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3番目の婚約者解消 22 エステリアの公女

 オルソン公爵家の屋敷の正面に、エステリア国からの馬車がずらっと並んだ。コーション国側とエステリア国側からの護衛の騎士達も、どこが最後尾か分からないくらいに大勢いる。


 ーーーー私のコーション国の輿入れよりも、遥かに多いんじゃない?


 アンジェリアはあまりの人の多さに、顔を引きつらせながら、公女が馬車から降りるのを待った。





「ーー早く、降りてこれば良いものを……。引きずり降ろすか?」


「ーー叔父上にしては、妙案ですね?」


 ーーーーいやいやいや!! 即刻、戦争になりかねないから!!


 アンジェリアも感じていたが、エステリア国の公女はなかなか馬車から降りてこない。レイモンドとルルドも、痺れを切らして物騒な言葉を言い放つ始末だ。

 玄関ホールで待機していた人間は、そんなサスティアル王族の2人から放たれる冷気に、生きた心地がしない。皆、身を固くしてうつむき加減になっている。


 ーーーーレオンはどこなのよ? 早く、公女の何とか様を紹介してよ!!


 アンジェリアが、これ以上場が持たないとイライラしながら、公女の登場を待っていると、エステリア国からついてきたと見られる護衛騎士が玄関ホールへ入ってきた。


「エステリア国ルーデン公爵令嬢、アマリア=ルーデン様。体調不良のため下車が遅れております。何卒、今しばらくお待ちくださいませ!」


「……、体調不良?」


「まぁ、気配からして、馬車酔いだろうな……」


「そうだとしても、僕らを待たせるなんて、良い度胸だよ」


 ーーーー2人とも、公女の体調不良分かっていたの?


 アンジェリアは両サイドのサスティアル王族に疑いの目を向けると、ルルドはどうかしたのかと、アンジェリアを不思議そうに見つめ返してきた。


 ーーーー出た……、サスティアル王族独特の、サスティアル至上主義……


 エステリア国とコーション国の間には山脈が続き、国境の峠道も険しいと聞く。エステリア国の公女の馬車は大きく豪華ではあるが、峠道には適していなかったのだろう。


「レオンは、馬車で公女の介抱でもしてるのかしら?」


「気になる?」


「いや、全然」


 降りて来ない公女に、手持ち無沙汰で発したアンジェリアの言葉をルルドはからかう。馬車には屋敷の医師がすでに乗り込んでいるので、もうしばらくすれば出てくるだろう。


「ーーふふ、レオンのお姫様抱っこで出てきたりして」


「それでは、礼儀を欠くだろう?」


 アンジェリアの言葉にレイモンドが不機嫌そうに返すが、ガーランド王国側への先制攻撃とすればレオンとの仲を見せつけるのは効果的だ。


 ーーーー私は痛くも痒くもないけれど、ね……


 ガーランド王国は、エステリア国令嬢とレオンの仲を歓迎していない。

 エステリア国の姫が、ガーランド王国のライアルト王子に毒を盛った犯人なのだから、ライアルト王子の治癒に必要な魔法石を握るコーション国とエステリア国が手を結ぶのは避けたいのだろう。

 レオンはそれを理解しているだろうから、今ここでどういう態度を取るのか、ガーランド王国から仕えているアンナ達は固唾をのんで見守っていた。


「「エステリア国、アマリア=ルーデン様のご到着でございます!!」」


 ーーーーいやいやいや、さっきから待ってるし……


 いよいよ公女様の登場と、玄関ホールの人間が最高潮の期待して、馬車の扉を見つめた。その緊張感の中、まず馬車から最初に現れたのが、公女を迎えに行ったレオン。アンジェリアを初めとするサスティアル王族が3人、玄関で出迎えているのを見て、レオンはひどく顔を強ばらせた。


 ーーーーまるで、浮気がバレた人間のようだわ


 アンジェリアがレオンの表情に吹き出しそうになりながら、どうにか澄まし顔を保っていると、馬車のステップがガタガタと音を立てた。次に、馬車から降りてきたのは、医師の女性に手を借りた貴賓と思われる女性。お待ちかねのアマリア=ルーデンに違いない。


「ーー、無難ね……」


「レオン小僧にしては賢い対応では?」


 自分では手を貸さず、医者の手を使って馬車から公女を降ろさせたレオンに、レイモンドが馬鹿にしたように笑った。


 ーーーーさぁ、この場合、誰から挨拶するのが正解なのかしら?


