3番目の婚約解消 36 作戦の快諾
ルルドからの手紙をルーファスに渡すと、ルーファスはその場で封を開き、内容を確認した。
アンジェリアは、カイルの立太子の儀にコーナー王女を呼び寄せると言う計画しか聞かされていなく、不安な面持ちでルーファスの返事を待った。
「アンジェ、ルルド殿下に、手紙に書かれている事は全て承知したと伝えておくれ。」
ルーファスの返答にアンジェリアはほっと肩の力が抜けた。側に立つマリアナまで、ふぅーと、ため息をしたため、その様子を見てルーファスは少しだけ笑った。
「カイルの立太子の儀には、レオンのエスコートで出席してくれるのであろう? 美しく着飾ったアンジェリアを見れるなんて、楽しみだよ」
ルーファスはそう言うと、静かに席を立った。アンジェリアとの面会の時間が終わったのである。ルーファスはアンジェリアに背を向けると、ゆっくりと温室の出入り口に歩き出した。
今後は、ベイガザード王国派によって、ルーファスへの暗殺計画が遂行されるだろう。それでも、アンジェリアは二度とルーファスとゆっくり話をすることが出来ないことを、認めたくなかった。
「あの! ルーファス様!!」
アンジェリアは必死に何かを言わなくてはならないと感じ、ルーファスを呼び止めた。けれども、ルーファスはアンジェリアに背を向けたまま、振り替えることなく、温室を出ていってしまった。
アンジェリアは、コーション国での保護者のような存在のルーファスが殺されてしまうかもしれないのに、何も出来ない自分を苦しく思った。そして、せめてルーファスの願いであるレオンの命だけは、サスティアル王国やガーランド王国がなんと言おうとも、守ろうと決心した。
◇◇◇◇◇
ルーファスとの面会の後、アンジェリアの部屋にルルドとレイモンドが現れた。温室で渡したルーファスへの手紙の返事を聞きにやってきたのだ。
「ルーファス様は全て承知と、お応えになりました」
「良かったよ、どんなに罠を張り巡らせても、カモが来ないと意味がないからね。さぁ、これからは失敗は出来ないよ。必ず、あの女を捕まえて、2度と外に出られないようにするからね!」
レイモンドは暗く沈むアンジェリアに明るい調子で話しかけると、ライアルトへの呪詛の犯人を必ず捕まえると断言した。
コーション国、エステリア国やガーランド王国をベイガザード王国との争いに巻き込んだライアルトへの呪詛の犯人、コーナー王女は過去にもたくさんの人間を殺めてきた。ルーファスは手紙の内容を承諾したが、アンジェリアは周りに被害が及ばないか不安を拭えない。
カイルの立太子の儀に上手く誘き寄せても、周りを害することなく捕縛出来るのか、とっさに、コーナー王女が呪詛を唱え人質を取ることはないのだろうかと、今更ながら不安がよぎる。
「コーナー王女様を、罠にはめるとは、具体的に何をされるのです?」
アンジェリアは、ルルドに同じ質問を繰り返しても適当にかわされていたので、レイモンドに尋ねてみた。レイモンドの横ではルルドがやれやれといった顔で、ため息をついている。
「そうだね、気になるよね? だけれど、ごめんね。アンジェリアには教えられないんだーーこら、ルルド、睨むんじゃない!! ちゃんと口を滑らせないって、守っただろう?」
「リアには、自然体で立太子の儀に参加して欲しいのだよ。もちろん、リアの安全は僕達が保証する。そして、必ずコーナー王女を捕まえるから、僕達を信じてくれないかい?」
ルルドはレイモンドのアンジェリアを焦らす口調にイラッとしながらも、アンジェリアには、申し訳なさそうに秘密を守った。
ーーーーやっぱり、カイル殿下の立太子の儀まで計画は知らされないのね……
アンジェリアは、ルルドやレイモンド、レオン達の計画を教えられなかったが、ルーファスと約束したレオンの命は立太子の儀で何が起こっても必ず守ろうと決意をあらたにした。
「ーーリア? 決して危ないことは、してはいけないよ?」
「ーー! わ、わかってます!」
ルルドの鋭い指摘にアンジェリアは思わず声が裏返ってしまった。そんなアンジェリアの態度にレイモンドも、疑わしそうな表情でアンジェリアを探るように見つめてくる。
「ーー? 何か隠していることでもあるのかい? 立太子の儀には周辺諸国の国の代表も来るんだ。全ての国を巻き込みたくなかったら、大人しくしてるんだよ?」
先程まで、軽い口調だったレイモンドまで、真剣な表情でアンジェリアに釘を刺した。サスティアル王国の暴れん坊と恐れられるレイモンドに睨まれると、さすがにアンジェリアも背筋が凍りつくように感じた。
けれども、アンジェリアはどうしてもルーファスとの約束を守りたい。カイルの立太子の儀は、レオンの側をできるだけ離れないで置こうと誓った。
「僕らも、リアに隠し事をしているから、教えて貰えないのかな? じゃぁ、ほんの少しだけ計画を明かそうか……。 リアには、カイルの立太子の儀で、必ずコーナー王女のエスコートをしてきた紳士とダンスをして欲しいんだ。これを守って欲しい」
ーーーーコーナー王女のパートナーとダンスを?
