3番目の婚約解消 32 呪詛の犯人Ⅰ ー古の魔法使いー
ガーランド王国の第1王子ライアルトに毒を盛った実行犯は、第2王子マティアスの婚約者だったエステリア国の姫君だった。これは、前コーション国王のターチルの手紙による告白で明らかとなり、公にはならなかったが、実行犯の姫君は闇に葬られてしまっている。
しかし、呪詛をかけた犯人捜しは難航を極めており、決定的な証拠が上がらないと、皆ぼやいていたはずだ。
「誰なの!! ーー何か、証拠が見つかったのね?! ねぇ、教えて!!」
ルルドの腕を掴み、犯人を教えてくれるまで離すものかと畳み掛けるアンジェリアの様子に、庭園で仕事をしていた庭師までもが、何事が起きたのかと驚いて振り返った。
「リア、声を抑えて。ほら、みんなが見ているよ?」
「ーー! はぐらかさないで、貰えるなら」
ルルドの指摘に、アンジェリアはワントーン声を小さくして頷いた。そんな、アンジェリアにルルドは決して自分で行動を起こさないよう、念を押した。
「呪詛の犯人はもちろん、極刑にされるべきだと、僕も思う。けれどね、周りの取り巻き達の責も少なからず、あると思うんだ。特に呪詛は高度な魔法だからね。手引きをした人間も合わせて罪を償わせたい」
「手引きした人間も、判明したの?」
個人を呪う魔法は禁呪とされ、数百年前に封印されている。それを手引きしたとなれば、魔法王国のサスティアル王国またはフォーガス国のどちらかにつながる人間だ。フォーガス国に至っては、今や王族であっても呪術を使えるのは多くはない。
もしも、フォーガス王族の誰かが禁呪を使ったのならば、それを導いた人間がいたと考えるのは自然なことだった。
呪詛がライアルトに使われた時から、禁呪の管理関係者の関与をアンジェリアは疑っていた。今では、禁呪に関する研究や書籍はサスティアル王国内の極一部の研究員のみ扱うことが出きる。研究員以外であれば、残すはサスティアル王族のみ。
「! まさか、サスティアル王族の関与が?!」
アンジェリアはあまりの悪い予想に恐怖を覚えたが、ルルドは静かに首を振った。
「さすがに、サスティアル王族はそこまで落ちぶれちゃいないよ? それに、ライアルトを呪い殺す必要も全くないしね」
尤もなルルドの回答にアンジェリアは、ほっと胸を撫で下ろしたが、それでは禁呪を使える手立てはない事になってしまう。
「では、どうやって?」
「リア、まぁ、そんなに焦らないでーーまずは、呪詛を使える人間が大陸に存在していたということが確実になったんだ。それは、サスティアル王国の膨大な古い文献を調査してようやく判明したんだけれど……。呪詛を使った人間の祖先がフォーガス国の建国と関わっている事ーーフォーガスの古の魔法使いはサスティアルの人間だという事だ」
ーーーーやっぱり……
アンジェリアもフォーガス国の建国の歴史を学んでから何度も、建国の魔法使いがサスティアル国の者ではないかと疑った事がある。それも国を治めるくらいの強力な魔力を持つ、サスティアル王族ではないかと予想していた。
「それは、サスティアル王族に連なる方だったの?」
「さすがだね、リア。その通りだよーー魔法使いは、サスティアル王族から追放された人間だ」
「王族から追放、された……?」
サスティアル王族は魔力が強い。そのため、他の国に悪用されたり、狙われないようにサスティアル王国から離れることはない。サスティアル王国外で産まれたアンジェリアの兄弟以外は、サスティアル王国の保護下に置かれるはずである。
「そう。まぁ、だいぶ昔の事だから、記録も少ないんだけれど。どうやら、禁戒を犯してしまったようだーー他国の人間の命を悪戯に永らえてしまったらしい」
「それは、どこの国の人間なの? まさか、エステリア国とか?」
コーション国の前国王のターチルに、呪詛をかけると脅したのはエステリア国だ。遥か昔からフォーガス国との繋がりが深いのだろう。
