3番目の婚約解消⑧ ルカとルルド
「本当に、空間の狭間から脱出できるなんて! 君、リアの婚約者殿だよね?! ありがとう!!」
突然目の前に現れたルルドとアンジェリアにルカは驚き、凍りついて動かない。
ルカとは反対に、ルルドは空間の狭間からの脱出に浮かれており、ルカの腕を掴むとブンブン振って感謝を伝えた。
「ーーあの~、ルカ、久しぶりーー」
アンジェリアが気不味いながらもルカに挨拶をすると、錆びたブリキのような動きでルカがアンジェリアをさらに凝視した。
ルカはガーライド王国の王宮で最後会話をした時よりもずっと背が伸び、アンジェリアと同じくらいの高さだった視線は見上げるほどになってしまった。けれども、アンジェリアが大好きだった天使のような柔らかい物腰、可愛らしさの名残は何となく残っていた。
ーーーー今は天界からやって来た王子様って感じ!
アンジェリアが想像していた以上の格好良さで、アンジェリアは自分はあまり変わっていないことがひどく恥ずかしくなってきた。
ーーーー昔から、ルカの方が綺麗だったものね…
「いやぁ、兄上には聞いていたけれど、本当に良い男だね! リアが夢中になるのも分かる!」
「ちょっ、ルルド?!」
空間の狭間からの脱出の興奮が冷めやらぬルルドは、余計なことまで口に出して笑った。ルルドもアンジェリアのように脱出できるまで多少は不安だったのだ。ただ、ルルドはサスティアル王族であり、アンジェリアよりも4歳歳上、動揺を悟られないようにしていた。
そんな、ホッとした表情のルルドにアンジェリアは怒る気を失ってしまった。今、アンジェリアが気にすべき人物はルルドではなく、固まったように動かないルカなのだから。
「ーーあの? ルカ?」
最初の一言以外の言葉を話そうとしないルカに、アンジェリアは心細くなった。ルカの側近または侍従と見られる青年も突然現れたアンジェリアとルルドに呆気にとられている。
ーーーーもしかして、タイミング悪い時にお邪魔しちゃったの??
「ごっ、ごめんなさい! 驚いたよね? い、今、すぐ戻るから!!」
「えっ?! リア、もう、戻るの?!」
アンジェリアは、動かないルカにそう結論付け、慌ててコーション国のオルソン公爵家に戻ろうと決めた。間違いなくオルソン公爵家では、アンジェリアとルルドが突然姿を消してパニックなっているはすである。急いで戻ることに越したことはないとアンジェリアは考えたのだ。
ーーーー数年振りに会えて嬉しいのは、私だけなのかも
さぁ、早く戻りましょうと、ルルドの転移魔法の展開をアンジェリアは促した。ルルドは急に戻ると言い出したアンジェリアに驚いたものの、拒否する理由もないため、そのままアンジェリアの手を取る。
「ーーっ!! 待って!!」
後一歩、遅ければアンジェリア達がコーション国に戻っていたというタイミングでようやくルカが慌てて動いた。
ーーーーあっ、しゃべった!
言葉を発しなかったルカにアンジェリアは、ホッとしたが、その後の行動にアンジェリアの理解が追い付いていかない。
アンジェリアがコーション国に戻ってしまう際にようやく慌てたルカは、ルルドと戻ろうとするアンジェリアの腕を引っ張ると、強い力で抱き込んだ。ぎゅっと音がするんじゃないかと思うくらいアンジェリアをルカの胸に押し付けてきたため、アンジェリアは呼吸が苦しい。
「ーーアンジェ、アンジェ…。本当に良かった。宝珠の気配が消えて、辿れなくなって…、アンジェに、何かあったんじゃないかと…良かった……」
消えてしまいそうなほど、弱々しい声でルカは何度も良かったと繰り返した。抱き込んだアンジェリアの頭や頬を撫で、何度もアンジェリアの存在を確かめている。
そんな光景に目を開いて驚いていたルルドも、一足先に我に返り、ルカの必死な様子に納得し始めた。
「あぁ、そうか! 宝珠の作り手には、リアの存在がこの世界から1度消えたことが伝わったんだね!」
そりゃ、驚いたよね? と1人ふむふむと納得してルルドは頷き始めた。アンジェリアといえば、急にルカに抱き込まれて何が起きたのか全く理解できない。アンジェリアはさっきのルカのようにフリーズしてしまった。
「なぜ、アンジェの気配が消えた? どうして、ここにいる?」
アンジェリアを抱き込んだまま、この情況がいまだに掴めないルカは、固まって動かなくなったアンジェリアよりも、ふざけた調子のルルドに話を聞くことにした。
「いやぁ、本当にリアが大好きなんだね! リアにちょっと手を出せば、きみの嫉妬心にブレスレットが反応して、きみの所に飛ばされると思ったんだ! ほんと、大当りだったよ!」
ーーーー!! ルルドー! 言葉の選択が不味いー!!
