3番目の婚約解消⑥ 誰も知らない空間の狭間
アンジェリアの転移魔法の狭間の空間は、ほんわか温かく、どこからともなくゆったりとした風が吹いていた。
「困ったなぁ…。僕の転移魔法は、リアのような狭間にとどまったことがないんだ。癒しの力が強いはずのリアが、転移魔法で複数人を移動出来るなんて思っても見なかったし…」
ルルドはそう言って、お手上げ状態だと首をふった。
「じゃぁ、サスティアル王国への転移魔法が開通するまでここにいなきゃいけないってこと…?ーーうっ、ごっ、ごめんね、ルルド。たっ、大変なことに、巻き込んじゃって」
転移魔法が得意なはずのルルドにもこの状況を打破出来そうもないと知り、アンジェリアは悲しくなってきた。サスティアル王国への転移魔法はいつ開かれるのか、それまで無事でいられるのか分からなくて不安でいっぱいになったのだ。
「リア、そんなに落ち込まないで。元はと言えば、僕の暴走が悪かったんだから…。それにしても、この空間はいつまで続くんだろう? リアの魔力切れで元の場所に戻れるのかもよ?」
弱気になったアンジェリアを励ますように、ルルドは努めて明るく振る舞った。
サスティアル王国、王位継承権の第2位と第5位が行方不明になったのだ。この空間の外では、居なくなった2人を探してナサルが怒り狂っているかもしれない。そう考えたルルドは、戻ったらかなり怒られると予想し、もう少しだけ、この空間で過ごしても良いかなと思った。
「ルルドが戻らないと、サスティアル王国の人達が心配するでしょ? いつもは手紙を渡した後、直ぐにサスティアル王国に戻るじゃない…」
アンジェリアはルルドが行方不明になって、サスティアル国王が大陸中に大捜索をかけるのではないかと思って心配した。
「確かに、戻らなくちゃ探すかもしれないけど…。それはリアも同じでしょ? リアを心配して父上が大陸中、ひっくり返しちゃうかもよ?」
ルルドは笑いながら、そう言うとアンジェリアの肩をとんとんと叩いた。知らず知らずにアンジェリアは気が張り詰めていたようだ。ルルドの魔力で少しだけ肩が軽くなった。
「ごめんなさい。そして、ありがとう」
「いえいえ。僕はこう見ても、リアよりも歳上のお兄さんだからね?」
アンジェリアとルルドが飛ばされた空間の狭間は、真っ白な雲に乗っているかのようで、とても座り心地が良い。2人はいつ脱出できるのか分からないのだからと、そこに座り込み体力を温存することにした。
「さて、リア。サスティアル王国が心配すると気にかけていたけれど、恐らくすでにナサルから報告が行っていると思う。ナサルは兄上との連絡用に特別な鏡を受け取っているはずだ。リアに何かあれば、直ぐに兄上に連絡が行くだろう」
「鏡?」
アンジェリアは初めて聞く、連絡手段に興味を示し、ぐっとルルドに詰め寄った。
「あはは、リアは、監視されていたとは思わないんだね? うん、よろしい! 鏡はもちろん、リアの監視ではなく、安全を確認するためのツールだよ。鏡は使わない時は蓋をされていて、連絡が必要になった時だけ、開けるんだ。すると相手側は魔力によって鏡に呼ばれて、まるで対面にいるかのように会話が出来るんだ」
「すごく便利なのね! それがあればガーライド王国の家族とやり取りができるのに!」
アンジェリアは何日もかかる手紙ではなく、直接顔を見ることができる鏡の話に夢中になった。アンジェリアは家族とはもう6年近く顔を会わせていない。
「そうだね? だけれど、鏡は片方がサスティアル王国にあることが条件なんだ。それに鏡はサスティアル王族が認めた人間しか扱えない…」
「ーー、そうなんだ…」
アンジェリアの思い付いたことを、ルルドは分かっていた。離れた家族の顔を見たいという、アンジェリアの切ない気持ちを叶えられなく、ルルドは申し訳なくなった。
「ーー、今頃兄上の耳に、僕達の事が入っているはずだよ? 急いで、サスティアル王国側の転移魔法を開通してくれるかもしれないし…」
ルルドはアンジェリアを励ますために嘘をついた。転移魔法の開通は、想像以上に時間がかかる。恐らく、自力でこの空間からの脱出を図るか、アンジェリアの魔力切れを待つことになるだろう。アンジェリアにも、何となくルルドが励ますために気を使っていることが伝わり、申し訳なくなった。
「あの、魔力切れって…、さっき言ってたことなんだけれど。それって、どういうことになるの?」
アンジェリアはここからの脱出方法としてルルドが言っていた魔力切れを、何とか早めるとこは出来ないかと思ったのだ。
「魔力切れはね、本人にかなりの負担がかかるんだ…魔力の量にもよるけれど、2、3日または数ヵ月まで寝込むこともあるそうだよ…もちろん、痛みとかはなくて、ただ混沌と眠りにつくだけ…」
「…」
アンジェリアは思った以上の代償にショックを受けた。数日ならまだしも数ヵ月寝込むとは笑えない。話を聞いて顔が引きつったアンジェリアを眺めながら、ルルドは他の脱出方法はないか考え始めた。
「ーー、僕の場合、転移魔法は行きたいところに直ぐ繋がるんだ。だけれど、リアのような転移魔法に特化していない人間ならば、相手に引っ張ってもらう必要が出てくる。サスティアル王国側の転移魔法の開通は正にこれにあたる。魔方陣を完成させて、リアをサスティアル王国側に引き寄せる感覚に近いかな」
ルルドの話に、魔力の切れるのを待つ以外の方法を探してくれているとなんとなく感じ、アンジェリアは胸を撫で下ろした。数ヵ月間眠りにつくのはさすがに御免だ。
「誰かが魔力で引き寄せてくれれば良いの? なら、アランとかナサルは? 2人とも転移魔法を私が使ったって知ってるよね? 2人なら魔力もあるし、引っ張ってもらえるんじゃ…」
アンジェリアが藁にもすがる思いでルルドに問いかけると、残念ながらルルドは首を横に振った。
「僕達がコーション国のオルソン公爵家の庭園にいれば、アンジェリアの魔力であっても、兄上がサスティアル王国へ無理やり転移させられたかも。だけれど、ここは兄上も関知しない場所だ。知らない空間から僕達を自分のいる所に引き寄せるのは至難の技だよ」
出来れば国を担う兄上にはそんな無茶をさせたくないと、ルルドは深いため息をついた。ルルドの様子に、アンジェリアはなおさら早くこの空間から出なくてはならないと一層不安になった。
「…じゃぁ、アランがルルドを探すために無茶をしないためにも、何とかしてここからでなくちゃ…」
しかし、アンジェリアの目の前は果てしない白の空間が広がるのみ。名前のない空間の狭間から2人を引き寄せてくれる人間なんて、アンジェリアは思い付かなかった。
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