「そう、正解だよ。リアは勘が良いねーー古の魔法使いは、エステリア国の元になった領主の娘に延命の魔法を使ったそうだ。娘は流行り病にかかっていたそうで、命が危なかったらしい。魔法使いは娘を好きだったのだろう。しかし、それが当時のサスティアル国王が知ることになり、逆鱗に触れた。サスティアル国外で勝手に強力な魔法を使ったのだからね。それで、まだ荒れ地だったフォーガスの地に追放になったのさーー」
フォーガス王族は代々魔力が強いものが王位の継承権を持つ。それは、遥か昔にサスティアル王国から追放された王族が、フォーガス国以外の国に影響を与えることを阻止するための取り決めらしい。追放された王族の家系をフォーガス国のみに定住させることで、サスティアル王国の目が届き易いようにしたそうだ。そうして長い月日を経た後、フォーガス王族の魔力が次第に弱まり、サスティアル王国からの干渉もなくなっていった。
「ーーねぇ、じゃぁ、今も残っているフォーガス王族の宝珠は何が由縁なの? それに、そのエステリア国の王族はどうなったの?」
ルルドの説明に半信半疑なアンジェリアは自身の持つ宝珠が気にかかった。それに、古の魔法使いがかけたエステリアの娘の延命の魔法はどうなったのか。
ーーーーフォーガス国の古の魔法使いの加護は何だったのかしら? 国を治めるくらいだから、それこそ武力とか?
「リア? わからない? 宝珠の力はどんな危険からも、愛する人間を守るんだ。例えば、重い病でもねーーサスティアル王宮にある機密文献によれば、古の魔法使いは宝珠の原型になるものをエステリアの娘に渡したそうだ。」
「古の魔法使いの加護が、宝珠だったの……」
サスティアル王族だった魔法使いは、加護以外の力も多少持っていた。大昔の大陸では、文明も発達していなかったため、ある程度の魔力があれば国を治められたのではないかというのが、サスティアル王国の見解だそうだ。
「あと、リアが気にする、そのエステリア地方の娘は、古の魔法使いに嫁がせたらしい。そこまで、サスティアル王国も鬼ではなかったようだね。宝珠は一生に1度だけ、1人の人間に渡すのだろう? 渡してしまえば、後から変更は効かない。さすがにサスティアルの王族が国外追放されて孤独死では気の毒に思ったのだろうね。当時のエステリア地方の娘は子供を産み、その内の魔力を持たない1人をエステリア国の後継者にした」
「でも、ターチル国王を殺めた際の、脅し文句の書状には、エステリア国も呪詛が使えるって!」
「正しくは、エステリア国がフォーガス国に働きかけて、何らかの呪術をかけると言う事ではないかと見ているよ。エステリア国の後継者には魔力がほとんど無く、その後の子孫にも強大な魔力持ちはほとんど産まれなかったのだから。まぁ、昔、フォーガス国からの縁談で、微々たる魔力持ちは今でもいるかもしれないけれどね?」
「ーーねぇ、じゃぁ、ライアルト殿下に呪詛をかけた人間って、フォーガス国の人間……?」
ルルドの話を聞いてアンジェリアはハッとした。サスティアル王国の人間でも、エステリア国の人間でもなければ、残すはフォーガス王族のみである。
「そう、フォーガス国の人間だ。どうも犯人はずっと、魔力があることを隠してきたらしいよ? 幼いときから呪詛をかけたりしていた形跡も、追跡魔法で見つかっているしね。自分に不利になる事だから、公にはしてなかったのかも知れないがーーリアは会ったことがあるかな? 犯人はコーナー=フォーガス、フォーガス国王の一人娘だ」
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まだまだ話は続きます。
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