「なんだと……?!」
アンジェリアがルルドの発した言葉を慌て訂正しようとするよりも早く、ルカがルルドに対して敵意をあらわにした。
「あ、ごめん、ごめん…。ちょっと、話を盛っただけだよ!! ほら、とりあえずは、名乗らせて。ほら、剣から手を離して!!」
ルルドは、ルカの敵意にわざとらしく慌てた振りをした。
アンジェリアが抱き込まれた隙間からルカの腕の先を確認すると、器用にも手には剣が握られている。隙を見て、ルルドが動けば切りつける勢いだ。
「えっ?! ルカ、ちょっ、ちょっと! ルルドは私の従兄で、ルルド=シューベルト=サスティアル。怪しい者じゃないわ!」
ルカの腕の中から顔を出して、必死にアンジェリアがルルドが何者かを教えても、ルカはルルドに対して敵意を隠そうともしない。
しかし、横でおろおろと様子を見ていた青年は、行動が早かった。ルルドがサスティアル王族だと理解すると、直ぐにルカに駆け寄って来た。そして、飛びかかる勢いで、ルカがルルドに向かって剣を抜かないように必死に止めに入った。
「っ、正気ですか?! 相手はサスティアル王国の第二王子殿下ですよ?! ちょっと、落ち着いてください!!」
「アンジェから、離れろ!」
「いや、殿下が剣から手を離せば、私も殿下とお嬢様から離れますって!!」
ルカの側に駆け寄った青年は必死にルカの動きを止めようとするが、ルカと全く会話が噛み合わない。
「ーーぷっ! あはは!! きみ、ほんと、リアが大好きだよね? 面白い! それに、兄上が言っていたように嫉妬深いようだ!! なるほど、これは直ぐに宝珠が反応したわけだ!!」
当然、腹を抱えて笑い出したかと思えば、ルルドはかなり失礼なことをしゃべり出した。アンジェリアはいつ、ルカがルルドに怒りを爆発させるかひやひやしていたが、ルルドのお茶らけた様子を見て、アンジェリアも少し落ち着きを取り戻してきた。
ーーーーそうだ…、そもそもサスティアル王族を切りつけることなんて、誰も出来やしないのよ…
ルルドはきっと、自分の魔力で防御エリアを張っていると感じたアンジェリアは、ホッと肩の力を抜いた。アンジェリアですら、シャーナ公爵の加護を受けており、そうそう殺されることはないのだ。
まして、アンジェリアよりも王位継承権の高いルルドだ。アンジェリアが下手な心配をしなくても大丈夫だという確信があった。
「ごめんね? ルカ。所に急に来ちゃって。私、うっかり、転移魔法に失敗したみたい。それで、変な空間にルルドと一緒に飛ばされていたの。でも、脱出方法が全く分からなくて。だから、ルカの宝珠に頼るしかなくて…」
アンジェリアはとりあえず、笑い続ける失礼な従兄を無視して、ルカにアンジェリアがここへ飛ばされた経緯を伝えた。
「転移魔法? アンジェが?」
ようやくルカが聞く耳を持ったことに、止めに入った青年も安堵した。そして今度は無礼を働いてしまったルルドに向き合い、ペコペコと頭を下げた。
「サスティアル王国第二王子、ルルド殿下、お目にかかれ光栄です。そして無礼な振る舞い、大変申し訳ありませんでした。私は、グレイ=カイラルと申します。ここ、フォーガス国でルカ殿下の補佐をしておりますーー先ほどは、宝珠の持ち主のアンジェリア様が消えたと知り、ルカ殿下も少し動転しておりまして…」
ーーーーここ、フォーガスなの?!
アンジェリアが驚いて部屋中を見渡せば、確かにガーライド王国にあるセーシル公爵家ではないようだ。横では、いまだくすくすと笑いながら、ルルドがルカの補佐官と挨拶交わした。
「あぁ、急にお邪魔しちゃったのはこちらだからね? 気にしていないよ。リアも言っていたように私はサスティアル王族のルルドと言う。うっかり、空間の狭間から出られなくなってしまい、ルカ君の宝珠の力を借りてここにやって来た。驚かせてしまい、悪かったね?」
ルルドはアランと瓜二つな威圧感のある笑顔を浮かべると、ルカの補佐官はビックっと姿勢を正した。
ーーーーちょっと、補佐官を威圧してどうするのよ…
アンジェリアとルルドはルカにとって不法進入者に近い。それなのに、やたら偉そうな態度のルルドに、アンジェリアは深いため息をついた。そして、いつかサスティアル王族特有の傲慢さを正さなければならないと思った。
「アンジェは癒しの力を持ってると聞いていた。それが、なぜ、転移魔法を使うことになった?」
いまだにアンジェリアを腕の中にホールドした状態で、ルカも十分に偉そうにルルドに問いかけた。
横のグレイ補佐官は、格上相手に尊大な態度をとるルカに顔を真っ青にして、あわあわと意味のない言葉を発している。
ルルドはそんなルカの態度を気にすることもなく、ルカとアンジェリアの様子を見ていた。
そして、ルカはどこまでアランから情報を得ていて、どこまで説明すべきかを考えた。
ルカはフォーガス国の後継者候補になる際に、アランと面会している。なぜか兄アランはルカのことをいたく気に入っており、ちょくちょく連絡をやり取りしているはすだ。アンジェリアの情報で知らない事はほとんどないだろう。
兄アランがルカの人間性を認め、目にかけているのだ。隠し事はない方が良いだろうと、ルルドはアンジェリアが転移魔法を使うに至った経緯を説明し始めた。
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