 公女がふらふらと立ち止まり、玄関ホールに一同が集まった。一段落高い場所にアンジェリア達がいるので、視線は自然とアンジェリア達に集まる。

 キラキラとしたサスティアル王族特有の正装に、王位継承権を示すティアラまで着けたアンジェリア達は、この場を支配している貫禄がある。


 ーーーー私から挨拶でもしたら、後からお説教されそう……


 こそっと、レイモンドを盗み見ると、厳つい顔でエステリア国からの一団を睨み付けていた。


 ーーーー体調不良の人間を見る視線ではないわね……


 アンジェリアは、体調不良の中、レイモンドの視線に晒されるエステリアの公女が気の毒にさえ思えた。


「ーーレ、レイモンド殿、ルルド殿、いらして、いたのでございますね。お久しぶりでございます。ア、アンジェリア殿も、こちらにまで、ご足労頂き誠にありがとうございますーーエステリア国からアマリア=ルーデン殿をしばらくオルソン公爵家に招きましたので、ご報告させて頂きますーー」


 重い空気の中、ようやく口を開いたのは公女を国境まで迎えに行ったレオン。どもりながらも、無難な挨拶を述べたようで、レイモンドが急に怒り出すこともないようだ。


「ふむ、ご苦労」


 けれども、レイモンドは一言、そう言ったきり、押し黙った。エステリア国の一団に目を向ければ、アンジェリアの視線を感じた女官らしき人物がビクッと震えた。


 ーーーー地味に、傷つくわね……


「あ、あの! エステリア国からま、参りました、ルーデン公爵家、長女アマリア=ルーデンと申します。見苦しい姿をお見せしまして、た、大変、も、申し訳ございません!」


 ふらふらになりながらも、公女が何とか挨拶で場を凌げば、玄関ホールは少しだけ緊張感が和らいだように感じた。


「ーー、サスティアル王族の皆様、恐れながら発言を許可頂いても?ーーこちらのアマリア殿、到着すぐで、ご体調が優れないようです。ここは1度休んで頂き、後程、挨拶に参らせて頂ければと……」


 凄むレイモンドの視線に、びくびくしながらも、オルソン公爵夫人ダイアナが何とか、初対面を終わらせようと動いた。

 アンジェリアもこれ以上、この場を引き伸ばせば、か弱い女性を痛ぶる悪女のように見えるのではないかと懸念していたので、渡りに船の申し出だった。


「もちろんです、ダイアナ様。ーーでは、皆様失礼させて頂きます」


 ーーちっ!


 アンジェリアが出来る限りの穏やかな笑みで、その場を後にしようとすると、面白く無さそうに、レイモンドが舌打ちした。ルルドは苦笑しながらも、アンジェリアをスマートにエスコートしてくれるらしい。王子様オーラをキラキラさせて、玄関ホールに微笑むと、アンジェリアと共に部屋へ戻ろうと歩き出した。


 ーーーー魅了の魔法でも使ってるみたい。まぁ、魅了とか、美とかは、こちらの般若顔の叔父様がお得意なのだけれど……


 今こそ、お得意のキラースマイルを出すところではないかとアンジェリアは思うのだが、レイモンドは不機嫌さを隠そうともしない。もはや、加護は本当に武力なのではないかと疑ってしまうほどだ。


 ーーーーお陰で、サスティアル王族の威厳とやらは、半端なく行き渡ったけれど、ね


 やれやれと思いつつ、アンジェリアが部屋に戻っていると、静まり返った玄関ホールからバタバタと追いかけてくる足音が聞こえた。


「ーー! お願いだ! 待って! アンジェ!!」


 ーーーーへ? エステリア国の公女のエスコートはどうした?!


 レオンが引き留める側近を振り切って、階段を駆け上がって行きも絶え絶えに、アンジェリアを急いで追ってきた。

読んで頂きありがとうございます!

まだまだ話は続きます。

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