3番目の婚約解消 28 ガーランド王国の使者
「レオン殿下も、決める時は、決めるんだねー!」
「マリーその話は、もう、止めて……」
レオンがアンジェリアの部屋から出ていってから、マリアナはずっとアンジェリアをからかい続けていた。今後、レオンとの公務が山積みなのに、どう振る舞って良いのかとアンジェリアは悩み続けている。
「もうすぐ、使者も来るでしょ? レオン殿下と一緒に顔を赤くして使者を迎えるわけだ! もてる女は大変ね」
「マリー、もう!!」
「レオン殿下も可愛いと思うよ? まぁ、ルカ様の半分くらいは」
「……」
マリアナの軽口が続き、かなりアンジェリアは辟易していた。それはもう、今ほど、アンナが早く部屋に戻って来ないかと願ったことはないくらいだ。
コンコンコン!
ーーーー助かった!! 使者の到着ね!!
「アンジェ、使者が着くみたいだ。玄関ホールへ行こう」
ーーーーなっ?! なんでレオンが来るの?!
アンジェリアの願い虚しく、部屋にガーランドからの使者の到着を知らせたのは執事ではなく、レオンの声だった。
「はーい! ただいま参ります!! ーーアンジェ、ほら、シャキッとして!」
精神的に疲れ果てているアンジェリアに代わって、マリアナがレオンに返事をする。マリアナが部屋の扉を開ければ、準備万端なレオンとルルド揃って立っていた。
ーーーーあぁ! ルルドが神様に見えるわ……!
レオンと2人で使者を出迎えなくて済むことに、アンジェリアは心から神に感謝した。
ルルドは顔がほんのり赤い2人を見て、面白くなさそうな顔をすると、レオンよりも早くアンジェリアに手を差し伸べた。
「リア、とてもきれいだね? ガーランドの使者も、リアの成長に驚くだろう」
「……ルルドは使者が誰が知っているの?」
「レイモンド叔父上は、先に玄関ホールへ向かっている。直接、使者の顔を見ると良い」
アンジェリアの質問に答える気がないルルドに、いささか不満を感じながらもアンジェリアはルルドの手を取った。レオンも続けてアンジェリアの手を取り歩き始める。
アンジェリアは、顔を赤くして黙り続けているレオンを妙に意識してしまい、早く時間が過ぎないかと強く願った。
◇◇◇◇◇
アンジェリア達が玄関ホールに到着すると、程なくしてガーランド王国の騎士達が玄関アプローチへ入ってきた。アンジェリアは騎士達が身に付けているガーランド王国の国章を見て、ひどく懐かしさを覚えた。
アンジェリアが郷愁に浸っていると、騎士達にいくらか遅れて、荷台を引いた馬車や、豪華な馬車も次々とオルソン公爵屋敷の前に並びだした。
ーーーーあれ? あの紋章って……
チラリと奥に見えた馬車の紋章が、実家のコーディル公爵家のものに見えてアンジェリアは目を凝ららした。けれども、大勢の騎士達が整列し始めたことでに、紋章どころか馬車も見えなくなってしまった。
そんな中、ガーランド王国の騎士達が一際豪華な馬車の扉の前に整列した。そして、先頭の騎士が声をあげる。
「ガーランド王国より、ギルバード=コーディル殿、並びにセライア=コーディル殿、ご到着です!!」
ーーーー!!!
「ーーえ? ギル、バードお兄様? セ、セライアお姉様?」
アンジェリアは騎士が言ったことを信じられないし、理解がついていかない。
アンジェリアの横では、すでに使者が誰かを知っていたルルドがクスクス笑っており、レオンは家族の再開に喜ぶアンジェリアの手をグッと握った。
「ーーガーランド王国、コーディル公爵家、ギルバード=コーディル、並びに、セライア=コーディルでございます。ガーランド王国の使者として参りましたーー」
豪華な馬車から出てきた兄と姉の挨拶をアンジェリアは魂が抜けたような思いで見つめていた。
アンジェリアがガーランド王国を離れてコーション国に来て7年、久しぶりと言うには長過ぎる年月を経て目にする家族にアンジェリアは胸がいっぱいだ。
「あ、兄上、姉様!!」
ギルバードの挨拶が終わるやいなや、レオンとルルドを振り切って、アンジェリアはギルバードに抱きついた。
記憶よりもがっしりとした体格になった自身の兄は、優しい笑みを浮かべてアンジェリアを抱き返してくれる。
「こら、正式な挨拶をしなくちゃダメだろう?」
「ーーっ、本当にアンジェってば、甘えん坊ね?」
相も変わらない兄姉の小言に、アンジェリアは涙を流しながら、ウンウンと頷くことしかできない。
「ーー遠路はるばる良くお越しくださいました。オルソン公爵家のダイアナと申します。本当に……、すいません、もらい泣きを……」
礼儀やマナーに厳しいオルソン公爵夫人のダイアナまでもが、アンジェリアの家族との再開に感動して声を詰まらせた。
玄関ホールでは、久しぶりの家族との再開を邪魔せぬよう、人が静かに少しずつ荷物を運んでいく。
「さぁ、玄関では落ち着かないだろう? 応接室に場所を移そうではないか」
ーーーーあなたの屋敷ではないけれどね!
