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3番目の婚約解消④ ダイアナとのティータイム

ダイアナとのティータイムは鬼門です。

「あら、アンジェリア様とご一緒なのは、サスティアル王国のルルド殿下ではございませんか?」


アンジェリアがルルドからの贈り物に気が反られて、ぶつぶつ文句を言っていると、後ろから透き通るような優しい音色の声に呼び掛けられた。


「こんにちは、オルソン公爵夫人。久しぶりだね。勝手にお家にお邪魔しているよーーそれと、小さなレディ、ルーシちゃんもこんにちは」


 アンジェリアは突然のルルドの訪問に気が反られ、ダイアナとルーシがテーブルの側まで来たことに全然気がつかなかった。

 一方、声をかけられた当のルルドは気配を感じていたらしく、驚いた素振りは微塵も感じなく爽やかにダイアナに挨拶を返した。


 ーーーーさすがサスティアル王国の王子様だわ…


 淑女キラーとも言うべくキラキラな笑顔を振り撒くルルドにアンジェリアは酷く感心した。そして、自分もサスティアル王族なのだから、気配をよんだり、周りを探索できるような能力が欲しいなと強く思った。


「お、王子さま! こ、こんにちは!」


 ルルドのキラースマイルに顔を真っ赤にしたルーシが、緊張しながら可愛らしく挨拶を返した。アンジェリアはそんなルーシを眺めていて、ひどく懐かしさを感じた。


 ーーーー私も5歳の時、ルカに会うたびに、どきどきしていたっけ


 ルカと一緒に過ごした日々が、ものすごく遠くの過去の出来事のように思え、アンジェリアは少し寂しさを覚えた。


「せっかくですから、ルルド殿下もティータイムをご一緒いたしませんか? ね? アンジェリア様もよろしいでしょう?」


「えぇ、是非ともご一緒させてください。リア、良いよね?」


 ダイアナの提案にルルドはすぐに頷くと、自分の王宮でもないのにお茶の指示をアンナにだした。


 ーーーー本当に、サスティアルの王族は遠慮っていう感性がかけてるわ


 アンジェリアはルルドの様子に苦笑いすると、マリアナにサスティアル産のチョコレートをお茶請けに出すようお願いした。


「ルーシには多めに、ね。それと、部屋に戻ってからも食べられるように少し包んでおいてあげて」


「ふふ…、かしこまりました。って、なんだかアンジェったら、お姉さんぶってる…っ!」


「そこ! こそこそしないで、仲間に入れてよ? ねぇ、ルーシちゃんもそう思うよね?」


 アンジェリアとマリアナがこそこそ話していると、面白くなさそうにルルドが口を挟んだ。マリアナはそんなルルドを胡散臭そうに見返す。


「まぁまぁ、本当にアンジェリア様とルルド殿下は仲がよろしいこと。これでは、レオン殿下が妬いてしまっても怒れないわ…」


「なんで、レオンが? ダイアナ様ったら、変なこと言うとレオンに怒られますよ! あの人、最近、口うるさいんだから…」


 ダイアナがそんなアンジェリアの言葉を聞いて苦笑しながら、優雅な仕草でアンナが用意した紅茶に手をつけた。ルーシはルルドに声をかけられて、やっと収まった顔がまた真っ赤になっている。

 アンジェリアといえば、なぜレオンがルルドを妬くのかが全くわからない。

 アンジェリアはチラチラとルルドを眺めるルーシを観察しながら、歳も離れ、身分にも差のあるルーシの初恋にため息をついた。


 ーーーー本当に、罪作りな王子様だわ


 アンジェリアが、ルーシとルルドの会話でも取り持とうかな…なんてお節介な考えを巡らせていた時、ルーシが突然自分から話出した。

 アンジェリアは小さなレディの頑張りに微笑ましく思ったが、その内容には動きが止まった。


「あ、あの! アンジェリア様は、るっ、ルルド様のことが、すっ、好き、なのですか?! お兄様の、婚約者なのに!!」


 ーーーーはぁ? なんで、今?! その、質問?!


