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3番目の婚約解消⑱ レオンの後悔

 アンジェリアの帰還の知らせに、一番乗りで部屋に駆け込んで来たのは、コーション国第2王子のレオンだった。レオンもマリアナ達と同じく一晩中、アンジェリアを捜索していた。そのため、ぼろぼろの様子のままに、一目アンジェリアの無事を確認しようと急いでやって来たのだ。


「アンジェ!! 戻ってきたんだね!! 本当に、本当に! 心配した……」


 レオンが元気そうなアンジェリアを確認すると、その場にへなへなと膝をついた。


「レ、レオン! 心配させてごめんね? ほら、私は大丈夫だから…」


 がっくりと頭を落としたままのレオンに、アンジェリアも慌てしゃがみこみ、レオンを起こそうと支える。

 そんな2人の様子を、ルルドもレイモンドも冷めた視線で眺めていた。


「貴殿は、()()アンジェリアの婚約者のはずだな? 何故に我が姪が、側妃の小娘に暴言を吐かれるまで、処置できなかったんだ? 貴殿は妹の管理もできないのか?」


「名前だけの婚約者だから、レオン殿は何も管理などできないのでしょうね。今回のことで、オルソン公爵領と言えど、リアに悪意をもつ者が出入りしていたことが露呈してしまいましたね。今やリアの周りは安全ではないと」


 レイモンドがキャラが変わったかのような高圧的な態度でレオンに臨めば、追い討ちをかけるようにルルドが糾弾した。


 すっかり、重くなった部屋の状況に助けを求めてアンジェリアはきよろきょろしたが、マリアナとアンナはまだ部屋に戻らない。

 しょうがないから、ナサルが止めなさい! と視線を投げ掛けてもナサルは見て見ぬ振りをした。


 ーーーーみんなだって、私の言うこと、聞かないじゃないの!!


「もう、全てをレオンのせいにしてもしょうがないじゃない? それに、今後はレイ叔父様も様子を見てくれるのよね? これ以上、不快なことは起きないわよ」


「叔父上? ということは、ガーランド王国の? それとも、まさかサスティアル王国の…?」


 アンジェリアのレイモンドとのやり取りで、ようやく初見の人間がいることに気がついたレオンは驚いて、レイモンドの顔を見た。


「ーーあ、あの、サスティアル王国の方の…親族なの。私の母上の弟君で、サスティアル王国の公爵の方よ…」


「ーーえ、では、王弟殿下?!」


 アンジェリアの紹介でレオンは目を丸くしてレイモンドを見つめ、慌てて頭を下げた。


「コーション国、第2王子レオンと申しまーー」


「挨拶は、不要だ。貴様のことは、アンジェリアに聞いておる。今は、アンジェリアの安全面の事を話しておる!!」


 レオンがサスティアル国王の王弟と分かり、驚きながら自己紹介したが、レイモンドが途中で言葉を遮ってしまった。さっきまでのふざけた様子は全くなく、サスティアル王国の暴れん坊の異名のままに、レイモンドは恐ろしい形相でレオンを凄んだ。


「ーーつ! も、も、申し訳ありません!!」


 一方的に、攻められ誰も味方してくれないレオンを見てるのはとても忍びない。頭を下げるレオンの肩にアンジェリアが手を伸ばしフォローをすると、ようやくレオンが1人でシャキッと立ち上がった。


「ーーっ! アンジェ本当に、申し訳なかった! 第2王子としての自覚も、この国の新たな局面についても考えが足りなかった。本当に勉強不足というか、甘ちゃんだったと痛感したよ」


