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3番目の婚約解消⑰ レイモンドの自己紹介

いつもありがとうございます!


 アンジェリアがコーション国に戻ると、オルソン公爵屋敷内のアンジェリアの私室では、天変地異でも起きたような騒ぎになった。


「あぁ、ア、アンジェリア様…、どこに行ってたんですかぁ~!!」


 涙でぐちょぐちょの顔で出迎えたのは、アンジェリアの側で、長年仕えるマリアナだった。くたくたの侍女服から見ても、寝ずにアンジェリアの捜索に加わっていたらしい。きちんと睡眠を取って私室に転移してきたアンジェリアに取っては、少々後ろめたい。


「アンジェリア様、ご無事で何よりでございます。昨日はお側で控えておきながら、咄嗟に対応できず、誠に申し訳ありません」


 真面目に謝意を伝えてきたのは、ガーランド王国から連れてきた騎士のロイター、その横ではマリアナと同じように顔をしわくちゃにしたアンナが何度も頷いていた。


「ユーグ殿は今は屋敷の外を捜索しております。アンジェリア様がお戻りと知れば喜びましょう」


 付け加えるようにナサルが言うと、ルルドとレイモンドに向き合い挨拶を交わした。


「お久しぶりでございます、レイモンド閣下。ドゥニエル公爵家次男ナサルでございます」


「ほんとに、久しぶり! いやぁ、大きくなったね~! そうそう、私も、ルルドと同じようにアンジェリアの様子を確認する係りになったのさ。だから、みんなもよろしく」


 真面目に挨拶を述べるナサルと、間延びした挨拶を返すレイモンドに、オルソン公爵家に残されていた面々は微妙な表情を浮かべた。

 そんなレイモンドの態度にルルドは諦めたように頭を軽く振ると、レイモンドの挨拶に足りない部分を補足する。


「これから、サスティアル国王である父上の命令で、我が叔父であるレイモンド=シューベルト=サスティアル公爵も、ちょくちょくアンジェリアの様子を見に来るとこになったんだ。今回のリアの待遇の悪さを象徴する出来事には、国王陛下もお怒りでね。王弟であるレイモンド閣下が表向きは視察、裏はいざって時の護衛代わりに就くとこになったんだ」


 ーーーールルドの説明もかなり大雑把ね……


「あの……、レ、レイモンド閣下っと言えば、サーシャ奥様の、弟殿下の? あの、レ、レイモンド様で、ございますか…?」


 レイモンドの自己紹介で、涙が引っ込んだマリアナは今度は顔を青ざめてアンジェリアに助けを求めるように尋ねてきた。


 ーーーーあ…、マリアナは、サスティアル王国の暴れん坊って思い出しちゃった?


 幼い時からアンジェリアに仕えるマリアナは、コーディル公爵夫人から、弟殿下の話を聞いたのを思い出したらしい。

 マリアナのガタガタと震える様子に、アンナもロイターもレイモンドの過去の黒い武勇伝を思い出したようで、アンジェリアに視線を投げてハラハラしている。


「ーーマリー、みんなも大丈夫よ。レイモンド叔父上は私の護衛として、様子を見てくれるだけだから。ね、叔父上?」


 なんとかみんなの不安を取り除こうと、アンジェリアは明るくレイモンドに声をかける。アンジェリアの不興を買うということは、兄であるサスティアル国王に叱られるため、レイモンドにとっても得策ではない。周りの自分への恐怖心を感じたレイモンドも、アンジェリアの話に乗り、軽い調子で答えた。


「そうそう! 時々ふらーっと来て、様子見たらサスティアルに帰るから、そんなに構えなくて良いからねーー。そうだ、アンジェリア、レイモンドじゃなくてレイって呼んでよ。ほら、親密さがあった方が良いと思うんだ!」


 レイモンドはにっこり微笑みながら首を傾げて、『ねっ?』なんて同意をアンジェリアに求めてきた。


 ーーーーこの人、お母様の3歳年下なのよね……


 確かに見た目はルルドより少しだけ歳上の青年だが、実際はかなり歳上で、正真正銘、アンジェリアの叔父である。

 可愛く首を傾げても、実際の年齢を知れば違和感でしかない。


「ーー、レイ様、そうですね。コーション国側にも我々とサスティアル王族との親密さをアピールするのは良いかもしれません。皆も、レイ様をよろしくお願いしますね」


 アンジェリアがマリアナ達にそう告げると、3人は神妙な顔をして頷いた。ナサルはそんな3人の様子に苦笑している。

 アンジェリアがレイモンドの紹介を終えようとすると、間延びした声でレイモンドが自身の呼び方に追加注文した。


「アンジェリアは堅いねー。堅すぎるよー。レイだけでも、良いんだって」


 自分の指を唇に当て、『ん?』なんて、首を傾げたレイモンドに冷たい目で様子を見ていたルルドが、とうとう雷を落とした。


「いい加減にしてください! どこに、自分の叔父上を呼び捨てにする姪がおりますか? 叔父上、冗談も程々にーーリア、建前だけではなく、我々はリアのことを大切に思っている。忘れないようにね! ーーほんと、もう、叔父上、若い子ぶって、ぶりっ子はお止めください! 気持ち悪い!」


 ルルドに注意されても、笑いながら、くねくねぶりっ子ぶるレイモンドに、マリアナ達もようやく肩の力を抜いて、ほんの少しだけ笑った。


 ーーーーもしかしたら、この人、わざとふざけたの?


 アンジェリアが、疑いの目でレイモンドを観察すると、それに気が付いたレイモンドがウインクを返してきた。


 ーーーーうわぁ、叔父さんのウインクは痛い!!


 アンジェリアは頬が強張って、引くつくのを感じた。何やら寒気もするような気がする。あまり、レイモンドには深く関わらないでおこうとアンジェリアは思った。

 ひとしきり、ルルドとレイモンドのやり取りに付き合った後、マリアナが静かにアンジェリアに訊ねた。


「アンジェリア様は今までサスティアル王国にいらっしゃったのですか? それに、昨日から、ルルド殿下と回られて、お疲れではありませんか?」


 明らかにアンジェリアの心配している様子のマリアナに、アンナとロイターもはっとした。

 オルソン公爵家に残されていたメンバーは、サスティアル王国からアンジェリアの存在の無事を伝えられてはいたが、その裏付けとなる核心的な内容は知らされていなかった。だから、アンジェリアがオルソン公爵領内の何処かで困ったことになっていないか、大捜索を続けることになったのだ。

 サスティアル王国としては、オルソン公爵家にお灸を据えるつもりだったのだろうが、仕える人間には昨日からかなりの負担に晒されていた。


 ーーーーこれ、正直にルカの元に行ってたって、伝えても良いのかしら?


 アンジェリアがなんて答えれば良いのか思案し、ルルドの顔を伺うと、否定を表すようにルルドは首を振った。


「リアの昨日から今に至る所在については、極秘事項でね。申し訳ないが教えることはできないーー叔父上もふざけて教えたりはせぬように」


「えー! つまんなーい!」


 ルルドがレイモンドに釘を刺すと、それ以上は質問をしてはいけないと分かったのかマリアナ達は追求を止めた。そして、アンジェリアの帰還を伝えるためアンナはオルソン公爵に伝令に行き、マリアナはルルドとレイモンドのためにお茶を準備するため部屋を後にした。

読んで頂きありがとうございます!

まだまだ話は続きます。

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