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3番目の婚約解消 31 セライアのダンス

 レオンとの婚約式が終わり、アンジェリアはコーション国に来ている姉のセライアと、束の間の穏やかな毎日を過ごしていた。


「ねぇ、アンジェはダンス、上達した?」


 アンジェリアが、第1王子カイルの婚約式と立太子の儀に着ていくドレスをそれぞれデザイナーを呼び最終調整をしていると、同じようにドレスを確認していたセライアが思い出したように聞いてきた。


 ちなみにアンジェリアは幼いときからダンスが得意である。上達しなければならないのは姉のセライアの方だ。


「ーー、お姉様はダンスが上達しなかったのですか?」


 姉のセライアのダンスは、セライアの10歳の誕生日以来見ていない。アンジェリアの言葉にギクリと顔を強ばらせたセライアを見て、アンジェリアはため息をついた。

 カイルの式典までは、日にちがない。急いでセライアにダンスを仕込まなくてはならなくなったようだ。


「お姉様……、予定されている式典にはコーション国の貴族を始め、近隣諸国からの王族も参加する予定なのーーレオンもギルバードお兄様も王都に詰めっぱなしだし……、ルルドとレイモンド叔父上もサスティアル王国との調整で忙しそうだし……」


「大丈夫! 踊らなきゃ、バレないわよ!」


「お姉様…? ガーランド王国からの使者が踊らないなんてこと、叶わないですよ?」


「ーーうぅ……」


 アンジェリアの言葉にセライアはドレスのカタログに顔を埋めた。セライアはとりわけアンジェリアの姉として目立つはずである。ダンスを申し込まれたら、何と言って断るつもりだったのだろう。

 アンジェリアとセライアのやり取りにマリアナは苦笑しながら、助け船を出した。


「たしか……、ナサル殿はサスティアル王国の公爵家の方と聞いています。セライアお嬢様は、サスティアル王族でもいらっしゃるのですから、式典までダンスの練習相手をお願いしてみては?」


「! そうだわ! ナサルなら、私達の護衛として毎日屋敷内にいるのだし、聞いてみましょう!」


「え!? やっぱり踊らなきゃ、ダメ……?」


 マリアナの提案にアンジェリアは善は急げと、部屋の前で待機しているナサルに声を掛けようと席を立った。

 サスティアル王族の中でも、王位継承権のあるアンジェリアのお願いには、ナサルも断る事が難しい。セライアのダンスの練習相手は、ナサルにほぼ決まってしまった。


 すっかり、集中力の切れてしまったアンジェリアに、ドレスのデザイナーはやれやれと首を振り、アンナと細やかな打ち合わせを進める。

 式典まで日にちがないのに、ドレスが仕上がっていない。そのため、デザイナーもお針子達も神経をピリピリさせている。

 アンジェリアもアンナのセンスを高く買っており、アンナの意見のままドレスをあつらえて貰った方が安心だと考えていた。


 セライアは妹のアンジェリアが、勝手にダンスの練習相手を決めて不服そうにしていたが、誰も取り合ってくれない。

 それでも、どうにかダンスを回避したいらしく、ぶつぶつ自分の侍女に小言を言っているが、全て受け流されていた。




 ◇◇◇◇◇




「ーーふー、もう、だめ……」


「まだ、少し荒い部分もありますが、まぁ、しょうがないでしょう。今日はこれで練習を終わりましょうか」


 セライアのダンス練習を始めて約10日経った頃、ようやく1曲を通して、何とか転ばすに踊れるようになった。

 練習相手に指名されたナサルは、セライアのあんまりなダンススキルに当初顔を青くしていた。それでも、サスティアル王族の名誉のため、連日何時間も時間を取り、練習に付き合っていた。毎日、セライアの足は筋肉痛と靴擦れで悲鳴をあげていたが、悲しいかなアンジェリアの癒しの力で直ぐに治癒されていた。そのため、嫌が応でも練習をしなくてはならず、セライアの精神はクタクタだった。


