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3番目の婚約解消⑭ ルカの告白

 嵐のように過ぎ去ったフォーガス国王夫妻との面会は、アンジェリアに精神的にダメージを強く受けさせた。アンジェリアは、面会の後もしばらく魂が抜けたようにぼーっとしていた。

 ルカはそんなアンジェリアを微笑ましく見つめ、アンジェリアが気が付かないことを良いことに、肩を抱いて上機嫌にお茶を飲んでいる。

 リサは、そんなルカの様子を化け物でも見るような眼差しで凝視しているが、ルカは気にもせずアンジェリアの髪にも手を伸ばした。


 ーーーーあれは、国王夫妻に、気に入ってもらえたと、言うことなのかしら……


 アンジェリアが1人うーん、うーんと悩んでいると、耳元にルカの息がかかった。そこでようやくアンジェリアはルカが自分にぴったりと張り付いていることに気づいた。


「!? ちょっ、ちょっと、ルカ、近いよ!!」


「あはは! ようやく気が付いたね? 僕を放っておいて、考え事に夢中になるんて、ひどいよ?」


 ルカは上機嫌で笑い飛ばすと、側に控えていたグレイとリサに退出を指示した。


 ーーーーへ? 2人とも出ていっちゃうの?!


 グレイはルカの指示に素直に従い、すたすたと部屋を出ていき、リサは何度もアンジェリアに視線を寄越しながら心配そうにドアに手をかけた。


「ーー、何かございましたら、扉の直ぐ近くに控えております。何なりとお呼びくださいませ」


 リサはそうアンジェリアに向かって挨拶すると、深々と礼をしてから、ルカをチラッと睨み付けて出ていった。


「ーー、リサはアンジェの良い侍女になりそうだね? もしも、アンジェの不興を買ったら、僕までリサに殺られそうだよ」


 ルカはリサの態度に怒るわけでもなく笑顔だ。


「あの、何で人払いをしたの? 何か大切な話?」


 まさか、いちゃいちゃするために人払いをしたのではないだろうと、アンジェリアはルカの目をじっとり見つめた。


「アンジェまで僕をそんな目で見ないでくれる? 僕はただアンジェとゆっくり過ごしたかっただけだよ?」


 疑いの視線を寄越すアンジェリアに、ルカは苦笑いをして溜め息を1つ漏らすと、真面目な顔をしてこたえた。


「ーー少しだけ昔話を聞いてくれる?ーーあれから…、アンジェとの婚約解消になってからのことーーアンジェが、コーションに行くと決まって。ガーランドで別れてから、実は、僕は直ぐにでも騎士団に入団しようと決意したんだ。それで、コーションにアンジェの護衛として追いかけようと思っていたーー」


「ーーえ!? 護衛??」


 ルカの突然始まった静かな告白にアンジェリアは驚き、何と返せば良いのか分からない。


「アンジェの護衛となれば、隙を見てコーションから逃げれると思ったんだーーガキの馬鹿みたいな浅はかな考えだろ?ーーーーそうこうしている内に前フォーガス国王の容態が悪化して。フォーガスに見舞いに来たんだ。そして、フォーガスに来ていた、アラン殿下に初めて会った」


 初めて聞く話の内容にアンジェリアはひどく驚いた。護衛になろうとしていたことも、前フォーガス国王の見舞いでアランに出会ったことも初めて聞く話だ。と同時に、ルカとはアンジェリアがガーランド王国を離れてから連絡を取っていなかったことを痛感し、2人の間にある距離を痛切に感じた。


「シャル…じゃなかった、アランに迷惑かけられなかった?」


 アンジェリアが場の重くなった雰囲気を和らげようと、冗談めかしてルカに聞いた。ルカはアンジェリアがアランのことを"シャル"と呼んだことに、2人の親密さを感じて、なんとも言えない焦燥感に駆られた。ルカは、少しだけ目をきつく閉じると、諦めたように笑いながら話を続けた。


「僕の時間が止まらないように、アンジェの時間も着実に進んでいるんだね…ーー、アラン殿下にはよくして頂いているよ。前国王が体調を崩された時に、フォーガス国の後継者を決める必要があってね、その会議に立ち会って頂いたんだ。そこで、僕のフォーガス国内での地位を確約してくれたようなものだ…」


「そう、だったの……?」


 ーーーーあのふざけたシャルが?!


 真剣な顔で話を進めるルカには悪いが、サスティアル王国の人間ではないルカにアランが親切にするなどアンジェリアには想像がつかなかった。


「ーーアンジェ、信じていないでしょ?ーーあの御方は僕のためではなく、アンジェのために未来の選択肢を増やしたんだと思う」


「未来の選択肢?」


 アンジェリアはルカに心の中を覗かれたような気がして恥ずかしさを覚えたが、ルカの話の内容に検討もつかず首をひねった。


「サスティアル国王は、アンジェを国外に出す結論を下したガーランド王国を良く思っていないだろう。今後、時が経ちアンジェがコーション国から離すことが出来るようになったら、サスティアル王国か、フォーガス国かの選択をさせるのだと思う」


「ーーガーランド王国には戻れないの…?」


 ルカの話によると、ベイガザード王国とエステリア国との軋轢が消えれてもアンジェリアはガーランド王国に戻れない。それでは、ガーランド王国の家族に会えなくなってしまうと、アンジェリアは戸惑った。


「説明が悪かった……、すまない。アンジェが、一生戻れないと言うのではないよ? おそらく、アンジェの伴侶は、サスティアル王国からかフォーガス国からの2択なのではないか、ということさ」


 その1択に選ばれたことに感謝しなくてはーーとルカは微笑むとアンジェリアの髪を優しく撫でた。


「出来れば、僕の元に来てほしいと願っているよ。その為にも、僕はフォーガス国の後継者を目指そうと思う。アンジェを2度と手離さなくても良いだけの力を持つつもりだ。もちろん、アンジェが幸せに過ごせるように努力を惜しまない。だから…」


『はーい! はーい! 良いところ、すまないね! タイムアップっ、だ…』


 ーーーーへ?


 ルカの一世一代の告白を間の抜けた言葉が邪魔をした。アンジェリアが驚き振り返ると、見たとこもない男性と、その男性の口を必死で押さえるルルドがうっすらと姿を現しつつあった。


 ーーーーコーション国に帰る時間だわ……


 アンジェリアが思ったよりも早いルルドのお迎えに落胆を浮かべるのと、ルカがアンジェリアの肩を強く抱くのは同時だった。


「ーー必ず、アンジェが思いのまま過ごせるように努力をするよ。だから、コーション国から離れる時は、僕を選んで。ずっと僕は、君のことが大好きだから」


「ルカ……」


 お邪魔なお迎えをもろともせず、ルカがアンジェリアに想いを告げる。アンジェリアもルカの真剣な眼差しと言葉に胸がいっぱいになり、ルカにぎゅーっと抱きついた。


 側では、見知らぬ男性がようやくルルドの手を払いのけて咳き込んだ。


『もう、ルルド、手加減してよね? はーい! はーい! そこの2人も、私を無視しなーい!』


「「……」」


 ルルドより少しだけ年上に見える最年はにこにこと、黙り混むアンジェリアとルカの目の前までやってきた。


『っ! 叔父上!! 空気をよんでくださいよ!』


 ルルドはくたびれたように、青年の後ろからペコッと黙礼をする。


 ーーーーへ? ルルドの叔父上って、サスティアル国王の弟殿下?!


 アンジェリアとルカは突然現れたサスティアル国王の弟殿下にあんぐりと口を開けて、その青年を見つめた。

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