夫かしら……」
たくさんの貴族が注目する中、ダンスが苦手なセシリアは気が重いだろう。ギルバードによれば婚約者のセシルとのダンスもやっとの事で、こなしているらしい。アンジェリアは、自分達のダンスよりも姉の事が心配で堪らなくなってしまった。
「大丈夫、セシリア様がダンスを失敗しても、ガーランド王国の使者を面と向かって悪くは言わないだろう……。まぁ、そこそこ、悪評は立つだろうけれどね。まぁ、超絶ダンステクニックを披露しても、敵陣には、何かと悪く言われるだろうし……」
「……やっぱり?」
フロアの隅でガチガチに緊張しているセシリアを見て、アンジェリアとレオンはクスッと笑った。どうせ、上手く踊っても、何かしら不評が立つのであれば、自分達は楽しく踊ろう。アンジェリアとレオンは丁度、音楽が止んだタイミングで、ダンスフロアに降りていった。
途中で国王のルーファスが頑張って、と小さく声をかけてくれアンジェリアは更に心が軽くなった。
ーーーーまぁ、なるように、なるわね!!
ーーわー!! パチパチパチパチ……ーー
レオンとアンジェリアのダンスは無事に終える事ができた。やたらレオンは手のひらに汗をかいていて、アンジェリアは驚いたが、レオンが恥ずかしそうに顔を赤くしているので、澄まし顔でやり過ごした。
心配していた兄姉のダンスも、ぎこちなさはかなり目立ったが大きなミスもなくやり終えたらしい。
「リアは本当にダンスが得意なんだね? セシーとはレベルが違うよ」
レオンとのダンスの後、アンジェリアは叔父のレイモンドや兄のギルバードとのダンスもこなしていた。今は、セシリアとのダンスを終えたルルドに誘われ、踊っている。
「セシリア姉様を馬鹿にしないで。セシリア姉様はダンスは不得手だけれど、語学は得意なんだから!」
ダンスをくるくると踊りながら、ルルドと話していると、緊張感が程よく解けていく。
「そうなの? じゃぁ、今度、古代語で話しかけてみようかな?」
「ーーたぶん、大丈夫だと、思うけど……」
少し意地悪なルルドは、セシリアをからかうために難解な古代語を使うらしい。従兄とはいえ、セシリアが機嫌を悪くしないかアンジェリアは心配になった。
「ねぇ? こうして踊っていると、レオンよりも僕との方が息がピッタリじゃない?」
「? そうかしら?」
急にルルドが話を変えて来たので、アンジェリアはきょとんとしながら、てきとうに返した。
「あぁ、絶対僕の方が相性が良いって。ーーコーション国のゴタゴタが済んだら、サスティアル王国に留学も考えてよ? 僕がリアの面倒を見るから」
ーーーーゴタゴタが済んだら、か……
コーション国の後継者争いと、ベイガザード王国の排除が済んだら、アンジェリアはガーランド王国に帰りたかった。けれども、婚約解消を繰り返している娘はコーディル公爵家に必要ないのではないのではと、最近考えるようになったのだ。
レオンはずっとコーション国にいれば良いと言っているが、レオンには他にエステリア国の公女がいる。今は仲が良好だが、今後の争いの種になりかねない。それなら、アンジェリアはコーション国が落ち着きを取り戻した後は、コーション国から去りたいと考えていた。
「少しは、サスティアル王国に来ることを考えてくれるね? あぁ、音楽が終わってしまった……。少し休憩に外の空気に当たろうか?」
続けざまにダンスをしていたアンジェリアは、ルルドの誘いに乗ることにした。途中、レイモンドとのダンスを終えたセシリアも合流して、従兄同士気兼ねなく、休憩をしようということになる。
アンジェリアがチラリとレオンを探すと、オルソン公爵と話し込んでいたため、そのままダンスホールを出ることにした。
「ねぇ? アンジェとルルドって、結構仲が良いのね?」
くるくると弱めのシャンパンが入ったグラスを回しながら、楽しそうにセシリアが口を開いた。
3人がやってきたバルコニーは丁度無人で、気兼ねなく過ごせるため、ついついセシリアは調子に乗ってしまった。
「セシリア姉様、お酒、飲み過ぎじゃない?」
「大丈夫よ! で、ホントの所、レオン殿下? それとも、このルルド? どっちにくっつくの?」
アンジェリアの苦言をスルッと無視して、セシリアは楽しそうにおしゃべりを続ける。
「ーーそうだな……、僕としては、あんな小僧に負けてはいないと思うんだけど?」
「ルルドまで、おふざけが過ぎると、シャルにチクるわよ?」
ルルドがふざけて、アンジェリアの顎をくいっと指で掴むので、アンジェリアはパッと素早く手を振り払った。それを見て、セシリアが顔を赤くして、きゃぁきゃぁ、喜んでいる。
「兄上も、リアをサスティアル王国に連れ帰れば、絶対に喜ぶよ? どうか、僕とサスティアル王国に来ることも考えておくれ」
「きゃぁ!」
ルルドがアンジェリアの手の甲に軽くキスを落とすと、それはそれはセシリアの興奮は最高潮に達した。
ーーーーもう、セシリア姉様も、ルルドも何を考えてるのやら……
アンジェリアはお酒を飲んでもいないのに、ずきずきと頭が痛くなった。
ダンスフロアでは、そんな3人の様子を寂しそうに国王のルーファスが眺めていた事に、アンジェリアは気がつかなかった。
読んで頂きありがとうございます!
まだまだ話は続きます。
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