「だいぶ、上達したみたいだね? ナサル、サスティアル王族の面子を守ってくれたようで感謝するーーーリア、一緒にダンスをお願いできるかな?」


 本日のセライアのダンス練習がお開きになった頃、ルルドが微笑みながら練習ホールへやって来た。

 ぼんやり、セライアのダンスを眺めていたアンジェリアに、手を差し出すと控えていた演奏者に曲を奏でるよう指示を出す。


「アンジェのダンスの相手は、ルカばかりだったから、何だか新鮮ね! ーーっ!!」


 セライアが余計な一言を口にすれば、横に控えていたマリアナが影でセライアをコツいた。セライアもハッとして、口を押さえている。今までは、レオンの正式な婚約者ではなかったので、ルカとの思い出話も聞き流していた。けれども、オルソン公爵派とベイガザード王国派との対立が明確になってからは、些細な噂も避けるべきなのだ。


 ーーーーセライアお姉様の口の軽さも問題ね……


 アンジェリアは、それでも腕ならしになればと、ルルドとダンスを始める。さすがにサスティアル王国の王子様はダンスのリードも巧みで、アンジェリアは流れるように踊り続けることが出来た。


「良かったーー、リアもダンスが苦手ならどうしようかと思ったよ」


「失礼ね! ダンスは得意なの!」


 ルルドの軽口にアンジェリアは口を尖らせて文句を言った。セライアはアンジェリアのダンスを見た後で、自分のダンスの拙さに気がついたのか、ナサルに練習の続きをせがんでいる。

 アンジェリアとルルドは、マリアナから水を貰うと喉を潤した。アンジェリアがほっとしたところで、ルルドは思案顔になり、練習ホールのベランダにアンジェリアを誘ってきた。 

 ルルドの表情に、何か王都で良くないとこが起きたのではないかと不安になり、アンジェリアはルルドと共にベランダに移った。




「ーー実は、アンジェリアに、コーション国王から個人的な面会の要請があるんだ。僕としては、ルーファス殿の安全が確立されない以上、共に時間を過ごすのは危険だと思うんだがーー」


 ベランダから見えるオルソン公爵家自慢の庭園を眺めながら、ルルドは静かに話し出した。アンジェリアは、以前から国王になったルーファスと面談の機会を欲しいと考えていたので、渡りに船の提案である。


「ルーファス様が? 何かあったのかしら……? 実は、ベイガザード王国との争いが起きる前に、私もルーファス様に1度お目通りをお願いしたいと思っていたの……だから、是非とも面会をしたいけれど」


 コーション国王と第2王子の婚約者の面会など、ベイガザード王国が黙っていないのではないかと、アンジェリアは不安に感じていた。極秘に面会の場を設けるも、ベイガザード王国派が蔓延る王都では不可能に思える。

 けれども、アンジェリアはどうしても暗殺未遂が度重なるルーファスに会いたかった。


「それは、リアの癒しの力で暗殺を成功させないということかな?」


「!!」


 アンジェリアの考えを見透かしたようなルルドの一言に、アンジェリアは誤魔化すのが遅れてしまった。

 ルルドはアンジェリアの驚いた顔を見ると、苦笑しながら、1つの提案をしてきた。


「ーーおそらく、ルーファス殿はリアの癒しの力を欲しないだろう。それよりも、リアには僕からお願いがあってね? コーション国王である彼に、ライアルトに呪詛を使った人間をカイルの立太子の儀の祝いの席に招待して貰いたいんだ」


 これまでも、ルカや、ルルドとレイモンドは呪詛の犯人を匂わせてきたが正体を、アンジェリアに教えてはくれていなかった。その度に、アンジェリアはもやっとした気持ちになっていたのだが、今回漸く教えてくれるのだろうか。


「えっ !! ーーそれは、誰なの?!」


読んで頂きありがとうございます!

まだまだ話は続きます。

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