「レオン……、そんなに落ち込まないで。それにこの国の新たな局面て?」


 必死に謝るレオンの言葉に引っ掛かりを覚えたアンジェリアは、ルルド達も何かアンジェリアに隠し事をしているのではないかと感じた。


「なるほど、貴殿は本当に頭が悪いようだ。隠し事すら出来ないと見える」


「ーーっ!! 閣下、重ね重ね申し訳ありません!!」


 レイモンドの冷たくバカにした言葉に、レオンは腰を90°に曲げて謝罪した。

 そう言えば、昨日のルルドの来訪はいつもより早めだったような気もしてくる。


「謝るのは僕らではなく、アンジェリアだと思うけどね?」


「ルルド? 何が知ってるの?」


 含みのあるレイモンドやルルドの言葉にアンジェリアは嫌な予感を感じた。オルソン公爵領内は何の変化も感じなかったが、王都で何か起きたのだろうかと心配になる。


「ルーファス国王陛下が、視察の帰りに何者かに襲われた。命に別状はなかったが、深傷を負ったそうだ」


「ーーえ……ルルド、本当なの?」


 まさか国王陛下暗殺を図るとはアンジェリアは予想もしていなく、驚きのあまり言葉を失った。


 ーーーーターチル国王も、暗殺されたのに、今度はルーファス陛下まで、狙われるなんて!!


 前コーション国王の暗殺事件では、側妃カルラが全ての責を負う形で闇から闇へ葬り去られていた。表立って、エステリア国やベイガザード王国の関与は立証不十分になったのだ。


「そして、ここに来て、カイル殿下を王太子に押す声が高まってきている。おそらく、ベイガザード王国側の貴族が、ルーファス国王陛下を排除し、意のままに操れるカイル殿下を国王に担ぎ上げたいのだろう」


「まぁ、国のトップを代えるのが、国を乗っ取るには手っ取り早いしな」


 ルルドとレイモンドは、まるで他人事のようにうんうんと頷きあっている。


 ーーーーちょっと! 納得してどうするの?!


「ルーファス陛下の体調は? それに襲撃犯は捕まったの?」


 サスティアル王族の2人はコーション国に良いイメージがない。諦めてアンジェリアはレオンにルーファスの容態を訊ねた。息子であるレオンならば正確な詳細を把握しているはずである。


「父上の怪我は幸運にも急所を外れていたんだ。そして、襲撃犯はいまだ捕まっていない………。そもそも、貴族の中にベイガザード王国寄りな者が多すぎて、捕まらないどころか、些細な証拠すら掴めないらしい。僕は、こんなことが起こるなんて、予想もしていなかった……」


「能天気な次男坊だな?」


 ーーーーお前達もな!!


 アンジェリアは思わず、きっぃ!! とレイモンドを睨み付けた。反省して落ち込んでいる人間に追い討ちをかけるなど酷すぎる。まして、ルルドもレイモンドも次男坊。何の因果か、アンジェリアの部屋には3人の王族の次男坊が揃っていた。


「ルーファス陛下は、今回の事をなんて?」


「のらりくらりかわしていた王太子の選定を進めるって。でも、僕は王都から離れてオルソン公爵家で世話になっているし、関係ないものだと……」


 ーーーー関係ない、はずないでしょうに!!


 アンジェリアの質問に小声でボソボソと答えるレオンは、第2王子としては、かなり頼りなく目にうつる。

 まして、オルソン公爵家の現公爵夫人は、元王女のダイアナなのである。王太子の後ろ楯としては、かなりの有力者だ。自分と関係ないと思っていることにアンジェリアは驚いた。


「……頭の中、空っぽなのか……?」


「……」


 レイモンドの溜め息まじりの呟きに、アンジェリアは否定することができない。

 王都でルーファス陛下暗殺未遂が起きた以上、第1王子カイルの息のかかった者が、オルソン公爵家にいては、この屋敷も安全とは言い難い。

 そこに来て、第1、第2王子達の実の妹であるルーシーのあの発言である。第1王子寄りの人間がオルソン公爵家に潜んでいると考えるべきだ。


 ーーーーだから、わざわざ護衛にレイ叔父様を私につけることにしたのね……


 サスティアル王国の暴れん坊として名高いレイモンド。その彼がアンジェリアの周りでうろちょろすれば、そうそう簡単に手を出せないだろう。


 今後、ベイガザード王国派の貴族が、レオンの命を狙うのか、アンジェリアの命を狙うのか分かったものではないのだから。

読んで頂きありがとうございます!

まだまだ話は続きます。

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