3番目の婚約解消 24 エステリア王国からの手紙
読み進める程に、浮かんでは消えていく不思議な手紙にアンジェリアは不安を覚えた。手紙に書いている内容が後に残らない以上、口伝でしか手紙の内容を相談できない。
しかも、差出人は5年前に即位したエステリア国王なのだ。アンジェリアは、緊張しながらも必死に内容を確認する。
ーーーー見落とさないよう、きちんと、覚えて置かなくては……
『アンジェリア=コーディル公爵令嬢殿
急な手紙をお許しください。
我が名は、ガイルデラ=エステリアと申します。
前コーション国王の国際関係をも巻き込む謀事、お詫びのしようもございません。
エステリア国ルーデン公爵家は、エステリア国建国以来、我が国を支えてくれる臣下でございます。
ルーデン公爵家は、古くはフォーガス王家に繋がる家系でございます。現在でも、僅かながら、魔力を有しております。連絡の折りは、何なりとアマリア=ルーデンを扱いくださいませーーーー』
エステリア国王との連絡を取る日がやってくるなんて、アンジェリアは想像もできなかったが、それ以上にアマリアに魔力があることに目を張った。
「アマリアは、フォーガス国に連なる方だったのね? 手紙にそう書いてある……」
「はい、エステリア国の王族と我が一門にだけ、微力ながら魔力が残っております」
思いがけないカミングアウトにアンジェリアは驚いたが、何かお願いを依頼するのだから、秘密を暴露したのかもと、気を引き締めた。
『ーーーー
過去5年間で、ライアルト=ガーランド第一王子殿下への暗殺を企てた、前国王並びに過激派の貴族への制裁を致しました。
ガーランド王国へは、内密ではありますが、謝罪と婚約者だった王女の処分を受け入れて頂いておりますーーーー』
コーション国の前国王の暗殺は、エステリア国も毒草提供で絡んでいた。ベイガザード王国の力により、エステリア国やベイガザード王国の関与は明かされていない。にもかかわらず、エステリア国は、関与した人間を正統に処罰していたようだった。
ーーーー少しは、信頼してほしい、ということ?
5年前の国王暗殺と、エステリア国の公女との関係が良く理解できず、疑問にもちながらもアンジェリアは手紙を読み進めた。
『ーーーー
今、エステリア国はガーランド王国からの信頼が地に落ち、周辺国もベイガザード王国につく等、境地に陥っております。自業自得とは言え、国民の命を預かる以上、エステリア国王として何とか国の存続を模索しております。
この国難の中、コーション国オルソン公爵殿から内々に、第2王子レオン殿下との縁談を頂きました。我が国としては、藁にもすがる思いでございます。
しかし、レオン殿下は、すでにコーディル公爵令嬢殿との婚約のお話が上がっております。
先にも述べたように、我が国はガーランド王国の信頼をすでに失墜させております。そして、重ねての不興を避けたい。
失礼ながら、コーディル公爵令嬢殿がレオン殿下との婚約を望まれていないとの話を耳にいたしました。
もしも、その噂が真実であり、婚約を望まれないのなら、コーディル公爵令嬢殿から、レオン殿下へ婚約解消の意志を示しては頂けませぬかーーーー』
ーーーーこれ、私1人の一存では判断できないやつ……
「……、内容を母国に相談しても良いのでしょうか?」
手紙を読み終わり、アンジェリアがアマリアに視線を戻した。
「……、はい、もちろん。エステリア国はガーランド王国との争いを求めていません。その旨もお伝え頂ければと……」
アマリアはアンジェリアの言葉を予想していたのか、ガーランド王国への連絡は止めなかった。
アンジェリアは私室に戻り、マリアナと2人でゆっくりとした時間を過ごしていた。
アンジェリアは、アマリアとのティータイムでのやり取りを静かに考えたかったので、マリアナ以外を部屋から締め出していた。アンナやロイターには、適当な買い物をお願いして、屋敷に夜まで戻らないようにしてある。