アンジェリアはルルドが少しだけ計画を明かしてくれた事を喜んだが、指示がダンスを踊る事なんて簡単すぎる。
「パートナーの方とダンスをすれば、コーナー王女を捕まえられるの?」
「あぁ、効果てきめんさ! 何でも好きなようにしてきた王女が不可能を前にして、暴れだすよ?」
「不可能……?」
ルルドの言葉にアンジェリアの頭には疑問符が一杯になるのだが、またいつものように、それ以上は教えてくれないらしい。アンジェリアはムッとして、ルルドを睨んだが、ルルドは苦笑したまま頑として口を割らなかった。
「アンジェリアがもっと、演技が上手かったらな……。我が姪は思ったことを、顔に出しすぎる」
ルルドとのやり取りを見ていたレイモンドもアンジェリアの豊かな表情について苦言を指した。
「ーーそんなに、顔には出ていないと思うけれど……」
「なにしろリアは、コーディル公爵家の末っ子として、甘やかされて育てられたからね? 自由に育て過ぎたんだろう。今は弟が出来たけれど、リアはイアンが産まれてからはずっとコーション国にいるしね」
アンジェリアが否定をしても、ルルドによってつかさず、アンジェリアの末っ子気性を指摘された。
「たしかに、我が姪は周りから甘やかされておるからな。まぁ、そこが可愛いのだと、私も思うのだがね?」
レイモンドはアンジェリアの肩に手を起き、しょげてしまったアンジェリアを励ますようにトントンと軽く叩いた。
「まずは、カイルの婚約式だ。婚約相手のベイガザード王国の姫はすでに、この王宮に入場していると聞く。変に絡まれないように、アンジェリアは部屋からあまりでない方が良い」
「わかりました。何か問題を起こして、レオンやルルド、叔父様に迷惑をかけないように気を引き締めます」
レイモンドにそう言われて、アンジェリアも部屋に引きこもる事に賛成する。
「気晴らしに、セシリアやギルバードを部屋に寄越すよ。とりあえず、3人とも護衛はたくさん配備させて貰うから、そのつもりでね?」
ルルドはアンジェリアに念を押すと、レオンとの打ち合わせのためレイモンドと部屋を出ていった。
「ーーアンジェ、ルーファス様にお願いされた件、ルルド殿下に伝えなくて良かったの?」
ルルド達が退出し、アンナや他の侍女達も茶器の片付けのため退出したところで、マリアナが不安そうにアンジェリアに尋ねた。
「ルーファス様のお願いは、私の願いでもあるのよ。コーション国の全員は助けられないけれど、婚約者のレオンの命くらい、助けられるわ」
「ーー無理、しないでね。何かあったら、ギルバード様に告げ口するんだから!」
レオンが反乱を起こせば、アンジェリアの周りも刺客がやって来るかもしれない。アンジェリアが自身を癒す力を使い切ってしまえば、刺客はアンジェリアの命を奪うことが出来る。だから、マリアナは、アンジェリアの力の枯渇が気がかりでならないのだ。
ーーーーマリーの言う通り。自分の命くらい、自分で守らなくては……
カイルの婚約式は半月後、立体式はさらに半月後の予定だ。コーナー王女をコーション国へ呼びつけるには、ギリギリになってしまったが、ルルドやレオン達の計画が上手く進むよう、アンジェリアは祈る他なかった。
読んで頂きありがとうございます!
まだまだ話は続きます。
もしよければ評価&ブックマークもお願いしますm(_ _)m