 ルーシが言葉に詰まりながらも質問をアンジェリアに投げ掛けると、その場にいた人間は凍りついた。

 小さな淑女は恋心を抱いたルルドとアンジェリアの仲が気になり、軽く牽制をかけたつもりなのだろうか。しかし、あまりにも静まり返ったティータイムにルーシ自身もびっくりし青ざめた顔をしている。


 ーーーーこれは、私がこの場を打破しないといけないわよね…


「…ルーシは、とても素直なのね? 幼い時はいろんな事に興味を持って当然だわ…。そうね、今はレオン殿下の婚約者候補として、ここで暮らしているけれど…。レオン殿下は私よりも、もっと素敵な女性が似合うと思うわ。それにルルドは、何かと私の事をからかっているだけよ?」


 ーーーーこれで、1回、引いて!!


 アンジェリアは適当に誤魔化した返事を返した。現在、アンジェリアはルーシの父、ルーファスの元婚約者でレオンの婚約者候補なのだ。正確な立ち位置としては、ガーライド王国からの人質。ちょっと複雑なその背景を、5歳のルーシに説明しても理解は難しいだろう。


「うっ…、じゃ、じゃぁ! アンジェリア様は誰の婚約者なら満足なの? ルルド殿下じゃ、嫌なの?」


 ーーーー小さな子供の好奇心は、果てしないわね…


 アンジェリアは、ルーシの質問をどうにか交わそうとしたが、恋する小さな淑女ルーシの追求は終わらなかった。

 そんなルーシのさらなる発言をどうにか止めようと、ルーシの乳母が駆け寄ってきた。ダイアナは先程の優雅な振る舞いなどどこかに置いてきたのか、顔に青筋が浮いている。


「なっ、な、ルーシ!! もう、目上の方になんてことを!!」 


「アンジェリア様、大変申し訳ありません! ルーシ様には、ちきんと後で言い聞かせます上、何卒、ご容赦くださいませ!」


 ダイアナと乳母が慌てふためいてアンジェリアに謝罪を述べても、ルーシ自身では謝罪の言葉を口にしない。そんなルーシに、ダイアナも顔を青くし、ルーシの乳母もこれ以上無いってくらい頭を下げて謝罪した。


 いくら、曰く付きのお姫様のルーシでも言って良い言葉は周りが教えておくべきだ。

 アンジェリアはコーション国とエステニア国のせいで、幼馴染みとの婚約解消をさせられて、無理にコーション国に人質として連れてこられたのである。アンジェリアの婚約者をコロコロ変えているのはコーション国なのだ。

 けれども、小さなルーシにはエステニア国だの、ベイガザード王国の企みだのを説明するのは、まだ、早いのかもしれない。

 アンジェリアは直接ルーシに叱りはせず、後でダイアナから謝罪を受けそれで済ませようと思った。


 しかし、アンジェリアは失念してしまっていた。アンジェリアの待遇には一際うるさい、サスティアル王国の者が2人も同席していたことに。


「そなたは誰に者を申しておるのだ?」


 今まで護衛としてアンジェリアの後ろに控え、気配を隠してたナサルが静かにルーシを非難し始めた。


 ーーーーげっ! まずいかも…


突然、非難を始めたナサルに一瞬ルーシは驚いた顔を見せた。しかし、怒られたと分かったルーシは謝罪をせずに、とんでもない言い訳を始めた。


「ーーっ! あ、あの! アンジェリア様がお兄様の婚約者になるのかもって、噂されてるのを聞いて…。なのに、ルルド様と仲良くするなんて、なんかひどいって!! ーーそれに私、聞いたんです! アンジェリア様が、お母様を陥れたって!!」


 これには、アンジェリアも驚きを越えて呆気に取られてしまい、何をどう訂正すべきか言葉に詰まってしまった。

 ルーシの後見人のダイアナは、あまりの出来事にショックを受け、顔が白くなり始めている。


「ーーはぁ?! 何言ってるの、このガキ?」


「ちょ、ちょっと、ルルド。相手は5歳の…」


それまで、傍観していたルルドまでも、ナサル同様にルーシに向かって怒りをあらわに怒り出した。流石に、大好きな王子様に叱られては可愛そうだと、アンジェリアは声をあげるが、衝撃の余りに言葉が続かない。


「あぁ、でも、5歳だろうが、コーション国の王族に連なるものだ。発言には責任がある!」


 アンジェリアの宥めも空しく、さっきまでにこにことふざけていたルルドまでもが怒りの形相へ変わった。

 この場をどうにか取り繕おうと、ルーシの乳母もアワアワしているが、空気が重く発言できない。ルルドの怒りが魔力を放出させて、周囲の人間に流れ込み、言葉を発することができないのだ。


 アンジェリアは涙目になりながらも、美形って怒ると怖いな…なんて、現実逃避したくなった。

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