ルルドが朗らかに言うと、ダイアナも追随して、ギルバードとセライアを屋敷の中へ案内した。
ルルドやレイモンドは、ギルバードとセライアにアンジェリアの手紙のやり取りのため、定期的に顔を合わせている。そのため、親族と言う気楽さもあり、特に畏まった挨拶もない。
「少しは成長したのかと思えば、アンジェはまだまだ甘えん坊ね?」
兄に会えた喜びに手をつないできたアンジェリアを、ギルバードも嬉しそうに笑った。
6年ぶりの兄と姉に、アンジェリアは喜びを隠せず、2人の間に陣取って歩いていた。アンジェリアの顔は嬉しさでにこにこ笑いっぱなしで、他国にいる緊張感などは綺麗さっぱり忘れていた。
「本当にね。ルルドの話では、アンジェは大層大人になったって聞いていたのよ? 少しは落ち着いた女性に近づいたのかと思えば……」
セライアもアンジェリアに小言をこぼしながらも、顔に笑みを浮かべて、優しい目でアンジェリアを見つめていた。
「今日は、作法なんてどうでもいいの! ねぇ、お兄様もお姉様も、しばらくはコーション国にいられるんでしょう?」
兄と姉の言葉を軽く流して、アンジェリアはねだるように滞在期間について聞いた。今までずっと会いたくても会えなかった家族なので、出来れば少しでも長く側にいてほしい。
「今回の使者の拝命は、行政局でもかなりの競争率でね? 父上にかなりの無理を通してもらってんだ。これを逃したら、アンジェにまた会える機会が遠退くと思ってね。セライアなんて、使者に同行するためにセシルとの婚約式を延期したんだよ? お陰でラークブルグ侯爵には散々文句を言われたてしまってーー」
「ギル兄様は小言が多いのよ! 兄様だって、結婚式を伸ばしたではないの!! ーーアンジェ、気にしなくて良いの。私達はコーション国の立太子の儀までいるつもりよ? 何かあれば、私が貴方を守るわ!」
ーーーー!! お兄様、お姉様……
2人とも結婚適齢期であり、相手がすでに決まっている中で、各々予定を延期してまでアンジェリアのためにやって来たのだ。使者にアンジェリアの兄姉を遣わすなんて、父であるコーディル公爵も周りへの説得にかなり苦労したに違いない。
それに、アンジェリアは利害関係なくただ家族として、単純に守ってくれると言うセライアの言葉がとても嬉しかった。
「ーーっ! お姉様!! 」
屋敷の廊下で嬉しさのあまり、泣きながらセライアに抱きつけば、セライアは優しく背中をポンポンとさすってくれた。
「ほら、リア、もうすぐ応接室だ。2人とも長旅で疲れているんだから、休ませてあげよう?」
ルルドもいつものからかうような口調をおさえ気味に、アンジェリアを優しく促してくれる。
ーーーー? 長旅???
「ーーねぇ、ルルドなら2人を転移出来たんじゃ……」
アンジェリアの兄と姉は、もちろんサスティアル王族の外戚である。ルルドの転移魔法でコーション国まで来ても良かったのでは、とアンジェリアは不思議に思った。
「ーーアンジェ、使者にはガーランド王国を代表している建前が重要なんだよ? 長旅はその代償さ」
アンジェリアの疑問にギルバードは苦笑して答えた。
「さぁ、アンジェ、屋敷を案内してくださいな?」
涙が落ち着いたアンジェリアを励ますようにセライアが腕を支えてくれる。それたけで、アンジェリアはとても心が満たされるような気がした。
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まだまだ話は続きます。
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