ーーーーやっぱり、ガーランド王国とのやり取りにアンナやロイター、ユーグを使うのは気が引ける……
ガーランド王国からの輿入れの際に、国から遣わされた人間は、いまやエステリア国にかなりの敵対心を持っていた。
ーーーー主のライアルト殿下に、毒を盛ったり、エステリア国から公女がやって来たりしたのだから、しょうがないんだろうけれど……
片寄った視野で、物事を複雑にさせたくはないと考えたアンジェリアは、ルルドやレイモンドにも頼みづらい。2人とも最近はコーション国に良い印象を持っていないのだ。
「ーー1番、公平そうなのは、シャルやシャーナ公爵よね……」
「ふふ? やっぱり、私が頼りになるようだね?」
「ーーっ!? シャル!!」
突然の気配にアンジェリアが驚いて後ろを振り返れば、気まずそうなルルドと自信満々な表情のアランが立っていた。
「ナサルから、エステリア国側が魔力を使った形跡があると報告があってね? 心配になって様子を見に来たんだ。この魔力の残留はーー、手紙かな?」
アランはアンジェリアの頭を軽く撫でただけで、魔力を有した手紙を言い当てた。
ーーーーやっぱり、シャルの力は飛び抜けているのね……
「ーー、さっき、エステリア国のアマリア様とティータイムを過ごしたの。それでーー」
アンジェリアは、エステリア国王の手紙に書かれていたことをアランに伝えた。
ルルドは話を進めるにつれて目が据わっていったが、アランは怒りもせず、ふむふむと頷いていた。
「なるほど、エステリア国王の気持ちはわかったよ。かの国王は、私らと同じくらいの年齢で、まだ若い。国を守る重責で大変なのだろうね」
「しかし、兄上、ガーランド王国に喧嘩を振っておいて、今度は、リアに助けてくれとは!!」
アランの言葉を受けて、ルルドは納得がいかないとばかりに抗議の声をあげた。
「まぁまぁ、リアが怒るならまだしも、ルルド怒るのは、ねぇ? そもそも、全てはベイガザード王国の行き過ぎた軍国化だ。それを今まで放置した大陸全ての国に責があると思うよ?」
アランはおっとり話ながらも、有無を言わせないオーラをまとっている。
「ーー私は、ガーランド王国にエステリア国の意向を知らせたいの。確かに、ライアルト殿下の件は2国間に亀裂をもたらしたわ。でも、対ベイガザード王国を考えた時に、ガーランド王国だけ知らぬ顔はできない。ベイガザード王国がいつ、狙いをガーランド王国に向けるのかもわからないんだもの」
「ガーランドとエステリアが繋がれば、一層、ベイガザード王国との衝突が早まるんじゃないか? もしかしたら、オルソン公爵領にもアンジェリアを狙って、暗殺者が入ってくるかもしれない」
アンジェリアが意見を述べると、ルルドは少し怖い表情で答えた。
「まぁまぁ、リアの言うとおり、ガーランド王国には知らせぬ訳にもいかない。エステリア国の手紙の件は、私からガーランド国王に伝えようーーどのみちベイガザード王国との衝突は避けられない。コーション国の内部にベイガザード王国がこれ以上蔓延らないためにも、そろそろ小僧……失敬、レオンに国王を目指してもらおうではないか」
アランはそう言うと、アンジェリアからエステリア国からの手紙を受け取った。
ーーーーもう、文字は消えているのにどうしようと言うの?
アンジェリアが不思議そうに、アランの手の中にある手紙を見ていると、ふわり風が吹いた。
「ー!? も、文字が!!」
「これでも、サスティアル王国の王子だからね? これくらいは簡単さ」
アンジェリアの目の前で、消えていたはずの文字がアランの魔力で次々と浮かび上がり、手紙は文字で埋め尽くされた。
「さて、私は一旦、国に戻ろう。ルルド、本日これから、レイモンド叔父上と交互にリアの警護につくように。目を緩めるな」
アランはルルドにきつくそう言うと、すっと姿を消した。
読んで頂きありがとうございます!
まだまだ話は続きます。
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